第5話:フロンティア参戦9
「ほ、ホーネットの動きが止まりました!」
「―――!?どういう事だ!?」
突然、その動きを止めたホーネットに、驚きの声を上げるカノンとリン。そこにミユウからの無線が入る。
「リン、ファントムが囮になったわ!湾岸部を東京に向けて走ってる―――今がチャンスよ!」
ファントムを首都東京に向けさせた、アオイの狙い―――それは、人工知能『バクフ』への進軍に見せかけた偽装であった。
人工知能『フロンティア』は、バクフを救援するために、今ここに参戦している。それならば、たった一機でもバクフがいる首都東京へ進行する動きを見せれば、海上の膠着した戦線を放棄して、ホーネット部隊はバクフの守備に移行するはずだ、と。
その狙いは見事に当たり、ホーネットは動きを止めた。おそらくフロンティアは、事態を計算しているのだろう。
「見事だな……カノン、今のうちにトムキャットを回収するぞ!」
「かしこまりました、リン様!」
リンの指示を受けて、カノンは機体を救出対象のトムキャットに寄せていく。もうホーネットは、それを妨害してこない。そして両腕を失ったのに加え、二十ミリ機関砲を全身に浴びて、満身創痍の米軍トムキャットの背後にたどり着くと、背中から抱きかかえる様にして、機体をホールドした。
その瞬間、ホーネット四十二機は、一斉に機体を北に向けると、次々と高速走行形態のタンクモードに変形しながら、戦域を離脱していった。
その目的は明白―――首都東京へ、バクフへ向かったファントムの追撃であった。フロンティアは、今ここにいる手負いのトムキャットよりも、アカネたちのファントムを撃破する事を、優先事項と判断したのだ。
「リン様!」
「くっ、今は米軍機の救出が優先だ!急いで湾岸部に戻れ!」
ファントム一機に対して、四十二機全機が追撃に向かった事に、カノン同様、アカネたちを案じるリンであったが、今は米軍機の人命救助を優先した。
「かしこまりました!」
リンの言葉に応じると、カノンは米軍機を抱いた機体を、湾岸部に進める。だが被弾によって、ほとんどホバーの浮力を失った米軍トムキャットは、予想以上の重さとなってカノンたちの進行を鈍らせた。一秒でも早く、アカネたちを引き返させたい、カノンは苛立ちの表情を浮かべる―――その気持ちはリンも同じであった。
のそのそと湾岸部に進む、リンたちのトムキャットが、湾岸部への進路半ばまで差し掛かると、
「ミユウ、もう大丈夫だ!ファントムに引き返す様に伝えろ!」
今からホーネット部隊が引き返してきても、米軍トムキャットを安全圏まで逃がせると判断したリンは、ファントムへ後退指示を出す様、ミユウに要請した。
「わかったわ………ファントム、通信を開ける?もうこちらは大丈夫よ。ホーネットがそちらに向かってるわ、引き返しなさい」
ミユウからの通信に、
「こちらファントムです。やはり、ホーネットはこちらに向かって来たんですね。良かった!」
自身の読みが当たり、救出活動を支援できた事に喜ぶアオイは、華やいだ声を上げる。
「まったく無茶をして……でも、おかげで米軍機を安全圏まで連れてこられたわ」
少々あきれながらも、ミユウはホーネットを見事に戦域から一掃させた、アオイの戦術センスに内心、感嘆していた。
「ねえ、ホーネットが来てるんでしょ?どこから来てるの?レーダーにはまったく映ってないわよ」
アカネが呑気に会話に混じってくる―――だが、アカネの言葉を聞いた瞬間、ミユウの顔が険しくなった。
「そちらに向かったのは全機よ!本当に映ってないの!?まずいわ、急いで引き返しなさい!」
ミユウが焦りに満ちた叫びを上げる。ホーネットが、ファントムのレーダーに映っていないという事―――それはホーネットが、レーダー撹乱の電子攻撃を仕掛けている事を意味していた。
当初、空母ドナルドモルガンから脱走してきたホーネット部隊は、威嚇行動が目的であったため、意図的にレーダーにその身を晒し続けてきた。
だが今、かなりの近距離に迫っているにもかかわらず、ファントムのレーダーに、ホーネットの機影が捕捉できないという事は、かなり高精度の電子攻撃を仕掛けているはずであり、それは確実にファントムを『狩る』という意思の表れであった。
人工知能『フロンティア』の判断基準は、これで明確になった―――同胞である人工知能『バクフ』への敵対行動は威嚇でもって対応するが、もしそれが首都東京へ及ぶ場合は、同盟国として、それに撃破でもって支援すると。
今まさに、首都東京への連絡橋を走るファントムは、フロンティアにとって撃破対象となったのだ。
「ちょっ、全機って、海にいたホーネットが全機!?」
ここまでの途上で、アオイから囮策の内容を説明されていたアカネだったが、それでも追ってくるのは半数ぐらいだろうと、タカをくくっていた。
だが追ってきたのが全機という予想外の展開に、さすがのアカネも色を失った。対して、ミユウの言葉ですべてを悟ったアオイは腹をくくった様に、表情を引き締めると、前方を見ながら言った。
「もう来てるね、アカネ……これは囲まれたかもだね」
アオイの言葉にアカネも前方を仰ぎ見ると、薄っすらとその視界に機影が―――首都東京へ向かったファントムを撃破するべく、連絡橋の幅いっぱいにフロンティアの指揮する、KF-18ホーネットが機関砲を構えて、待ち構えていた。




