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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第6話:海上の攻防7

 レーダーでホーネット隊は、その接近を察知していたのだろう。すでに機体をヒューマンモードに変形させて、海上をホバー浮遊した状態で、ヴァルキリー隊を出迎えた。


 だが、いきなり射撃を加えてくる様な事はなく、その姿勢は守勢そのものであり、やはりこちらから敵対行動を取らない限りは仕掛けてはこない様子で、どうやらリンの読みは正しかった様である。


「では、いくぞ……ファントム以外は、皆、現状の位置で待機。私の指示を待て」


 湾岸部に到着するなりリンはそう言い残すと、タンクモードからヒューマンモードに変形したトムキャットを、すぐに海上に進めた。そして起爆装置を搭載した二十四機のファルコンも、ヒューマンモードに変形しながら、その後にぞろぞろと続いていく。


 それはヴァルキリー隊の全員に、一切の撃破を禁じた事に関する、反論の機会を与えない、まるで逃げる様なリンの動きであった。


「あいつ……米軍に攻撃を仕掛けた責任を……全部一人で背負うつもりよ……」


 アカネの脳裏に、『私一機で打って出る!』と言ったリンの言葉がよみがえる。それを先程、アオイに向けて茶化してみせたアカネだったが、リンの決意を受けて、ギリリと奥歯を噛みしめた―――本気だったの?でもここまできて、自分一人だけが犠牲になるなんて……それはないんじゃないの!?―――その思いは、皆、同じであった。


 だが、ここは戦場。感傷にひたる時間はない。


「アカネ、遅れるよ。行こう!」


 それでも感情を押し殺して、アオイはアカネの進発を促した。


 アオイの言う通りだ―――ここで作戦が乱れれば、リンの思いが無駄になる。アカネもN型ファントムを、ヒューマンモードに変形させると、高鳴る鼓動を胸に海上へと進入していった。


 トムキャットとファントム以外は、機関砲を持たない丸腰のファルコンで構成された、二十六機の異様な人馬戦車ケンタウロスが、ホーネットの陣に静かに割り込んでいく。


 その最中、トムキャットのコクピットで、リンは忙しくキーボードを叩きながら、前席のカノンに語りかける。


「米軍機殲滅の責めは、私一人で負うつもりだったが……カノン、お前だけは巻き込んでしまわねばならない……許してくれ」


 後席の管制システムで、起爆装置搭載のファルコンを操り、ホーネット部隊の大部分をリンの手で葬る作戦だが、残りの敵機掃討をトムキャットのみで行うとしても、その操縦士であるカノンだけは、必然的に共犯者となってしまう―――リンは、その事を詫びているのだった。


「なにを仰います、リン様……私は、幼き頃よりリン様の従者としてお仕えして参りました身……そのリン様のために働けるのならば、このマキナ=カノン―――どの様な地獄であろうと、お供つかまつりますわ!」


「すまない……カノン」


 己の従者の、揺るぎない忠誠心に触れ、リンは胸が熱くなった。だが今は、感情に左右される時ではないとばかりに、


「さあリン様、着きましたわ。ここからが勝負です!」


 カノンは目標ポイントである、展開するホーネット部隊の、ちょうどど真ん中に、機体が到達した事を告げた。先程のアオイ同様、カノンも感情を押し殺しながら、作戦の成功に向けて、リンの背中を押したのだった。


 湾岸部では、待機しているミユウたちが、固唾を呑んで戦況を見守っていた。


 湾岸部から距離を取った海上に布陣した、四十二機のホーネットの中に、二十六機の味方機が進入したまま、双方まったく動かない展開―――静寂さえ感じるその風景は、戦場としては不気味そのものであった。


 非武装で、敵対行動の素振りさえ見せないファルコンに、ホーネットを制御する『人工知能フロンティア』は、まったく手を出してこない。機関砲を装備しているが、同様に静観を貫いているトムキャットとファントムに対しても、その対応は同様であった。


 だが、戦闘は始まっていた―――


 フロンティアは、日本への援軍というスタンスを遵守しているため、受け身の姿勢でいるが、敵対行動の対象となっている日本担当ガーディアン『人工知能バクフ』の事情は違う。


「来たか!」


 リンが叫ぶ。それはバクフからの電子攻撃―――新型AIを搭載したファルコンへの、ハッキングが開始された事を意味していた。


 バクフが現在、日本全土を制圧しているのは、このハッキング攻撃で、国内のAI機をほぼすべて、手中に収めたからである。


 一度はそのハッキングに落ちたリンたちであったが、試行錯誤の末、そのシステムを根本から見直した、対抗型AIを完成させて今ここに至っている。


 だがその解析に手間取るとはいえ、電子防護なしでは、いつまでバクフからのハッキングを凌げるか分からない。もしここで、ファルコンをバクフに奪われてしまえば、すべては水泡に帰してしまうのだ。


 熾烈を極めるバクフからの電子攻撃―――それをリンはトムキャットの電子戦システムを駆使して、懸命に阻止している。そして同時に、二十四機のファルコンのAI制御も行うリンの管制力は、もはや神業といっても過言ではなかった。


 その頃、トムキャットと背中合わせのファントムのコクピットでは、アオイが電子攻撃を―――世界最強の人工知能であるフロンティアに向けて、ホーネットの制御権を奪うハッキング攻撃を仕掛けていた。


 トムキャットと違い、支援機を湾岸部においてきたアオイは、ファントムが所定位置につくやいなや、凄まじい速度でキーボードを叩き続け、電子攻撃に集中した。


 その気迫にアカネは、息を殺してその姿を見守るしかなかった。だが初めて出る海、そして慣れないホバリングの感覚―――機体の制動をわずかでも乱せば、アオイの作業に支障が出るかと思うと、待つ身ながら一瞬でも気の抜けない状況に、アカネのヘルメットの中は冷や汗で満たされていった。


 この状況を当然、タカハネ=サツキもバクフの制御室のモニターで見守っていた。


「ぴーんぽーん、キサラギでーっす。入れてくださーいっす」


 そこに間の抜けた声が、スピーカーから響き渡った。


 サツキは顔色を変えないまま制御室の扉を開錠すると、サツキと日本政府との交渉役であるキサラギ=ヤヨイ少佐が、まるで我が家のごとく無遠慮にずかずか入ってくると、サツキの隣の席にずっかと座り込んだ。


「こんにちは、キサラギ少佐。今日のご用件は何かしら?」


「あっ、別にアンタに用はないっすよ。ただヴァルキリーの奴らが動き出したっていうんで、見るならここが一番だと思って来ただけっすよ」


 戦況を映し出す無数のモニター。確かにヤヨイの言う通り、観戦において、ここ以上の環境は他になかった。


「あらそう。でも今日もお茶の用意はないけど、それでもよくて?」


「あー大丈夫っす。そう思って持参してきたっすよ」


 そう言いながら、ヤヨイは本当に持参してきたペットボトルとお菓子の手さげを、誇らしげにサツキに見せつけた。お互いに人を食った二人だが、今回はヤヨイの方が一枚上手だった様だ。


「よかったら一緒に食べます?あっ、別に毒とか入ってないっすよ」


「遠慮しておくわ」


「そうっすか」


 そう言い終えると、ヤヨイは持参したスナック菓子の袋を、景気よく開けた。


 その頃、湾岸部では沈黙の電子戦が、十五分を超えようとしていた。


 いまだアオイは、ホーネットへのハッキングに成功しない。だが相手は世界最強の人工知能―――たとえ苦戦しても、致し方ない強敵であった。


 そしてリンも、バクフからのハッキングを電子防護で防ぎ続けている。だが次第に押され始めてきた。このままでは、こちらが先にファルコンの制御権を奪われてしまう―――皆が、アオイの電子攻撃の成功を、祈る気持ちで待ち続けた。


「なんすか、あれ?」


 モニターの中の動かぬ戦況に、ふた袋目のスナック菓子を開けながら、ヤヨイが呟いた。


「電子戦よ―――」


「ああ……でもフロンティア相手に電子攻撃っすか……まあ狙いとしては、悪くないっすけど……」


 サツキからの答えに、ヤヨイはモグモグと口を動かしながら、半信半疑であった。いや、どちらかといえば、そんな事できっこないという心境であった。


 常識で考えれば、到底越える事のできない壁―――だが金色こんじきの戦乙女たちは、その壁を打ち壊した。


「リン大佐―――奪いました!」


 ヴァルキリー隊各機に、アオイの叫びが響き渡る。


 次の瞬間、サツキとヤヨイが見守るモニターが、一面の閃光に包まれた。




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