第4話:逆襲のヴァルキリー6
そして編隊先頭のミユウのイーグルが、次の目標に向けて距離を詰めると、ヴァルキリー隊は攻撃の三段目を二機で行う、変則のダイヤモンドフォーメーションを再び実行した。
前回はカノンとアカネが張り合う形で、三段目の攻撃が乱れたが、今回は違った。
公式に三段目はトムキャットとファントムの、二枚で当たると決めると、両機は適切な間隔を取りながら前進する。
加えてカノンは教科書通りの、アカネはいつものダンス調のフェイントを各々が交えたため、人工知能は対応に戸惑い、ファルコンの動きが極めて鈍くなった。
カノンとアカネの共闘により、その攻撃力を増したヴァルキリー隊は、その後も次々とファルコンを撃破して、たった五機で敵の十五機編隊を三つまで葬り去った。
残りの敵編隊は五つ―――このまま五対十五の戦闘を、あと五回終えれば、マザ駐屯地のハッキング機を全滅させられる。
順調な戦況に、誰もがそう思った時―――変化が訪れた。
車懸かりの陣でヴァルキリー隊を疲弊させるはずが、それを逆手に取られている事に、人工知能『バクフ』も三編隊を撃破された事で認識し、戦術を変化させるべく五編隊、合計七十五機をヴァルキリー隊から離し、距離を取り始めたのだ。
「ああっ、ファルコンが離れていきます!」
このまま終われると思っていたシオンが、落胆の声を上げる。
「さすがに向こうも、失策に気付いたようなのですよ」
いつもは快活なチトセも、先の読めない展開に、緊張気味に状況を分析した。
「どうする、リン?」
「少し様子を見よう。数の上では、こちらがまだ不利。闇雲に飛び込むのは危険だ」
ミユウの問いに、リンは相手の出方を見る事を伝えると、そのままヴァルキリー隊は警戒態勢のまま、一旦動きを止めた。
アカネはこの展開にイラついた。優勢なのはこちらなのだから、このまま追撃するべきだ―――と、すぐにでもアクセルを踏み込みたい衝動にかられる。
だが、そんなアカネの気持ちを見通したアオイは、
「ダメだよー、アカネ。待つのも戦いだよ」
厳しい表情ながら笑顔を向けて、逸るアカネの動きを制した。その間も、手は忙しく管制システムのキーボードを叩き続けている。
ただならぬアオイの雰囲気に、アカネは何かを問いたい気持ちを抑え、ただその言葉に従った。アオイの邪魔をしてはいけない―――そんな気分だった。
「各機、散開!」
アオイの事に気を取られていたアカネの耳に、突然リンの全体指示の声が飛び込んできた。それは叫びであり、事態の緊急性を感じたアカネは、急いでモニターに目を移した。
敵編隊、ファルコン七十五機が、横一線に並ぼうとしている。その動きの意味が、直感的に理解できたアカネは、急いでアクセルを踏み込み、敵機から距離を取るべくファントムを疾走させた。
次の瞬間、整列を完了させたファルコンから、二十ミリ機関砲の一斉掃射―――弾丸の雨がヴァルキリー隊に向け浴びせられる。
ガン、ガン、と鈍い衝撃がアカネの背後に伝わった。だが逃げる、それでも逃げる。今できる事、するべき事は逃げる事だからだ。
そしてファルコン編隊からの一斉掃射がやんだ頃、ヴァルキリー隊各機も反転停止し、戦場はしばしの静寂に包まれた。
全員、素早く回避行動に入っていたため、甚大な被害とはならなかったが、七十五機からの弾幕射撃に、各機被弾は避けられなかった。
だが二十ミリ弾は、携行機関砲として扱いやすい利点の反面、その威力は弱く、多少の被弾は致命傷にはならないので、
「各機、被害状況を報告しろ―――」
というリンからの言葉に、各機健在との返答が次々と返ってきた。
「ファントムも大丈夫です!」
考え込むアカネに代わって、ファントムはアオイが報告をする。
もし独断で敵編隊を追撃していたら、危ないところだった―――アカネはそんな事は考えていない。どうすれば、この状況を打開できるのか―――その思考は、常に次を考えているのだ。
二十ミリ機関砲にしても、ダガーにしても近接戦用武器であり、そもそも人馬戦車が近接戦機甲兵器である以上、近付かなければ次の一手は打てない。
だが敵は―――人工知能『バクフ』は近付かせない陣形を取ってきた。戦術家ではないアカネが考えても、これは妙手だと認めざるを得なかった。
「どうしますか?撃ち返しますか?」
たまらずシオンが、応戦を問いかけるが、
「いや、この距離では当たっても効果はないのですよ」
と、すかさずチトセがその有効性のなさを説明する。
「ひとまず狙いを絞らせない様に、このまま散開しておきましょう」
ミユウは一斉掃射の効果を下げるために、このまま各機が離れておく事を提言し、リンの言葉を待った。
そんな中、アカネは聞いた―――
「もう少し……」というアオイの言葉を。




