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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第5話:フロンティア参戦6

『なぜだ!?なぜホーネットを引き離せない!?』


『わからん!こちらは最善の回避軌道を算出してるはずだ』


『くそっ!このままだと完全に分断されるぞ!』


 複座機である米軍トムキャットの各機で、そんな会話が操縦士と管制官の間で交わされている。


 データ上、KF-14トムキャットは、世界最強の人馬戦車ケンタウロスなのだ。出力、運動性能、管制システム、そのすべてにおいて現行機を大きく上回り、第三世代機相手の戦闘シミュレーションでは、一機で大隊を殲滅できるという結果まで出ている。それなのに今、第四世代機とはいえ、AI支援機であるホーネット八機を振り切る事さえできない状況に、彼らは苛立ちと焦りを募らせていった。


「これが……フロンティアの力なのか……」


「そうね……ホーネットの性能を、性能以上に引き出しているわ。それに、あの計算しつくされた動き……相当、実戦慣れしているわ」


 有人米軍機を翻弄する、人工知能フロンティアのAI機制御に、リンがたまらず感嘆の声を漏らすのに、ミユウも相槌を打ちながら、その恐るべき実戦対応力に警戒の念を抱いた。


 実際、フロンティアのAI機制御は水際立っていた。


 トムキャットの速度に対しては、機体センサーで読み取った海上の波の状況から、もっともホバーの推進力をロスしない走行ラインを選択し、運動性能の差は、巧みな軌道予測による先回りで封じ込めた。


 そして、なにより脅威なのは管制力―――というよりも、戦術の展開力であった。


 人工知能『ガーディアン』の航空力廃絶提案を、国連が採択した事により、国際紛争が五十年という長きに絶えたとはいえ、米軍の総合戦力は依然世界最強であり、それを構成する米軍兵員の戦闘技術も世界の頂点を極めていた。


 だが、米軍が最強であったのは、その豊かな戦力、卓越した戦闘力を持つ兵員だけではなく、その背後にそびえるアメリカ担当ガーディアン、人工知能『フロンティア』の存在があったからである。


 それは米軍有人機が展開するフォーメーションを、またたく間に破綻に追い込み、赤子の手をひねるがごとく翻弄し続ける現状が証明していた。


 人類の手段を学習し、蓄積の上、さらなる手段を生み出す人工知能―――とりわけ平和な時代の中でも、戦闘訓練に余念がなかった米軍と寄り添い続けたフロンティアには、他国とは比べ物にならない戦闘データが蓄積されており、そこから導き出された戦術は、同じ人工知能でも、限定的な軍事演習に終始していた日本の『バクフ』とは比較にならない程、高次元なものであった。


 バクフが展開した戦術にさえ、ヴァルキリー隊は苦戦した―――もはや人工知能は人類を超えた事を、フロンティアの存在は証明しているかの様であった。


 よもや人工知能が操るAI機に、てこずる事などあり得ないと、タカをくくっていた米軍のアテは完全に外れ、分断され追い詰められる恐怖から、遂にトムキャットは無策の発砲を開始した。


 だが、ロックオンが成立していない機関砲の射撃など、正確無比な位置取りを続けるホーネットに当たるわけもなく、二十ミリ弾はむなしく空を切るだけであった。


 そして、米軍の動きは見定めた―――もはやこれ以上、警戒の必要はない、と判断したフロンティアは、遂にトムキャットに向けて反撃を開始した。


 八機編隊のホーネットは、フォーメーションを包囲から四機ずつのダイヤモンド編隊に移行すると、そのまま左右から目標のトムキャットに向かって、三段階攻撃を敢行する―――昨夜、ヴァルキリー隊も用いたダイヤモンドフォーメーションであった。


 先鋒が威嚇、二段目が崩し、三段目でとどめの一撃を放つ常道戦術であり、それに対する応戦、回避法は米軍側も訓練しており、各トムキャットも素早く体勢を整えた。


 だが、フロンティアはAI機を二編隊同時に、目標に向かって左右からタイミングをずらしながら、攻撃を仕掛ける。


 ダイヤモンド一編隊だけならまだしも、二編隊からの計六段攻撃に、米軍トムキャットは全機、五段目で片腕を、六段目でもう片腕を撃ち落とされた。


 人馬戦車ケンタウロスは下半身をその推進機能に当て、二メートル程度の上半身は、そのほぼすべてがコクピットのため、武装は必然的に両腕に頼らざるを得なかった。


 その両腕を五機の米軍トムキャットは、すべて落とされたのだ―――もはや世界最強の機体は、海上に浮かぶ、ただの動く標的と化した。


 それでも懸命に回避を継続するトムキャットに、不思議な事にホーネットはそれ以上の追加攻撃を仕掛けなかった。


「なぜホーネットは、撃たないのでしょう?」


「もうトムキャットは逃げるだけなのですよ。いつでも、とどめを刺せるはずなのに……なのですよ」


 鮮やかな反撃から一転して、再び包囲に終始するその異様な光景に、シオンとチトセが疑問を口にする。


「フロンティアには……人類を害する意思はないという事かしら……?」


 二人の疑問に、いや全員が抱いた疑問に対して、聡明な洞察力でもって、ミユウは答えを導き出す。


 確かにあのホーネットの手並みであれば、先程の攻撃で全機を完全撃破する事も可能だったはずだ。しかしフロンティアはそれをさせず、その攻撃力を奪うだけで矛を収めた。それが意味するものは、ミユウの推察通りであろう。


「歯向かわなければ手は出さない……という事か」


 そう言いながら、リンは素早く思考を巡らせる―――今、米軍がその事に気付き、戦闘海域を離脱すれば、おそらくフロンティアは米軍トムキャットを全機見逃すだろう。そして自軍は攻撃さえ仕掛けなければ、ひとまずホーネット部隊との戦闘は回避でき、駐屯地に戻り、体勢を立て直す時間を得る事ができる。いささか打算的ではあるが、日米の交戦も回避できるその流れは、願ってもない展開だ。


 そんなリンの願いが通じたのか、まず一機のトムキャットが、両腕のない機体をタンクモードに変形させると南へ―――母艦、ドナルドモルガンの待つヨコツカ港に向かって、逃走を敢行した。


 そしてミユウの読み通り、ホーネットは―――人工知能フロンティアはそれを見逃した。




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