第4話:逆襲のヴァルキリー2
リンの言葉に一同は、今回の作戦の重要性をあらためて認識すると、作戦開始に向けて気合いを入れ直した。
「おそらくバクフも実戦での迎撃は、これが初めてでしょうから、乱戦になる可能性が高いわね」
ヴァルキリー隊の副隊長であるミユウは、実戦データに乏しい人工知能が、初めての迎撃戦で戦術を駆使してくる可能性が低い事を示唆する。
人工知能はデータの蓄積でその能力を進化させる。それはこれまでチェス、将棋、囲碁で人類が人工知能に敗北してきた歴史が証明していたが、今回、人工知能はそのデータを持っていない。
戦術とはある意味、相手の戦術あってこその戦術、という側面もあり、数に勝る相手が戦術なしで挑んできた場合、こちらがどの様な動きを取るべきか決めておく必要があった。
「とりあえず、このままダイヤモンド編隊を組んで突入するのですか?」
進発前にブリーフィングで決めた暫定方針を、シオンが確認する。編隊行動は戦術の基本である。
三機ならデルタ、四機ならダイヤモンド、今回は五機なので、中央にリンの指揮官機を入れた、変則のダイヤモンド編隊を組んでいる。
「まあ教科書通りにいくのなら、このままで良いと思うのですよ」
「ちょっと待って、それならアタシはこのまま後ろなの!?そんなの嫌よ!」
おそらくシミュレーションデータで迎撃してくるであろう相手に、現状維持を支持するチトセの意見を聞いたアカネは、このまま後ろのポジションにいるのは御免と、文句を言い出す。
「あなたはもう少し、チームプレーというものを覚えなさいな!前に出るだけが仕事ではないのですよ!」
アカネの勝手な意見を、カノンがピシャリと押さえ込もうとするが、それは火に油を注ぐだけであった。
「アタシはエースなのよ!エースが前に出なくてどうするのよ!」
機体識別のカラー設定で、紆余曲折の末、『A.』のエンブレムを描き込んだ事で、気持ちが大きくなったアカネは、同じくエースを自負するカノンに、自分を前に出せと言い返す。
『何度も言ってるでしょう!誰があなたをエースと認めたのですか!つけ上がるのもたいがいになさいな、このバカ女!」
「言ったわね、このツンデレ泣き虫!」
バカ女と言われて、自分もリンに敗北した後、号泣したのを棚に上げて、アカネは自分の前でリンに抱きつき大泣きしたカノンを、泣き虫と言って罵った。
こうなるともう手がつけられない。ライバルの二人が延々罵倒し合う展開が予想されたが、それを止めたのは二人のやり取りに、「フフフッ」と思わず吹き出してしまったリンの笑い声であった。
駐屯地司令、部隊長、そして崇拝する主人であるリンの失笑に、カノンはハタと我に返ると、
「と、とにかく!あなたもゴールデンヴァルキリーの一員となったからには、隊に合わせるという姿勢を学びなさいませ!」
今回の機体ペイントの再設定に伴い、肩をパーソナルカラーで染める以外に、もうひとつの変更点があった―――それは、ゴールデンヴァルキリーの部隊通称の由来となった、今までリンの機体のみが施していた、胴体部を金色に染めるというペイントを、部隊全員の機体に施すという事であった。
それによって女性だけで編成され、『金色の戦乙女たち』と呼ばれる、隊の結束を固めようというリンの発案であったが、当初から成金趣味と、部隊名さえ嫌っていたアカネは、それに強硬に反対したものの、
「わーっ!リン大佐と同じペイントなんて、光栄ですー!」
と、憧れのリンと同じ機体カラーになれる事に狂喜したアオイに、当然押し切られた。
これによりアカネとアオイも、名実ともにゴールデンヴァルキリーの一員となった―――カノンの言葉は、その自覚を促すものであった。
胸を金色に染めた五機の人馬戦車―――確かに、その一体感は以前より増しており、秘かにアカネもその思いを共有してはいた。
だがやはり、自分が編隊の後尾につくのは許容できないと、アカネが口を開こうとした瞬間、
「ねえアカネ!昔から、部隊の一番後ろって『殿』って言って、一番強い人が任命されるんだよ!」
と、アオイが後尾の重要性を、アカネに説き始めた。
「そ、そうなの?」
アカネは乗ってきた。
「そうだよ!後ろって背中から襲われるから、一番難易度が高いんだよ!殿は戦の華、って言われるくらいだからね!」
どこかで聞いた様な事を、アオイはもっともらしく語る。
確かに殿は、強者が務めるのが戦の常ではある―――だが、それは撤退戦での話だ。今回は逆の侵攻戦である。
同じ後尾でも、撤退戦と侵攻戦とでは、まったくその意味合いは違っており、アカネの無知をいい事に、アオイは見事にその理論をすり替えてしまったのだ。
その事に、アカネを除く全員は気付いている。同時にアオイの、アカネの操縦術にそら恐ろしささえ感じていた。
「そうなんだ……」
「うん。きっと見せ場がいっぱいあるよ」
見せ場がある、というアオイの言葉に気をよくしたアカネは、
「そういう事なら、殿は私に任せなさい!」
なんと、先程まで拒絶し続けていた後尾を、あっさりと受け入れてしまった。
「私も展開が見えぬ相手には、常道で当たるべきだと考える。このままダイヤモンド編隊で突入するぞ!」
アオイの機転に、またもや吹き出したい気持ちを抑えながら発したリンの言葉で、ヴァルキリー隊の初手の形は決まった。




