第6話:海上の攻防5
誰もが耳を疑った。いくらトムキャットが海戦対応機とはいえ、四十二機のホーネットに、たった一機で挑むなど、それこそ狂気の沙汰であった。
そんな一同の不安な様子を見て、リンはクスリと笑うと、
「みんな、そんな顔をするな。一機といっても有人機は、という意味だ。今回は私も二十四機の支援機を引き連れていく」
と、自身が一機で打って出ると言った真意を説明した。
そしてリンの言葉に、「という事は!」と、すかさずシオンが反応すると、
「そうだ。ようやくガーディアンの支援制御を必要としない、オリジナルのAIを搭載する目処が立った。もちろん試作型なので、試験運用も兼ねてという事になるが、やるしかあるまい」
リンは、バクフのハッキングを警戒して、運用を中止していたAI支援機に搭載するための、独自開発のAIが完成した事を発表した。
従来、有人機に随伴するAI支援機は、指揮官機の管制によって行動するという建前だが、実際はその大部分を人工知能である、ガーディアンシステムの制御に委ねていたのが実情であった。
そのおかげで、人馬戦車は第四世代機より、単座機でも支援機を制御できる利便性を手に入れたが、そのガーディアンへの依存によって、日本は『人工知能バクフ』に、全土のAI支援機をハッキングで奪われるという『電脳謀反』を引き起こされてしまった。
当初、タカハネ=サツキからの密告もあり、リンたちミライミナト駐屯地は、支援機のAI書き換えという手段で、一時的にそのハッキングを免れていたが、謀反の第二段階において駐屯地内でAI機を暴走させられるという事態に及んで、支援機のAIを取り外し、その運用を中止していた。
だが、首都強襲を期するリンたちにとって、支援機の必要性は絶対であり、水面下でガーディアンの干渉を受けない、オリジナルのAIを開発していたのだった。
技術班により、それが完成したと告げたリンの言葉に、一同の顔に希望の色が浮かんだ―――それは支援機なしでの戦闘が、いかに困難であるかを裏付けるものでもあった。
「いやー、それを聞いて安心したのですよ。ここのところの支援機なしでの戦闘は、正直しんどかったのですよ」
チトセは皆の気持ちを代表する様に、ひときわ明るい声を発したが、その後すぐに「しかしなのですよ―――」と、神妙な面持ちを作ると、
「トムキャットは二十四機の支援機を制御できるので、リン大佐がそれを率いて、海上に乗り込むというのは納得なのですが……使える支援機はファルコン―――陸戦機なのですよ」
少し気まずそうに、リンの提唱した海上侵攻策の問題点を指摘した。
前述の通り、ホバーを搭載した第四世代機であるファルコンなら、海戦機に及ばずとも理論上の海上走行は可能である。だが着水機能を持たないそれが、どこまで役に立つのか―――わずか一回の転倒でも、ファルコンはもう戦線に復帰はできないのだ。
「やはり、そう思うだろうな。まったくもって正論だ。だが秘策がある」
秘策―――リンは静かに微笑みながら、そう言った。その微笑みに気圧される様に、一同に緊張が走る。
「確かにファルコンは陸戦機だ。もし海上でホーネットと四つに組んだら、おそらくすぐに海に落とされて終わりだろう―――だから今回、ファルコンに戦闘はさせん」
支援機として随伴させるのに、戦闘はさせない―――その矛盾したリンの説明に一同は、その意図が理解できずに戸惑うばかりとなり、アカネに至っては、ポカーンと口を開けてしまう始末であった。
あまりに謎かけの様な言い回しに、隣のミユウが苦笑いを見せると、リンもようやく空気を読んで、
「すまない、ちゃんと説明しよう」
と、自身が表明した『秘策』についての説明を始めた。
「これは賭けだが、ホーネットは―――その背後にいるフロンティアは、こちらが敵対行動をとらない限り、おそらく攻撃を仕掛けてはこない。それは先の戦闘からみて、おそらく間違いないだろう」
確かにフロンティアは、米軍追撃部隊に対しても、その戦闘力を無効化して以降は、攻撃を仕掛けなかった。フロンティアが、あくまでバクフに対する援軍というスタンスを遵守している事に、リンは目をつけたのだ。
「よって私に随伴するファルコン二十四機は、武装をしないまま海上に進入させる」
「確かに武装解除をしていれば、ホーネットが撃ってこないという可能性はありますが……でもそれで、どうやってホーネットを撃破するのですか?」
リンの言葉に、当然の疑問をすかさずシオンが投げかけた。
「うむ……ファルコンは武装はしないが―――内部に起爆装置を搭載させる。そして敵対意思がないと、誤認したホーネットの隙を突いて、一斉にファルコンをホーネットにぶつけて、もろともに破壊する!―――言わば人馬戦車を使った、ミサイル攻撃を仕掛けると思ってもらっていい!」
リンは、あれほどの精強を誇るホーネット部隊が、その敵対意思を確認するまでに、米軍が放ったミサイルに為す術なく撃破された事に、着想を得たのであった。
起爆装置による人馬戦車のミサイル化―――そのあまりに大胆な発想に、一同の動揺が広がる前に、リンはさらに言葉を重ねた。
「だがもちろん問題はある。音速のミサイルと違い、人馬戦車の動きは、あまりに遅い。しかも陸戦機であるファルコンでは、隙を突いてもホーネットにかわされる可能性も否定できない。よって、ホーネットに対して足止めのためのハッキングを―――電子攻撃を仕掛ける!」
そして、リンは視線を移し、
「アオイ、頼めるか?」
と、先のマザ駐屯地制圧戦で、敵ファルコン部隊のハッキングを見事に成功させた、アオイに向かって問いかけた。
「は、はい!おまかせください!」
突然の事ながら、心酔するリンからの指名に、アオイは天にも昇る心地で、その難題に対して即答で請け負った。その浮かれっぷりにアカネは苦り顔を見せたが、もはやそれはアオイの眼中に入らなかった。
どちらにしても、世界最強と目される人工知能、フロンティアと渡り合えるのは、アオイ以外に考えられない。
「すまない……この作戦の成否は、この電子戦にかかっていると言っても過言ではない。当然バクフからも、こちらのファルコンに対してのハッキングが予想される。よって私はファルコンとともに、海上のホーネットの陣に入りながら、バクフからの電子攻撃に対する電子防護に集中する。ファントムもトムキャットに随伴しながら、同時進行でホーネットに電子攻撃を仕掛けてくれ―――」
「ちょっと待って!」
リンの言葉を遮る様に、アカネが割って入る。
「ファントムがトムキャットに随伴って、ファントムはホバーさえ付いてないんだから、海に入れるわけないじゃない!」
アカネの至極当然な抗議に、リンはニヤリと笑う。
「大丈夫だ。ちゃんと用意をしている―――N型を」
「用意って……N型ってなによ?」
「KF-4N……ファントムの海戦仕様機だ」




