第5話:フロンティア参戦2
「さあフロンティアが動いたわね……ホーネットが七十二機……ドナルドモルガンのAI機全機ね」
人工知能ガーディアンの日本担当『バクフ』の制御室で、無数のモニターに囲まれながら、電脳謀反の黒幕タカハネ=サツキは、アメリカ担当ガーディアン『フロンティア』が送った援軍の規模に満足していた。
「アメリカは仰天してるでしょうね、フフッ。対岸の火事だと思っていた人工知能の謀反が、まさか自国にも起こるなんて思ってもみなかったでしょうからね、フフフッ」
可笑しくてたまらないサツキは、ひとしきり笑い終えると、
「さて、あの子たちに教えてあげなくちゃね」
と、その目に妖しい光をたたえながら、目まぐるしく変転する事態をすべて映し出す、モニターのひとつに目を移した。
そのモニターに映るものは―――七十二機のAI機に逃走を許した米軍空母『ドナルドモルガン』から、発進しようとするKF-14トムキャットの姿であった。
そして、ホーネットを迎撃する味方を救うべく、ゴールデンヴァルキリーの五機も、東に向かって疾走を継続していた。
その指揮官であるリンは考える―――米軍機であるなら、相当の電子戦能力を持っているはずなのに、これといった電子攻撃も仕掛けてこずに、むざむざ駐屯地のレーダーに捕捉されたという事は―――これは恣意行動だと。
つまりは米軍の、正しくはそのAI機を統括するアメリカ担当ガーディアン、人工知能『フロンティア』の宣戦布告。
そのために、わざわざホーネットはその身をさらし、フロンティアの意志を世界に向けてアピールしているのではないかと。
それならば、今回の行動は威嚇程度の展開で済み、こちらが応戦しなければ、本格的な戦闘に発展する可能性は低いとリンは分析し、わずかばかりだが胸をなでおろした。
だがフロンティアへの対応を誤れば、本来の討伐目的であるバクフへの影響もはかり知れず、下手をすると二面作戦も覚悟しなければならないので、できる事ならフロンティアとは穏便にやり過ごしたい。
そんな計算にリンが頭を悩ませていると、突然ヴァルキリー隊各機に回線が割り込んできた。
『ごきげんよう、リン―――』
「――――――!」
声の主は、タカハネ=サツキ。皆に緊張が走った。
『マザの制圧……見事だったわ。まさか五機で、百二十機を倒すなんて……さすが金色の戦乙女ね』
「あなたから今さら褒められるのも、片腹いというのが本音だが―――今、動いているホーネット、これもあなたの差し金か?」
サツキの賞賛に対して、リンはそれを受け流す様に応じると、今回のフロンティアの参戦について、サツキの関与を担当直入に問い質した。
『あら、冷たいのねリン……』と、かつての愛弟子のすげない対応に微笑みながら、『米軍機の動き、あれはフロンティアの自発的行為よ』と、サツキはフロンティアのバクフへの援軍派遣に関して、自身の関与を否定すると続けて、
『誤解のない様に言っておくけど……私がやった事は、バクフに人馬戦車の未来に関して危惧を提唱した事と、リン―――あなたに会うために、それまでのミライミナト駐屯地への攻撃計画を作った事、それだけよ』
と、リンに対して、これまでの自身の経緯を簡潔に説明した。
「これはあなたの意志ではなく、必然だったとでも言いたいのか」
『そうとも言えるわね……前にも言ったけど、私は時計の針を早めただけ。あなたが人類の代表となる決意をしてくれてから、私はもう何もしていないわ―――だから今、ホーネットが動いたのも、つまりフロンティアが動いたのも、すべては自然の流れなのよ』
「あなたは、もう傍観者だというのか?」
『そうね……でも傍観者というよりは、審判かしら?私はこの先も何も手出しはしないわ。ただこの人類と人工知能の争いの行く先が、公正に進む様に、適切な助言をあなたにしてあげるだけよ』
「こんな大それた事をしておきながら、今さら味方面か!」
サツキの『助言』という言葉に、ここまで幾多の苦悩を乗り越えて、人類の代表として人工知能と戦うという決意にたどり着いたリンは、抑えていた感情を爆発させた。その声は姿こそ見えないが泣いている様でもあり、冷静沈着を絵に描いたようなリンだけに、そのらしからぬ行動にヴァルキリー隊の面々も驚いてしまった。
『ごめんね……リン……』
予想外のリンの反応に、さすがにサツキも心を痛めたのか、呟く様にか細く謝罪の言葉を述べたが、すぐに気を取り直して、
『もう一度、言うわ。私は公正な審判よ―――だから、あなたたちに伝えなければいけない事があるの、聞いて―――』
「……………」
一時はその感情を激しく揺さぶられたリンだったが、『審判』からの『伝えなければいけない事』に対して、これもまた気を取り直すと、いつものリンの表情に戻って、その言葉を待った。
『もう推察できていると思うけど、アメリカ担当ガーディアン『フロンティア』が『バクフ』に援軍を送ったわ。ヨコツカの米軍空母『ドナルドモルガン』のAI艦載機、ホーネット七十二機よ』
サツキは、リンがミライミナト駐屯地からもたらされた情報と同じものを、あらためて報告してから、
『知っての通り、普段、ヨコツカの艦載機はナツギ基地に所属しているけれど、日本の混乱に対して、アメリカ政府が空母に収容の上、帰国させようとしていた矢先……基地からの移動中に突如、AI機が脱走したらしいわ。フロンティアの差し金でね』
と、リンたちが知る事ができない、人工知能『フロンティア』謀反の経緯を、サツキは審判としてもたらした。
『もしホーネットと、あなたたちが戦闘に及べば、いくら人工知能とはいえ、同盟国である日米が交戦した形になるわ』
リンがもっとも頭を悩ませている問題を、サツキは見透かした様に突き刺すと、
『それはアメリカにとっても本意でないはず―――だから、米軍が動いたわ。ドナルドモルガンからトムキャットが発進したわよ』
「――――――!」
あまりの衝撃に、リンが言葉を失うのに構わず、
『アメリカはフロンティアの動きに、自国だけでケリをつける気よ。だからトムキャットを差し向けた―――だからリン、まずは静観しなさい。トムキャットとホーネットの戦闘に加わってはいけないわ』
と、世界規模に発展する可能性を見せ始めた、『電脳謀反』の国際化に対して、まるで本当の審判の様に、サツキはリンに打つ手を誤らぬ様に助言するのだった。




