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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第4話:逆襲のヴァルキリー8 (第4話 終)

「撹乱するぞ!ファルコンをファントムに向かせるな!ーっ!」


 リンの号令とともに、ファルコン編隊の裏にまわったファントムを支援するべく、ヴァルキリー隊からも弾幕射撃が浴びせられた。


 奇想天外なアカネの動き、そして対応に迷う間に浴びせられた正面からの弾幕、その間隙を突いて背後に入ったファントムからのゼロ距離射撃、そこに再びの弾幕射撃―――


 次から次へと繰り出される、ヴァルキリー隊からの予想外の動きに、人工知能はもう混乱の極みとなった。


(この隙に一機でも数を減らす!)


 ここが勝負と、アカネはファルコンの背中を撃つ、撃つ、撃つ―――だが相手は七十五機。しかも中央から切り込んだので、ホイールドライブで疾走しながらのゼロ距離射撃でも、相手にできるのは半数の約三十機。


 加えてフルオートで引き金を引き続けているので、二十ミリ機関砲は約十機を撃破したところで、弾切れとなってしまった。


 今一度、同じ軌道でゼロ距離射撃を加えるために、一旦ファントムに周回軌道を取らせながら、機関砲のマガジン交換を終え、いざもう一度とアカネがファントムの軌道を変えた瞬間―――ファルコン編隊、すなわち人工知能バクフは息を吹き返した。


 混乱したとはいえ、世界最高の演算能力を持つガーディアンシステム。両面から挟まれた状況をいち早く計算すると、一列で面制圧を狙った陣形を、残り約六十機が背中合わせで三十機ずつ並ぶという、二面対応の陣形に切り換えてきた。


 教科書通りの手堅い策だが、最良の選択―――裏を返せば、ヴァルキリー隊にとっては、最悪の展開となった。


 当初の車懸かりの陣、そして横一線に並んだ一斉掃射の陣、そのいずれもが人工知能バクフが、初の迎撃戦において選んだ、人工知能なりの試行錯誤の陣形であった。


 ゆえに綻びがあり、アカネとアオイを先頭に、ヴァルキリー隊はその綻びを果敢に突いて、ここまで百二十機を相手に、互角以上の戦果を挙げてきた。


 だが今、人工知能が選んだのは、奇策の要素のない密集陣形であり、力と力がぶつかり合う、ある意味もっとも厄介な陣形であった。


 ここでミサイル兵器があれば、密集体形を一網打尽にできるのだが、国連規定で航空機開発に準ずる、ジェット兵器の使用は禁じられている現在、その選択肢はなく、人工知能としてもその点は織り込み済みなのである。


 人馬戦車ケンタウロスに許された武器は、有効射程距離の短い機関砲と、格闘戦用のダガーのみ―――近接戦闘用の機甲兵器である以上、当たり前の事実を、今さらながら恨めしく思わざるを得ないが、それを言っても仕方がない。


 もっとも避けたいと思っていた乱戦を、誰もが覚悟した瞬間―――


「ありがとね、アカネ!―――リン大佐、お待たせしました!」


 というアオイのハツラツとした声が、沈黙を打ち破る様に響き渡った。


 あまりの突然のタイミングに、アカネは言葉を失ったままだったが、リンと、状況を敏感に察していたミユウの二人は、瞬間ニヤリと口元に笑みを浮かべた。そして思った―――これで勝った、と。


「じゃあ、いきまーす!」


 アカネは隣のアオイが、そう言いながら腕を振り上げるのを、見つめることしかできない。そして「ドーーーン!」という声とともに、その指がリターンキーを叩いた瞬間―――


 六十機のファルコンが一斉に、その動きを止めた。


 それは魔法の様であった―――しかし魔法ではない。それはアオイが仕掛けた電子攻撃。


 世界最高の演算能力を持つ人工知能が操る、AI機のハッキングにアオイは成功したのだった。


「ご苦労だった、コダマ=アオイ。敵機は完全に沈黙した様だ」


 アカネだけでなく、皆が呆然とする中、リンは敵編隊の活動停止を確認すると、その立役者であるアオイの労をねぎらった。


「敵は……もう動かないんですか?」


 状況がまだ把握できないシオンは、突然終わった戦闘が信じられずに、とまどいの声を上げた。


「アオイが……ハッキングに成功したのですか……?」


 リンの言葉から、状況を推察したチトセだったが、さすがに世界最高の人工知能を、旧型機の電子戦システムで破った事実に、驚嘆を隠せなかった。


「信じられませんわ……」


 カノンも、人馬戦車ケンタウロス最強の電子戦システムを搭載したトムキャットを超えたアオイの能力に、開いた口がふさがらない。


「大したものだわ、コダマ准尉。私もビックリしちゃったわ」


 開戦前に唯一、バクフの電子攻撃を破り、敵編隊の位置を捕捉したアオイの電子戦能力に、リンとともに秘かにこの展開を期待していたミユウだったが、いざその成功を目の当たりにすると、いつも冷静な彼女でさえ、鼓動の高鳴りを禁じ得なかった。


 リンとアオイの意味深なやりとり、そしてアカネをサポートしながらも、一心不乱に何かに挑んでいたアオイの様子―――それは人工知能バクフから、敵AI機の制御権を奪う、ハッキング攻撃を仕掛けていたのだと、ようやくすべてが理解できたアカネは、安堵に満ちた溜息をひとつ漏らすと、


「負けたわ……アンタには」


 と、隣で微笑むパートナーに、苦笑いをしながら、彼女なりの最大の賛辞を送った。




 一連の戦闘を、AI機のモニターを通して、この電脳謀反の黒幕―――タカハネ=サツキも観戦していた。


 そして予想以上のヴァルキリー隊の戦果に、


「素晴らしい……素晴らしいわ……リン……あなたとその仲間は、本当にバベルの塔を築き上げてしまうのかしら……」


 サツキは人類と人工知能の、まだ見ぬ未来の縮図に興奮を覚え、人工知能バクフの制御システムを仰ぎながら、感嘆の声を漏らした。


 そしてモニターから、マザ駐屯地のAI機の表示が次々と消えていく―――それは再び、バクフがハッキングを実行して制御権を奪われる前に、その全機をリンたちヴァルキリー隊が掃討、破壊している事を意味していた。


「これでマザ駐屯地は壊滅したわね……どうするバクフ?彼女たちは後顧の憂いを断ったわよ―――次は首都に……あなたのいる、ここに攻めてくるわよ」


 そう呟くサツキは、どこか嬉しそうであった。そして自身を囲む無数のモニターに、ひとつのメッセージがもたらされるのを確認すると、


「あら……いいお友達ね……あなたを助けてくれくれるみたいよ」


 訪れた電脳謀反の新たな展開に、満足そうな笑みを浮かべた。


「リン……あなたに会えるのは、もう少し先になりそうね……」


 モニターに映し出されたメッセージ―――それは全世界でネットワーク化されたガーディアンシステムの、演算数式の中に割り込んできた『フロンティア』という文字だった。




 そしてマザ駐屯地のAI機、KF-16ファルコンの全機破壊を、ヴァルキリー隊が終えた頃―――リンのトムキャットに、ミライミナト駐屯地からの急報がもたらされた。


「どうした?こちらは作戦を完了したが、なにか変化があったのか?」


『司令―――!』


 リンの問いかけに、駐屯地の管制官は憔悴しきった叫びを上げた。


「どうした?落ち着いて、状況を報告するんだ」


『レーダーに多数の人馬戦車ケンタウロスの反応が……この駐屯地を目指して北上しています!』


「北上?南からか?」


 ミライミナト駐屯地の南方に、自衛軍の駐屯地はない。もっとも近いのが、たった今、制圧を完了させた西方のマザ駐屯地であり、他に侵攻してくるとすれば北方―――首都東京からのはずであり、話の辻褄が合わない。


『か、海上を進んできます!識別信号は……KF-18ホーネットです!』


「ホーネット!―――米軍機か!」


 一瞬で話が噛み合った―――ミライミナト駐屯地を目指しているのは、自衛軍機ではなく米軍機―――南方のヨコツカ港に配備されている、米軍空母『ドナルドモルガン』の艦載機であったのだ。


 リンの脳裏に戦慄が走る―――そして『バクフ』のモニターに映し出された『フロンティア』とは、日本の同盟国であるアメリカ合衆国担当ガーディアンのコードネームであった。




 第4話:「逆襲のヴァルキリー」終


 第5話:「フロンティア参戦」に続く




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