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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第5話:フロンティア参戦4

 そしてリンは目にした。海上に浮遊する異様な光景―――米軍機KF-18ホーネットで埋め尽くされた、日本の海を。


 七十二機が四機編隊を組むその姿は、威圧感に満ち、世界最強の名に恥じない米軍の力を、AI機でありながらも、まざまざと見せつけていた。


 ミライミナト駐屯地から先発した味方部隊は、KF-15イーグルが十機。いずれも支援機KF-16ファルコンのAI書き換えが済んでいないため、指揮官機のみでの単独出撃である。


 それは湾岸部に横一線に並び、海上のホーネットに対峙したまま、まだ先端は開かれていない。果たしてリンの予測通り、ホーネットは威嚇行動に終始しているのか、機関砲を味方機に向けてはいるが、それを撃つ気配はない。


 ひとまず胸をなでおろし、リンはヴァルキリー隊を先発部隊に合流させた。


「皆、よくここまで凌いでくれた。ホーネットは、ずっとあの様子なのか?」


 リンは先発部隊の労をねぎらうと、戦況を整理するべくホーネットの行動を確認した。


「はい、我々十機が湾岸部に先着しまして、現在の迎撃ラインを敷いたのですが、押し寄せたホーネットは特に戦闘行動に入る事はなく、四機編隊を組んだまま、ご覧の通り待機を続けております」


「睨み合いか……フロンティアの狙いは、我々をバクフに近付けないための、足止めなのか……?」


 先発隊からの報告に、リンはホーネット隊襲来の意図を考える。日米同盟を発動させた、人工知能ガーディアンの狙いとは何かを。


 リンの狙いは首都東京への侵攻であり、最終的には人工知能『バクフ』の破壊も辞さない決意だ。そのバクフを守らんとするアメリカ担当ガーディアン、人工知能『フロンティア』の決意はどこまでのものなのかが分からない限り、迂闊な手は打てない。


 バクフを守るというのは建前であり、こちらへの示威行動をもって、その義理を果たしたとするのか。それとも、こちらがホーネット隊を振り切り、首都侵攻を試みれば、その背後から、支援の名のもとに攻撃を仕掛けてくるのか。


 それによって、こちらの立ち位置も大きく変わる。もはや事態は日本国だけの問題ではない。打つ手を誤れば、日米問題どころか、その先の国際問題もはらむ可能性を秘めている。


 なんとしても首都に―――バクフのもとに、タカハネ=サツキのもとに行くという決意は、先程サツキに言い放った様に揺るぎはない。だが、己を信じて付いてきてくれた仲間のために、そして人類の未来のためにも、無用の紛争は避けねばならない。


 そんな思考に思いをめぐらせながら、ふとリンは、人ならざる人工知能の決意、義理、建前に、人間が頭を悩ませているのが、はなはだ滑稽に過ぎると、笑い出したくなった。


 だがホーネット七十二機は、こちらに機関砲を向けている。いつでも戦端は開かれるのだ。その真意を見定めるまでは、この場を動く訳にはいかない。


「リン、どうしましょうか?」


 いつもの様に副官であるミユウが、リンの決断を促す。


「そうだな……おそらくフロンティアの狙いは、我々を首都へ進ませないために、ここで足止めをする気だろう」


「振り切って進めば、攻撃してくるかしら?」


「それは、わからん。どちらにしても我々の機体は、陸路を取らざるを得ない。我らが北上した時に、ホーネットが陸に上がってくるのか、それとも海上を東京湾に向けて先回りするだけなのか……」


 現代において、人馬戦車ケンタウロスで海上を進めるのは、リンとカノンの駆るKF-14トムキャットか、今まさに対峙しているKF-18ホーネットのみである。短時間の海上走行なら、ホバー機能を搭載した第四世代機のイーグルとファルコンにも可能だが、海上における旋回性能の部分では、やはり差が出てしまう。しかし、なによりもホバー機能を持たない第三世代機の、アカネとアオイのファントムに海上走行の選択肢がない以上、ヴァルキリー隊に海上での編隊行動は不可能だった。


 すべては水陸の両選択肢を持つ、相手の出方次第。ようやく逆襲を決意し、マザ駐屯地を制圧したというのに、またもや受け身に回らざるを得ない状況に、リンは歯噛みする思いであった。


「一旦、警戒部隊だけを残して退きましょう、リン。ヴァルキリー隊は損耗も激しいし、このままの連戦は無理よ」


 リンの存念を聞いた上で、ミユウは一時撤退を促す。


 確かにマザ制圧で、ヴァルキリー隊の機体損傷、及び全員の疲労もピークに達しているのに加えて、機関砲の残弾さえおぼつかない。もし状況に対する即断ができないのなら、ここは退いて、体勢を立て直すのが得策というミユウの意見は、的を得たものだった。


 幸いホーネットと味方が、即戦闘に突入しているという、最悪の事態は免れている。ここは仕切り直すか―――と、リンが部隊の後退を宣言しようとした瞬間、トムキャットの高性能レーダーに、機影が捕捉された。


 瞬間、リンの脳裏にサツキの言葉が甦る―――米軍は追撃機を発進させている、と。


 あまりのホーネットの威容に、その存在を失念しかかっていたリンは、素早く索敵を開始した。


 識別信号は―――KF-14トムキャット。まさにサツキの報告に合致していた。


 機体数は五機。おそらくヨコツカに停泊中の空母『ドナルドモルガン』の搭載数全機であろう。


 専用AI支援機であるホーネットに脱走を許したトムキャットは、おそらく最大速度でもって北上している。かなりの近距離に至るまで、レーダーに捕捉されなかったのは、ホーネットと違い電子攻撃を仕掛けて、その身を隠していたからに違いない。つまりホーネットの威嚇行動とは違い、追撃部隊は戦闘態勢なのだ。


 まずはアメリカにまかせなさい―――サツキの言葉が、再びリンの脳裏をよぎる。


(どうする……どうすればいい……)


 だが状況は、逡巡するリンに時を与えなかった。激しいアラート音とともに、トムキャットのレーダーは五機の米軍機から、六つの熱源体が発せられるのをキャッチした。


 そして、その正体がなんであるかを確認する前に、眼前に対峙するホーネットが爆炎に包まれた。




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