第4話:逆襲のヴァルキリー3
そしてしばしの後、駐屯地外への迎撃はないと判断したヴァルキリー隊は、ミユウのイーグルを先頭に、タンクモードのままダイヤモンド編隊で、マザ駐屯地へ突入した。
近接戦形態のヒューマンモードに変形しない理由は、不測の事態に備えての、緊急離脱を考慮しての事であった。駐屯地の立地データは、同じ自衛軍のため万全に把握してはいたが、退路の確保も戦術の基本である。
ゲートをミユウのイーグルが、二十ミリ機関砲で破壊する―――いまだに反撃の兆候は見えない。
「どうする、リン?このまま突入を続ける?」
抵抗のなさに、不気味さを感じたミユウが、リンに問いかける。
いくら迎撃戦のデータがないとはいえ、一発の反撃もせずに、むざむざとゲートを突破させる人工知能の対応に、リンも不審を抱いたが、
「構わん!このまま進む!」
相手の手の内が見えぬのなら見極めるまでと、ここまま突入を続ける事を指示した。
駐屯地内施設を編隊のまま次々とくぐり抜け、間もなくランウェイに至ろうとするが、いまだ各機のレーダーに敵機の反応がない。
現代の戦闘は、兵器同士で戦うだけが戦闘ではない。
電子戦―――それは戦闘に欠かせぬレーダーを妨害、支援する見えない戦闘。
レーダーを妨害するジャミング、システム根本に侵入するハッキングなどの電子攻撃。その電子攻撃を防ぐ電子防護。電子攻撃を傍受、分析して標的の位置を識別する電子戦支援。
それらの見えない攻防が、ここまでにも展開されていた。
超高精度演算システムである、人工知能『バクフ』が相手なのだ。ある程度の電子戦による苦戦は予想していた。だが最強の管制システムを持つリンのトムキャットでも、バクフ側の電子攻撃に手も足も出ない展開に、自分たちがこれから相手にする敵の大きさを、リンはあらためて思い知るのであった。
「まだ敵機の反応がありません」
「うーん、すごい電子攻撃なのですよ」
不安に耐えかねたシオンと、電子攻撃の威力に圧倒されたチトセが次々に言葉を重ねる。
「もうこのまま目視できる所まで、行かないとダメかもね」
先陣のミユウも覚悟を定めた。もし、まだ見えぬ相手に奇策がある場合、まずその毒牙にかかるのは、先頭に立つミユウなのだ。
カノンも不安そうに、後席のリンの様子を窺うが、当然その表情は見えない。その時リンは、全体管制と並行して、それでも必死に索敵を継続していた。
人工知能バクフによりハッキングされた、KF-16ファルコン百機が待ち構えているであろうランウェイまで、あと百メートル。いまだに敵の手の内は見えない。
誰の心にも緊張感が満ち溢れた瞬間―――
「見えました!」
それはアオイの叫び声だった。
「約十五機が八つに分かれて、ランウェイに円の様に布陣しています!いったん止まりましょう!」
続いたアオイの言葉に、リンは「止まれ!」と全体に指示を飛ばすと、五機は次々にその場に停止した。
誰もが呆然としていた―――ただアカネだけは、アオイの偉業が分からずにキョトンとすると、
「ねえアオイ、なにか見えたの?なに?なに?」
まるでゲームのアイテムでも見つけたかの様に、アオイの管制席のモニターを覗き込んだ。
「コダマ=アオイ……見えたのか?」
驚きがまだ治まらぬ中、ようやくリンが問いかけた。
「はい!モニターに出しますね!」
少しだけ得意顔のアオイがキーボードを叩くと、ヴァルキリー隊各機のモニターに、敵機の配置が表示された。
アオイの言葉通り、約十五機ずつのファルコンの一団が八つ、ランウェイに綺麗な円を描いて陣を敷いている。
「これは車懸かりの陣……ですかね?」
アオイの言う、車懸かりの陣―――それは戦国時代の陣法のひとつで、乱戦の中、陣が車の様に回り、次々と新しい予備戦力を投入してくるという戦術で、その有効性も含めて創作という説もある陣形であった。
「すごい……!」
「完璧に相手の布陣を掴んだのですよ!」
第四世代機最高の管制力を持つ、トムキャットでさえ破れなかったバクフの電子攻撃を、第三世代機ファントムで破ってしまったアオイの電子戦能力に、まずはシオンとチトセが感嘆の声を上げた。
「素晴らしいな……」
続いてリンも、思わず口元に笑みを浮かべながら、アオイの働きを称えた。
「布陣が分かったところで、これでこちらも作戦が立てられるわね。リン、どうする?」
先鋒とともに部隊副隊長であるミユウは、作戦を前に進めるべくリンを促す。
「車懸かりか……確かに乱戦で、数に勝る相手が、機関砲による同士討ちを避けるためには、理想的な陣形だな」
「バクフ……無策と思いきや、意外と考えておりましたね」
車懸かりの陣と予測したアオイに、リンは同意を示すと、カノンもまたそれに相槌を打った。
五対百の戦いだが、包囲殲滅に銃火器を用いれば、百機のバクフ側には同士討ちのリスクが伴う。五機を相手に、十五機を次々と繰り出す消耗戦の車懸かりは、バクフ側にとって安全で有利な戦術であった。
一同がしばし、思案に暮れる中―――
「回るんなら……こっちも回りましょうよ」
突然、アカネの声が割って入ってきた。作戦会議にもっとも似つかわしくない人間からの言葉に、皆は驚きを隠せず、思考が停止してしまった。
「回る……どういう事だ?」
だがアカネの意見に、リンは俄然興味を示し、続きを促す。
「向こうが回りながら、新しいのをどんどん出してくるんなら―――」
アカネはモニターに映る、回転する敵陣のシミュレーション画像を指でなぞりながら、
「こっちも最初のやつを逃さないで、倒すまで追いかければいいのよ!」
「―――各個撃破か!」
アカネの発想に、リンは衝撃を受けた。
確かに受け身に回れば、車懸かりは次々に新手を受ける消耗戦となるが、新手を避けて五対十五の戦闘を完遂すれば各個撃破となる。
それでも、それを繰り返す辛い戦いとなるが、ペースを相手に握られないメリットがある。しかもヴァルキリーの五機は一騎当千だ。五対十五の戦いなら絶対に負けはしない。
(コダマ=アオイといい、このヒビキ=アカネといい……どれだけ私を驚かせるのだ)
旧型機の電子戦システムで、世界最高の人工知能の電子攻撃を破ったアオイ。そして天性の勝負勘で敵陣の攻略法を指摘したアカネ―――いずれも己が及ばぬ才能を見せる二人を、天が自分に与えてくれた事を感謝するリンであった。
「よしヒビキ=アカネの策でいく!もし相手が車懸かりに出れば、我らは最初の相手を追いながら、順次それを各個撃破していく!」
「了解!」
リンの声に、一同が復唱の声を上げる。
「フフン……さあ、みんなで踊ってやろうじゃないの!」
そして自身の策を認めてくれた事に、思わずアカネはリンへの対抗心も忘れて、上機嫌な声を上げ、心を弾ませるのであった。




