第6話:海上の攻防4
「どう、アカネ?いけそう?」
「まあまあね……でも実際、海に出るのはこれが初めてだから、ぶっつけ本番みたいなもんよね」
ファントムのコクピットで、アオイからの問いかけに、緊張気味の声でアカネが答えた。
今、ヴァルキリー隊は、ミライミナト湾岸部に陣を張り続ける、アメリカ担当ガーディアン『人工知能フロンティア』の制御下に置かれたAI機、KF-18ホーネット四十二機を討伐するべく、ミライミナト駐屯地を進発している。
バクフにAI機をハッキングされる事を避けるべく、独自改良を加えたAIの搭載を終えた支援機、KF-16ホーネットもその後に続いている。その総機体数四十一機―――まさに総力戦であった。
葛藤の末、行く手を阻むホーネットを―――同盟国アメリカのAI機を、先制攻撃で撃破する事をリンは決断した。
そのホーネットは、リンたちが首都東京へ動くなら、即座にその背後を突くべく、湾岸部の海上を漂いながら、その牙を研いでいる―――その敵陣に乗り込むという事は、今回の戦いが海上戦になるという事を意味していた。
自衛軍の装備は、従来すべて陸戦兵器。海上防衛は、すべて同盟国アメリカの空母部隊に委任していたために、海上戦の経験など皆無であった。
湾岸部へ部隊を進める、リンたちヴァルキリー隊は、日本初の人馬戦車による海上戦に挑もうとしていたのだ。
時は遡り、リンがミユウとの協議で、ホーネット部隊への先制攻撃を決断した翌日―――
ヴァルキリー隊各員及び、ミライミナト駐屯地の人馬戦車部隊の総員が、ブリーフィングルームに集められた。
「我らが首都東京を―――バクフを打倒するためには、あのホーネット部隊を撃破せねばならない!この前の交戦は、偶発的な側面もあったが今度は……明らかな敵対行動として、米軍機に先制攻撃を仕掛ける!」
リンの決然とした宣言に、一同は息を呑んだ。だが米軍に戦闘を仕掛けるという重大事ながら、リンの瞳には一片の迷いの色もなかった。
そしてリンが一同を見渡すと、皆、無言でそれに頷いた。リンが信じた道ならば、それについていくだけ―――クスノキ=リンへの絶対の信頼は、一同にとって不動のものであった。
同志一同の存念を確かめると、リンはミユウに視線を移す。それにミユウは黙って頷くと、
「では作戦の概要を説明します」
そう言いながら、作戦地域の地図を映し出す、大型モニターのスイッチを押した。
「皆も知っての通り、ホーネット部隊は依然として、私たちミライミナト駐屯地と、目と鼻の先の湾岸部に居座り続けています。これを打倒しない限り、私たちが首都侵攻を果たしても、背後からの追撃を受け、腹背に敵を抱える事は必定―――よって、これを撃滅します!」
作戦参謀として、ミユウはまず作戦における目的を、あらためて説明すると、
「選択肢は二つあります。まずは人馬戦車部隊を陸路で首都東京へ向け、その背後を突くべく追ってきたホーネットへ、反転攻勢を仕掛け、陸戦で勝負する方法です」
まずは、人馬戦車の王道の戦術である、陸戦案を提示した。だが、その後で少し顔をしかめながらミユウは、「ですが、この作戦には問題があります」と、続けて陸戦案の問題点を指摘し始めた。
「陸戦は私たちにとっても好都合ですが、首都東京への侵入路は、湾岸部から延びる連絡橋のみ―――その他の陸路は、市街戦となる恐れがあります」
政府からの非常事態宣言が発令されているため、民間人の避難は進んでいたが、それでもそれが百パーセントでない限り、この段階で市街戦は避けなければならない。
「ですが私たちが連絡橋を進めば、水陸両用機であるホーネットは、おそらく部隊の半分を海路で先回りさせ、挟撃を図ってくるでしょう。それは先日の、アカネ准尉とアオイ准尉の陽動戦で実証済みです」
先の戦闘において、ホーネット部隊の注意を引くために、単機で陽動に向かったアカネたちは、ホーネットの挟撃であやわの事態に追い込まれた。ミユウの言う通り、もし連絡橋を進むとなれば、その再現は間違いなかった。
「それでも機体数が互角なら、とも考えましたが、バクフが後詰めに動く可能性も否定できません。したがってホーネットを誘き出す事は、リスクが高いと判断しました。よって選んだのは、次の選択肢―――」
ここでミユウは一呼吸おいてから、衝撃の言葉を放った。
「ホーネットが待つ海上に、私たちから打って出ます!」
想像もしていなかった作戦内容に、一同からどよめきが起こる。
誘き出すのが危険とはいえ敵地に、しかも海戦の経験のない部隊で海上に打って出るなど、常識で考えれば狂気の沙汰であった。
しかも自軍の人馬戦車は、リンのトムキャットを除いて、すべて陸戦機である。第四世代機のイーグルやホーネットのホバードライブは、理論上は海上走行が可能であるが、機動性は海戦機に及ばないばかりか、着水機能を搭載していないため、転倒などしてしまえば海面からの復帰は困難であった。戦時においてそれは、命取り以外の何ものでもない。
さすがに、リンを信じてついていくと誓った一同にも動揺が広がる。それを受けてミユウは、
「ここからは、リンが説明した方が良さそうね」
と、海上戦における作戦指示を、司令であるリンに委ねた。
そして頷きながら、「そうだな……」とリンもそれに応じると、「皆、聞いてくれ」と言いながら、モニターに移る湾岸部海上の地図を指差した。
「ミユウの言った通り、今回の攻撃は海上戦を仕掛ける事に決めた……だが海上へは―――私のトムキャット一機で打って出る!」




