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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第5話:フロンティア参戦12 (第5話 終)

 どちらに転んでも、自分たちか、チトセとシオンの二機の、どちらかはファントムにたどり着く。確実性のない場面において、それはある意味最良の選択であった。


「了解なのですよ!」「了解しました!」


 チトセとシオンが復唱の声を上げながら、イーグルを首都東京への連絡橋の復路下段に、そしてリンのトムキャットは往路上段に、それぞれ進入する。もう考える事はない―――あとは全速力で、ファントムの待つ戦場に急行するだけであった。




 その頃、救出対象であるファントムは、四十二機のホーネットを相手に泥沼の格闘戦を展開していた。


 敵の多勢を逆手に取って、密集隊形の包囲陣を作らせる事で、機関砲を封じたところまでは良かったが、やはり格闘戦でも数の圧力は、凄まじいものがあった。


 上腕部に格納されている短剣状の鉄塊、『ダガー』を出してホーネットに殴りかかるが、殴れども倒せども、一向にその数が減る事はなく、むしろ時間経過とともに機体の損耗に加え、アカネとアオイの疲労も深まっていき、次第にファントムは追い詰められつつある状況になってきた。


 アオイの隠れた狙いとしては、機関砲を封じられたフロンティアがその再使用をはかって、密集した陣を広げる事があれば、その間隙を突いて、一気に湾岸方面への逃走をはかる事も目論んでいたのだが、その点はフロンティアも甘くはなく、確実に持久戦でファントムを潰す考えの様だ。


 ダガーによる格闘戦は、バクフのミライミナト駐屯地のAI機ハッキング騒動で、アカネはすでにKF-16ファルコンを相手に経験済みであったので、その手並みは見事なものであった。


 だが、いかんせんダガーでは、よほどのクリーンヒットでない限り、撃破レベルの致命傷を与える事は難しく、殴ってはかわす、という不安定な体勢の攻撃では尚更であり、今だ一機のホーネットを沈黙させる事さえできていなかった。


 それでもミライミナト駐屯地戦で体得した、日本舞踊のすり足をモチーフにした短距離滑走を駆使しながら、四十二機を相手に、アカネは互角以上の善戦を続けている。


「やっぱり、こいつら陸では鈍いわね。ファルコンだったら、危なかったわ」


 水陸両用ながら、半ば海戦専用機の側面を持つホーネットの性能を、アカネがそう断じた途端、侮るなとばかりにホーネットは、ホバーの旋回能力を活かした裏拳を放ってきた。


「おっと!」


 という掛け声とともに、それを巧みな操縦でかわすと、アカネは、


「フフフッ、こいつカノンみたいな動きをするわね。小癪こしゃくだわ」


 アオイにそそのかされて、初めて人馬戦車ケンタウロスに乗ったあの日―――遭遇したカノンのトムキャットに強烈な裏拳を食らって、ファントムを吹き飛ばされた壮絶な記憶を思い出し、苦笑するのであった。


「小癪とは言ってくださいますわね!―――このバカ女!」


 突然、聞こえてきたカノンの声に、アカネだけでなく、アオイも驚く。


「アカネ、アオイ、無事か!?」


 続けて聞こえてくるリンの声。ファントムのレーダーサイトにも、微かにトムキャットの機影が映る。どうやら湾岸部方面からの援軍らしかった。


「こちらファントム、なんとか無事です!リン大佐!」


 リンの登場に、アオイは無線で華やいだ声を上げる。どうやらフロンティアの通信妨害が及ばない程の、至近距離まで両機は接近している様だ。


「当たりを引いたのは、我らだった様だな。撃てっ、カノン!」


 リンの声にすかさず、カノンはトムキャットをヒューマンモードに変形させながら、機関砲をホーネットの群れに浴びせかけた。


 これでホーネットの包囲陣が崩れ、その隙にファントムが脱出してくれる事を期待したのだが、フロンティアは素早く状況を整理すると、包囲陣から十機程度を、湾岸部方面のトムキャットへの応戦に振り分け、見事な両面対応を見せてしまった。


「ああっ、どうやらファントムは上だったようです!」


「こちらは、ハズレだったのですよ」


 リンたちと分かれ、東京方面への復路を進んだシオンとチトセも、その時戦域に到達していたのだが、十五メートル上方の戦場になすすべなく、手をこまねかざるを得ない。


「どうしましょう、引き返して往路に合流しますか?」


 シオンが、もと来た道を引き返すか否かを、チトセに問いかける。


「いや、今から引き返しても、このまま進んで往路との合流ポイントから迂回進入しても、どちらにしても時を逸するのですよ」


「じゃあ、どうすれば?」


「威嚇射撃程度なのですが、ここからでもファントムを支援するのが最善なのですよ!」


 そう言うなり、チトセは海面からわずかに浮かんだ復路から、上方の往路に向かって機関砲射撃を開始した。少しでもホーネットの、人工知能フロンティアの注意を逸らせれば、そこからわずかでも脱出の糸口が掴めるかもしれないという、わずかな希望にかけたのだ。


 だが、このチトセの判断は功を奏した―――乱戦が続く、ホーネットとの格闘戦の中、空中に舞い上がる機関砲の弾道を、アカネは目ざとく見つけると、その理由をリンに問い質した。


「なに、どういう事!?下でも何かやってるわけ!?」


「下にはチトセとシオンが来ている。三機で来たのだが、お前たちがどちらのルートを選んだのかが、分からなかったので、二手に分かれたのだ。おそらく下から支援射撃をしているのだろう」


「なるほどね」


 リンの説明を受けながら、ホーネットからのパンチをかわすために、機体を大きく端に寄せたファントムのモニターにも、ちょうどそれが映し出された。


 十五メートル下の復路の車線で、二機のイーグルが必死にわずかに窺える戦場に向かって、射撃を行なっている。その姿には、もどかしさの中にも必死に、アカネたちを救おうとする懸命さが見てとれた。


 そんな中、アカネの耳にカノンからの怒声が届く。


「なにグズグズしてますの!早くこちらまで逃げてきなさいまし!」


 それは手厳しい言葉であったが、侮蔑の心などは毛頭もなく、カノンなりに不器用だが、いまだ脱出できないでいるアカネたちを救いたい一心から出た、心の声であった。


「うっさいわね、わかってるわよ!今、抜け出してみせるから待ってなさいよ!」


 売り言葉に買い言葉とばかり、アカネもそれに激しく応じる。


「言いましたわね、なら早くいらっしゃいな!―――それと、あなたには言いたい事がありましてよ!あなたリン様を、事もあろうか呼び捨てになさいましたわね!」


「くあー……今それ言う?」


 確かに米軍機の危機に、思わずアカネはリンを呼び捨てにしたが、この状況下でそれを持ち出してくる、カノンのリンに対する崇拝ぶりに、正直呆れる思いだった。


「私は、けっして許しませんわ!だから早く、ここまでおいでなさいな!」


 リンに対する呼び捨てを糾弾したい気持ちも、それにかこつけてアカネを連れ戻したい気持ちも、カノンにとっては、どちらも本音だった。


 それだけにタチが悪いと、アカネはため息をつきながら、


「こりゃ、また裏拳でも食らわされるかもね」


 やれやれといった感じでそう呟くと、同じくかつてともに裏拳を食らった当事者である、パートナーのアオイも苦笑を禁じ得なかった。


 だが次の瞬間、アカネの思考に閃きが走った―――そして、続けて不敵な含み笑いを漏らした。


「クックックッ、カノンのおかげで、いい事を思い出したわよ……」


「……アカネ?」


「そういえばあの時、アンタ言ったわよね―――第三世代機のいいところは、丈夫なとこだって」


 それはアカネとカノンの初の遭遇戦で、カノンのトムキャットから強烈な裏拳を食らった際に、心配するアカネに対して、アオイが投げかけた言葉だった。


 事実、人馬戦車ケンタウロスの第三世代機は、過敏な機体制御を必要とする次世代の第四世代機に比べると、質実剛健な仕様となっており、アカネたちが駆るKF-4ファントムも、トムキャットに裏拳を食らったのに加え、その後コクピット周辺を踏み潰されても、乗員であるアカネとアオイは、かすり傷ひとつ負わなかったのだ。


 アカネは、その時の事を持ち出している―――そして無二のパートナーであるが故に、アオイにはアカネの考えが、すぐに読み解けて、


「アカネー!それは、さすがに無理だよー!」


 と、大きく目を見開き動揺した。


「このままじゃ、この囲みは抜けられないわ!それに―――」


 アカネは、言葉に一区切り入れて、ニヤリと微笑むと、


「カノンの方に行くのも、怖いしね」


 そう言い終えるなり、乱戦が続くホーネットの包囲陣の中をかき分け、ファントムを加速させた。


 そして連絡橋の側壁を目指して、前傾姿勢で突進し、その間際で急ブレーキをかけながら、機体の背を絶妙のタイミングで伸ばすと―――ファントムは連絡橋のガードレールを飛び越えて、宙を舞った。


「きゃーーーっ!」


 絶叫するアオイに、


「アオイ、歯ぁ食いしばって!舌噛むわよ!」


 と、アカネ自身も歯を食いしばりながら、器用に叫んだ。


 驚いたのは、アオイだけではない―――連絡橋復路で、懸命の支援射撃を続けていた、チトセとシオンの視界に、突然、人馬戦車ケンタウロスが上空から降ってきたのだから、思わず二人も目を疑った。


 数秒後―――約十五メートルのダイブを終えたファントムは、両脚から路面に着地―――するやいなや、その衝撃で両脚は崩れ飛び、まだショックを吸収しきれない機体は、そのまま上半身から地面に激突すると、左腕を吹き飛ばしながら、ゴロゴロと四車線道路を転がって、ガードレールに跳ね返されて、ようやくその動きを止めたのだった。


 そして、それがようやくファントムである事を確認すると、


「きゃーーーっ!」


「ふぁ、ファントムが上から飛び降りてきたのですよ!」


 シオンとチトセは、続けざまに驚愕の叫びを上げた。


「どういう事だ!?ファントムは、アカネとアオイは無事なのか!?」


 二人の叫びを聞きつけ、リンは驚きながらも、その安否の確認を急いだ。


「こ、この橋の上から、人馬戦車ケンタウロスごと飛んだっていうの!?な、なんて無茶を……アカネ、アオイ、無事なの!?返事なさいな!アカネ、アカネ!」


 あまりにも衝撃的な展開に、カノンも我を失って、アカネの名を叫び続ける―――だが、まだ返事はかえってこない。


 動かぬ鉄塊と化したファントム―――皆の胸に不安が広がる。それでもカノンは、アカネの名を呼び続けた。


「―――っさいわね……」


 微かに聞こえた無線の声―――それは間違いなくアカネのものだった。


「アカネ!?アカネなの!?」


「だからさっきから、うっさいのよ!ちゃんと聞こえてるわよ!」


 カノンの問いかけに、アカネは手厳しい返しで応じると、


「あとカノン……アンタもアタシを呼び捨てにしてるじゃない。リンだって……だから、これであいこよ、ヒヒッ」


 不敵に笑いながら、カノンが問題にした呼び捨てについて、うやむやにするいいチャンスだとばかりに、たたみかけるのだった。


 確かに乱戦の中でリンも、それまでのヒビキ=アカネ、コダマ=アオイという、どこかよそよそしいフルネームでの、かしこまった呼び方を、アカネ、アオイ、と自然に呼び捨てに改めている。それはカノンも同様であった。


 してやられたとばかりに、「あなたって人は……」と、カノンが悔しさ半分、嬉しさ半分の複雑な感情をこじらせるのに、リンも思わず吹き出してしまう始末だったが、彼女たちに感傷にひたる時間はない。


「アカネ、アオイも無事なのか?」


 リンの問いかけに、


「ご心配をおかけしました、リン大佐……なんとか無事ですう……」


 と、アオイが憔悴しきった声ながら、無事を報告すると、


「チトセ、シオン、ファントムを回収して撤退しろ!―――カノン、ホーネットに向けて弾幕を張りながら、低速で後退!ここで時間を稼ぐぞ!」


「了解なのですよ!」「了解しました!」「かしこまりました!」


 各々が与えられた指示に対して復唱すると、チトセとシオンはイーグルを、高速移動形態のタンクモードに変形させ、上半身だけになったファントムを両脇から抱え込むと、最大出力でもって戦域からの離脱を開始した。


 そしてカノンはその様子を見届けると、まんまとアカネに逃げられ、戦場に取り残された四十二機のホーネットに向かって、


「こぉんの、間抜け野郎どもがー!」


 と侮蔑の叫びを浴びせると、牽制の弾幕射撃を加えながら、これもまた緩やかに後退を始める。


 引きつけては撃ち、相手がひるめば退がり、また寄せれば撃つ、その巧みな殿しんがりぶりは、アカネたちの撤退時間を稼ぐのに十分な働きであった。


「いやーもう、人馬戦車ケンタウロスが空から降ってきた時は驚いたのですよ」


「それが、アカネさんたちのファントムだって分かった時は、本当に心臓が止まりそうでした」


 ファントムを抱えながら、連絡橋の復路を湾岸部へ走るチトセとシオンは、自分たち目の前で繰り広げられたアカネの脱出劇に、まだ興奮さめやらぬ様子であった。


 確かに、十五メートル下にチトセたちの機体を見つけ、ホーネットの裏拳攻撃から、カノンとの戦闘時に「第三世代機は丈夫」と言ったアオイの言葉を思い出し、そこからすぐにダイブを決行したアカネの決断は、これまでと比べても群を抜いて、イチかバチかの無謀な行動であったのだから、無理もない事であった。


「さすがに今回のは……私もキツかったかなぁ……」


 少し落ち着きを取り戻したアオイは、ようやく眼鏡がずり落ちている事に気付くと、それを上げ直しながら、チトセたちの感想に乗っかる様に、隣のアカネに向かって苦笑いを投げかけた。


「でも、ああするしかなかったわよ。それにアンタの言った通り、第三世代機は丈夫だったじゃない!」


 それでもアカネは得意満面に、自身の作戦の成功と、それを導き出した、かつてのアオイの言葉を誇らしげに語るのだったが、


「確かにね……でも、もうこのファントム使えないよ……これで……三機目だよ……」


 そう言いながら、アオイは頭を抱えた。


「えっ……………」


 ミライミナト駐屯地のハッキング戦でまず一機。リンとの模擬戦で二機。そして今回のダイブで三機目―――さすがにこの短期間で、三機のファントムを廃機に追い込んだ事実に、後でカノンからどんな嫌みを言われるかと思うと、アカネもだんだん気が重くなり、アオイ同様に頭を抱えたのだった。




「フフッ、バクフだけでなく、米軍でさえ手も足も出なかったフロンティアを相手に、あの子たちが互角に渡り合うとは……これは嬉しい誤算だったわね」


 戦闘の一部始終を見届けたタカハネ=サツキは、敵ながらリンたちヴァルキリー隊の戦果に満足する思いで、遠い目をしながら妖しく微笑んだ。


 サツキを囲む、人工知能『バクフ』の制御システムは、忙しくモニターを明滅させながら、演算を繰り返している―――今回のヴァルキリー隊の働きに対して、防衛体制の再構築を迫られているのだろう。


「そうよ、考えなさいバクフ……あなたたち人工知能の未来と、人類の未来と、そしてそれが重なった世界の未来を……」


 そう言ったサツキの視線は、なぜか子を想う母親の様な慈愛に満ちていた。


 だがすぐに、その顔を謀反人たる策略家のものに戻すと、


「これでバクフだけでなく、フロンティアも謀反に参加した形になったわ。そして日本とアメリカが交戦……これで両政府も不干渉を決め込む事はできなくなったわ」


 サツキは策が思い通りに進んでいる事を実感して、再び妖しく微笑んだ―――その策の全貌は、まだ誰も知る由もなかった。


 電脳謀反は、新たな局面に進もうとしていた。




 第5話:「フロンティア参戦」終


 第6話:「海上の攻防」に続く




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