第5話:フロンティア参戦1
首都強襲の後顧の憂い、西方マザ駐屯地の制圧を終えたリンにもたらされた急報―――
それは南方、ヨコツカ港に配備されている米軍空母の艦載機、KF-18ホーネットがミライミナト駐屯地を目指して、海上を北進しているという驚くべきものだった。
ホーネットは有人指揮官機であるKF-14トムキャットの専用AI支援機であり、アメリカが独自開発した第四世代機最強のAI機であった。
「北上してくるのはホーネットだけか!?トムキャットの随伴ではないのだな!?」
『はい、レーダーの識別ではホーネットだけで、トムキャットの反応はありません』
リンの問いに、駐屯地の管制官はトムキャットの不在を報告した。
「――――――!」
これらの情報から推測される事態―――それは国連加盟国に一台ずつ配備されている人工知能『ガーディアンシステム』の日本担当『バクフ』の危機に、アメリカ担当のガーディアン『フロンティア』が支援の手を伸ばした事を意味していた。
人工知能が、人工知能を支援する―――その予想外の展開にリンはうろたえた。
確かに日本とアメリカは同盟国であるが、日本政府がリンたちに、なんの手も差し伸べない様に、アメリカも人工知能からの謀反に直面した日本を静観するだけで、特に同盟国としての機能は発揮していない。国連もしかりであった。
それなのに、人ならぬ人工知能が、リンたちヴァルキリー隊の攻勢を受け、苦境に陥った仲間を救うべく、その独自の判断で援軍を送った―――その皮肉な事実はリンに、敵が増えたという戦略上の問題以上の、精神的な打撃を与えた。
だがリンに、個人的感傷に打ちひしがれる時間は許されない。リンは統率者なのだ―――リンの心の揺れは部隊の、ひいては抵抗勢力全体の士気にも影響する。
今は、同じく急報を聞いて動揺しているであろう仲間への対応が最優先だ。そう判断したリンは、気持ちを切り換えると、
「スクランブルでイーグルを進発させろ!出られるだけでいい。そして上陸される前に、湾岸部で迎撃態勢を取るんだ!」
と、駐屯地の残留部隊に対して、ホーネットに対する迎撃策を素早く指示した。
『了解しました!約十機がすぐに出られます』
管制官からの返答に、
「いいか、防衛ラインを構築するだけでいい。けっしてこちらから撃ってはならんぞ―――撃てば国際問題になる!」
リンはもっとも懸念する問題を念押しした。
望まむ不測の事態であるとはいえ、一発でも撃てばそれは自衛軍と米軍の交戦である。最悪、戦闘に発展しても、最初の一発は相手に撃たせなければならない。
それにしても相手は人工知能、こちらは有人機。戦後判断の材料としても、こちらに分が悪いのは明白だ―――だがそんな政治的配慮を考えるうち、リンは思い直した。
(これは、なんのための戦いだ!人が人として生きるための戦いではなかったのか!)
ならば何を迷う、とばかりにリンは、
「だが、もし!……お前たちの身が、仲間の身が危険にさらされる時は……迷わず引き金を引け!責めはすべて私が負う!」
己の決意をあらためて、皆に表明するがごとく、決然と言い放った。
そして、それを聞いたヴァルキリー隊の、ミライミナト駐屯地隊員の顔が、一斉に晴れ渡った―――やはりリンは、最高の統率者だと。
元々、リンを崇拝しているカノンや、長年のファンであるアオイはもちろんながら、先日までその存在を嫌悪していたアカネでさえ、その公正な人徳に心打たれた。
長年の親友であるミユウ、そしてチトセ、シオン、ミライミナト駐屯地の隊員も、同じ思いを共有し、全員がクスノキ=リンに付いていこう、と新たな無言の誓いをここに立てたのであった。
「我々もすぐに戻る、それまでなんとか持ちこたえてくれ」
そう言い残して回線を終えると、
「皆、聞いた通りだ。ホーネットが……米軍機が駐屯地を目指している。すぐに反転して、これを迎撃する!」
「了解!」
リンの指示に、ヴァルキリー隊は声を揃えた。余計な事は聞かない。聞く必要もないし、迷いもない。ただリンに付いていくだけ―――それが正解だと、誰もが思っていた。
ミユウを先頭に、ヴァルキリー隊の五機は、再び変則のダイヤモンド編隊を組むと、タンクモードで東に向かってマザ駐屯地を後にした。
百二十機を、たった五機で殲滅した激戦に続く連戦―――深更を狙った強襲が終わり、東の空に光がさし始めていた。
その光の向こうでは、米海軍の塗装が施された人馬戦車、KF-18ホーネットが、アメリカ担当ガーディアン―――人工知能『フロンティア』の制御によって、戦端を開くべく、朝日に照らされた海上を疾走していたのだった。




