第5話:フロンティア参戦5
「キャーッ!」「な、なんなのですか!?」
まずはカノンとチトセが、悲鳴を上げた。
無理もない。今の今まで、目の前に威容を誇っていたホーネットが、激しい爆発音とともに炎に包まれたのだ。そして炎を上げながらも、ホバーによって浮遊を続けていた機体が力尽き、海に沈んでいく。
「こ、これは……ミサイルか!?」
リンも、思わず叫び声を上げる。
「そんな!ミサイル兵器の使用は、国連規定で禁止されているはずでは!?」
カノンの言う通り、五十年前に国連が航空機廃絶をもって、世界平和宣言を発した際に、以後の航空兵器の再開発、及び大規模戦闘の抑制のために、ジェットエンジンを持つミサイルの廃棄も制定されている。故に人馬戦車の主要武装も二十ミリ機関砲である。
つまり現代において、ミサイルは存在してはいけないものなのだ―――しかし今、目の前でホーネットを粉砕した兵器は、その破壊力、そして米軍トムキャットから発せられた熱源反応からしても、ミサイルである可能性が高い。
しかしミサイルの実戦使用を見るのは、リンたちも初めてであった―――当然である。それはこの世に存在しないはずのものなのだ。だが米軍機はそれを使用した。その事実は、フロンティアの参戦と同じか、もしくはそれ以上の衝撃を、ヴァルキリー隊の面々に与えたのだった。
そしてミサイルに撃破されたであろう、ホーネット六機が完全に海中に沈んで消えた。リンたちは、それを為す術なく見つめ続けるしかできなかった。
皆が呆然とする中、リンのトムキャットのレーダーが、再びアラート音をけたたましく鳴らしながら、熱源反応をキャッチする。
今度はその数、十二。やはりそれは米軍トムキャットから、帯をひく様に発せられている。もはや米軍がミサイルを使用している事に、疑いの余地はなかった。
そしてそのわずか後、再び熱源体が密集するホーネットを襲う。今度はヴァルキリー隊も、その正体をはっきりと見た。炎の尾ひれを付けながら空中を、目にも止まらぬ速さで疾走するそれは、吸い込まれる様にホーネットの群れに入ると、ロックオンしたであろう十二機の上半身を、またたく間に吹き飛ばしてしまった。
現行では禁止されている、過去の兵器としての知識はあったが、実際、目のあたりにしたその威力に、リンでさえ言葉を失った。この短時間で、ホーネット部隊は十八機を失ったのだ。
その是非を考える事さえできない、ミサイルの圧倒的威力―――二十ミリ機関砲など、その前にはなんの役にも立たない。
衝撃、恐怖、無力感―――様々な感情が各々の胸に去来する中、次のミサイルがこれもまた十二発、ホーネット部隊を襲った。そして轟音とともに、またホーネットが海に消えていく。
ヴァルキリー隊をはじめ、ミライミナト駐屯地所属の各機は一歩も動けない。いや動く必要がなかったのだ―――遠く有視界の外から、目標を破壊するミサイルの前では、人馬戦車の機動力など、なんの意味も持たず、リンたちは蚊帳の外から、ただそれを眺めていればよかったのだから。
人工知能フロンティアが指揮するAI機は、合計三十機を失い、残りは四十二機。脱走機の約半数が完全撃破されるなど、まったく予想していなかった戦局に、リンは指示が出せない。いつも冷静にリンを導くミユウさえも、どうして良いか分からずに、ヘルメットの中で苦虫を噛み潰すしかなかった。
そして、しばしの静寂の後―――遂に米軍所属のKF-14トムキャットが、その姿を現した。
白を基調としながらも、鮮やかな配色が随所に散りばめられたその勇姿は、世界最強の軍隊の名に恥じない圧力を放ち、タンクモードでここまで進んできたその機体の両肩には、おそらくはミサイルランチャーらしき、円筒形の突起物がそびえ立っている。
目視で推測するに、それは片側に三発のミサイルを搭載していたらしく、一機のトムキャットに六発―――五機で合計三十発のミサイルでもって、一発も無駄にする事なく、三十機もの敵を瞬時に葬り去ったのだ。
これが米軍の―――アメリカの力。国連規定に反したその武装を非難する暇さえ与えない、鮮やかな先制攻撃であった。
そして米軍トムキャットは全機、役割を終えたランチャーをパージすると、タンクモードから近接戦形態のヒューマンモードへと変形した。
海上にそびえ立つその勇姿は、普段、自部隊の隊長機として、トムキャットを見慣れているはずのヴァルキリー隊の目にも、何か別の機体を見る思いであった。
脱走機討伐のために、ホーネットを追ってきたトムキャット編隊は、今またその世界最強の力でもって、人工知能フロンティアに操られたAI機を撃滅せんと、各機、機関砲を構える。
このまま米軍によって、アメリカの人工知能による反逆は、またたく間に鎮圧されるのか。
リンが己を省みて、無力感に苛まれんとした瞬間―――異変は起こった。
機関砲を構え、フォーメーションを組んで、前進体勢を取った米軍トムキャット編隊五機が、あっという間にホーネットに囲まれたのだ。
一見、無軌道に見えたホーネットの動きは、その実は残機四十二機を素早く、再び四機編隊に組み直し、一機のトムキャットにつき二編隊が当たるという、合理性に満ちたものであった。
だが、そのあまりの素早い動きのために、人間の判断力ではその編隊行動に気付かず、観戦者であるリンたちどころか、囲まれた当の本人である米軍側も、人工知能の動きを無策の特攻と判断した。
そして、まずはその包囲から逃れて、再度フォーメーションを組み直すべく、米軍トムキャットが動いたのだが、その包囲の網はトムキャットを逃さない。
逃げても、逃げても、逃げ切れないどころか、ホーネットの動きは、二編隊で一機のトムキャットの進路を巧みに阻みながら、次第に五機の間隔を遠ざけ、気がつけば、米軍追撃部隊は完全に分断された状態に陥った。
確かに米軍は最強であった―――だが、その背後に控えるアメリカ担当ガーディアン、人工知能『フロンティア』もまた、世界最強である事を、この場にいた人類は思い出し、その存在に恐怖を覚えたのだった。




