第7話:秘匿機1
ミライミナト湾岸部―――
日本担当ガーディアン『人工知能バクフ』を支援するべく、同盟国であるアメリカ担当ガーディアン『人工知能フロンティア』が送り込んできた、米軍AI機KF-18ホーネットの殲滅が完了した。
世界最強をうたわれる米軍有人機部隊を、一瞬で崩壊させたフロンティアの手兵に、ヴァルキリー隊は奇策を用いたものの完全勝利を遂げたのだった。
首都東京への―――バクフ強襲への後顧の憂いは、これで消えたかと思われた。
だが、これで終わりではなかった。フロンティアには、まだ隠し球があった。それはタカハネ=サツキが『真の悪』と名指しした、アメリカの国家機密―――『秘匿機』がヴァルキリー隊を討つべく、その姿を現したのだった。
「みんな、すまない……」
円陣を組む様に、海上にたたずむ五機の人馬戦車。その指揮官であるリンの言葉は、勝軍の将の第一声としては、あまりに寂しいものだった。
「ほんと、勝手な事してくれちゃって」
それに対するアカネの返しは容赦がない。リンがともに戦おうと誓いあった仲間である自分たちを、戦線から遠ざけようとした事が、よほど癇にさわった様である。
すかさずカノンは、リンの行動は皆を庇うためだと抗弁しようと思ったが、その後すぐにアカネはケロリと言った。
「でも許したげるわ……仲間だからね」
仲間―――その一言ですべてのわだかまりは溶けた。
「もうアカネはー、たまにはいい事言うのですよ」
「たまにはって、なによ!」
チトセの茶化しに、アカネが反応すると、
「アカネさん、素敵です!」
「リン……もうこういう事は、これっきりにしてね」
シオン、ミユウも次々に口を開いた。
「私たちは、これからも一心同体ですね」
最後にアオイが放った決め台詞に、
「ありがとう……みんな」
今度は謝罪ではなく、感謝の言葉をリンは皆に送った。
ヴァルキリー隊が、ようやく勝利の歓喜に包まれようとする、その空気を一変させる存在を見つけたのは、人工知能バクフの制御室で戦況を見守っていたサツキであった。
「―――!まさか、こんな近くに潜んでいたなんて!」
突然の叫びを上げたサツキに、
「あん?どうしたんすか?」
相変わらずの間の抜けた調子で、同席者のキサラギ=ヤヨイはその理由を問いかけた。
だが厳しい目つきをしたまま、サツキがそれに答えないと、ヤヨイはモニターに目を移し、「あっ……」と緊張感のない声を漏らした。
サツキとともに、ヤヨイも見つけたのだ―――戦場を映す無数のモニターの中にある、湾岸部外郭の映像に、漆黒の人馬戦車が、いつの間にか存在している事を。
「あー、中ボス倒しちゃったから、大ボスの登場っすねー。しっかし、いつの間にここまで来たんすかね?」
「来たんじゃないわ……ずっといたのよ、あそこに。そしてホーネットが倒された時の事態に備えて、息を殺していたに違いないわ」
ヤヨイの疑問に、サツキはそう即答した。それはまるで、この事を読みきれなかった自分を、策略家の視点から責めている様な口ぶりでもあった。
「ナツギから逃走したホーネットは、シチガヤの衛星レーダーでも、すぐにキャッチできたっすよ。あいつだって一緒にミライミナトに向かっていたのなら、あいつだけレーダーの網にかからず隠れていられたなんて、筋が通らないっすよ」
ヤヨイは展開の矛盾を指摘する。だがサツキはそれに対して、現状から読み解いた、事態がここに至るまでの経緯を理路整然と説明した。
「電子攻撃よ……当初、ホーネットがレーダーに身をさらしていたのは、威嚇行為を意識しての事だと思ってたわ。でもその本当の狙いは、あの秘匿機―――タイガーシャークを隠す事だけに、レーダー撹乱を集中させるため……ホーネットを囮に使ったのよ……してやられたわ」
「ホーネットが囮……マジっすか……?」
「フロンティアが、ただ一機を隠すためだけに電子攻撃に集中すれば、シチガヤのレーダー程度ではそれは破れないわ」
「シチガヤのレーダーって、一応日本最強なんすけどね……」
ヤヨイは自身も所属する、首都防衛の要であるシチガヤ駐屯地のレーダーが、フロンティアに一捻りにされた事実に、ため息を漏らした。
「それにタイガーシャークには、開発中のステルスパーツも多数装備されているはず。それの効果も大きかったはずよ。あれも一応、第四世代機だけど、実質はもう第四.五世代機と言ってもいいわ」
「よんてんご……ところで、そのタイガーシャークって、あの機体の名前っすか?」
ヤヨイからの質問に、サツキは宙を睨みつける。そして忌々しげに、秘匿機について語り始めた。
「そう……あれはKF-20タイガーシャーク……あれこそが人類が作り上げた、新たなるバベルの塔―――人類の未来を脅かしかねない、『真の悪』よ」




