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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第3話:アンサー11

 アカネの挑発に端を発した、リンとの模擬戦は終幕した。


 いつの間にか、駐屯地のほとんどの隊員がギャラリーとして観戦していた事に気付くと、リンは機体を降りながら、


「ちょうどいい、全員をここに集めてくれ―――話がある」


 と、決意の表情とともに、駐屯地司令として全体招集をかけた。


 わずかの後、ハンガーを背に、すべての駐屯地隊員が整列した。その中には模擬戦を終えた、アカネとアオイの姿もある。


 泣きはらした目で、前方に立つリンを真っすぐ見つめるアカネ。だがその視線には、戦闘前まで抱いていた無条件の憎しみは消え、 むしろそれは越えなくてはならない壁の様に、形容しがたい眩しさを放って、アカネの目に映っていた。


「では皆、聞いてくれ―――」


 一同を見渡した後、リンは口を開いた。


「一連のバクフによる人馬戦車ケンタウロスのハッキング、及びその排除を目的とした宣戦布告の裏には、タカハネ=サツキがいた事は皆も知っての通りだと思う」


 恩師であるサツキの陰謀に、昨夜は激しい動揺を見せたリンだったが、一夜明け思いを定めた今は、その姿に一点の曇りも見えなかった。


「そして昨夜、政府が見解を発表した―――人馬戦車ケンタウロスの問題について、政府は一切干渉しないと」


 それは驚くべき発表であった。国防の主軸たる機甲兵器を、人工知能に全機奪われながら、政府はそれを静観すると発表したのだ。


「その裏にもタカハネ=サツキがいるのは間違いない。大方、国民には一切危害を加えない、国家転覆の意志もないと、政府を懐柔したのだろう」


 今や世界の均衡を図るのに欠かせない存在となった、人工知能ネットワーク『ガーディアン』の開発スタッフであるサツキが綿密に計画を練ったのだ。やろうと思えば、ハッキングした人馬戦車ケンタウロスでクーデターを起こす事も可能であった。


「そのタカハネ=サツキの狙いは『実験』だ!―――人工知能が人馬戦車ケンタウロスの放棄を迫った時、人類がどう出るのか!」


 ここで一度言葉を切って、リンは一同の顔を見渡した。誰の目にも緊張の色が浮かんでいた。


「屈するのか!?抗うのか!?人工知能は何を認め、何を認めないのか!?―――タカハネ=サツキはそれを見定めたいのだ!」


 そしてリンは目を閉じた。昨夜の苦い思いが、再び甦ってくる。


「私はそのために、タカハネ=サツキに仕立てられた……今、皆を束ねる司令としての地位も、彼女の実験の手駒となるために与えられたものだ……」


 副司令の立場として隣に立つミユウも、リンの心情を慮り目を閉じた。


「このミライミナト駐屯地が唯一、ハッキングから外されたのも私がいるせいだ……私に戦える力を残すためにだ……」


 そこまで言うと、リンはカッと目を見開いた。


「私は抗おうと思う!それはタカハネ=サツキのためではない!人が人として生きるためにだ!」


 そしてさらに語気を強めると、


「もしかすると、人工知能の言い分は正しいのかもしれない!―――だがこんな脅迫の様なやり方に、人が従っていいはずはない!だから私は戦う。戦ってその真を、人工知能に問うつもりだ!」


 一息に己が決めた所信を、皆に向かって表明した。


「それこそが、タカハネ=サツキの狙いだとは分かっている……それでも私は、人が人として生きるために、彼女が見たいと言った『アンサー』を……私も見ようと思う……」


 決意に満ちたその表情は、サツキがそのシミュレーションにおいて、リンを人類の代表として選んだだけの事はある、統率者としての揺るぎない風格が漂っていた。


「だが我々は軍人だ……そしてその長たる政府は不干渉を表明している―――だから、この先のタカハネ=サツキとの戦いは、いわば私の私戦だ!」


 そこまで言うと、リンは表情をやわらげて、


「だから、この戦いへの参加は強制しない。去りたい者は現刻をもって、他駐屯地への転属という形で私が手配するので、安心してここを離れてもらって構わない」


 と、タカハネ=サツキ、及び人工知能『バクフ』との決戦への、非賛同者への離脱を促した。


 すると間髪入れず、「リン様!」という叫びとともに、


「私は残りますわ!リン様の従者として、どこまでもお供仕りますわ!」


 まずはカノンが残留の意思を表明した。


 続いて、「私も残ります!」「一緒に戦うのですよ!」と、シオンとチトセも、ともに戦うと声を上げた。


 そして、それに触発される様に、


「司令、私もご一緒します!」「人工知能にいい様にされてたまるか!」「私は司令の考えに賛同します!」


 と、次々と隊員がリンに付いていく事を宣言し、それは駐屯地の全員という結果になった。


 思いもよらない流れに、リンは感動しながら隣のミユウを見ると、「私は答える必要があるかしら?」と、いつもの様に悪戯っぽい微笑みが返ってきた。


 そしてミユウは、「あとは彼女たちだけね」と、いまだ返答を保留している最後の二人―――アカネとアオイに視線を移した。


 それに合わせて向き直ったリンの顔を、アカネもアオイも真っすぐに見つめている。その真意を聞くべく、リンは二人の言葉を待った。


 そして二人は目を合わせ、同時に頷くと、


「アタシたちも残るわ!」「残りまーす!」


 と、リンの私戦に付いていく事を宣言した。


「本当にいいのか?」


 人工知能との決戦の切り札として、期待を込める二人の言葉だけに、リンは思わず念を押した。


「フン、あんたは人を上から見下ろす、気に食わない女だと思っていたけど―――」


 この期に及んで、またリンへの暴言を吐こうとしているのかと慌てる一同をよそに、


「人が人として生きるため、って言ったやつ―――気に入ったわ」


 なんとアカネは初めて、リンを称賛する言葉を口にした。


「アタシだって、人工知能なんかに好きにされるのは御免よ!だから……手伝ってあげるわ」


 そして、「その代わり―――」と言葉を続けた。


 以前はこの後、「感謝してよね」と高飛車な発言をしてカノンの怒りを買って殴り合いになったが、今回は違った。


「その代わり―――あんたの言う『アンサー』が出たら、アタシたちともう一度、勝負しなさい!それが条件よ!」


 そう言いながら、アカネは不敵ながら爽やかな笑みをリンに向けると、


「今度こそアンタを倒してみせるわ!それがアタシの『アンサー』よ!」


 と、リンに向けて再戦の勝利を、高らかに宣言するのだった。




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