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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第3話:アンサー3

 まずはアカネが、ファントムのアクセルを全開に踏んで突進を開始した―――と思われたが、次の瞬間、それを見守る一同はその挙動に唖然とした。


 アカネのファントムが蛇行しながら、前に進んでいるのだ。


 通常、この形式の模擬戦は『直進』をして、お互いの右側を通過したら戦闘スタートというのが『暗黙のルール』であった。だがアカネは蛇行している。


 リンも開始前に「直進して」とは言った。だが明文化されていないルールなど知った事か。前進して最終的に相手の右側を通過すれば問題ない、と解釈したアカネは迷わずファントムを左右に振って、相手を撹乱する戦法に出た。


 このやり口にアオイも一瞬びっくりしたが、すぐに気を取り直してアカネの選択を支持した。直進はあくまで紳士協定。それなら、その裏をかくのもまた戦術だと。このあたりアオイの思考はドライかつ柔軟で、アカネのパートナーとしては最適であった。


「卑怯な!」


 だが、カノンはアカネの行為が許せずに、怒りの声を上げる。


「まーた、やってくれるのですよ、アカネは」


 チトセは、また常識を打ち破ったアカネの戦法が、楽しくて仕方ない。


「えっ、えっ、アカネさん、初めてだから……知らなかった……だけじゃ」


 アカネの反則すれすれの行為に、それでも見え透いたフォローを入れるシオン。


 三者三様の意見が出揃い、二機の距離も次第に迫ってきた。


 依然、タンクモードのまま加速を続けるリンのファントムを確認すると、


「アカネ、そろそろ左に大きく振って!」


 アオイが、自身が算出した走行ラインをモニターに表示しながら、アカネに指示を飛ばした。


 そのラインを目にしたアカネは、自分の狙いを完璧に理解してくれているアオイを、今すぐ抱きしめたいと思うほどに狂喜した。


 アカネの狙い―――それは、リンのファントムとの接触手前で機体を大きく左に振り、右に戻りながら、その背後を取るというものであった。


 相手の右側面から、えぐる様に背後に回り込むが、形として相手の右側を通過しているのだから、ルールの最低条件はクリアしている。


 アオイがモニターに映し出した想定ラインは、その狙いを完璧に実行できる理想的な軌道であった。


 まさに阿吽の呼吸。語らずとも瞬時に、その常識を逸脱した発想が理解できるアオイの思考回路もまた、アカネ並みに飛んでいるのかもしれない。


「完璧よ、アオイ!」


 そう言いながら、アカネは操縦桿を右に切り直し、アオイの指定した走行ラインをトレースする。


 この模擬戦の一般的な戦法は、お互い最大加速の直進ですれ違い、そのまま敵機との十分な距離を取ってから、次の動きに移るというものであり、その点、最大加速で直進してきたリンは、王道の動きを取っているといってよかった。


 獲った―――勝利を確信したアカネ。


 だがリンのファントムでも、ミユウが戦術解析を済ませ、その結果をモニターに映し出している。


 そして変則的な形で、遂に二機がお互いの右側を通過した。


 アオイの的確なライン指定で、リンの背後に進んだアカネは、その背中に射撃を加えるべく、左から右に切り込んだ勢いそのままに、右回転のスピンターンで機体の向きを直す。


 ブレーキ操作も完璧に決まり、これで通過したリンの背後に完璧に向き直ったその時―――リンのファントムが視界から消えた。


 正確に言えば、視界から逃げ去ってしまったのだ。


 リンは二機がすれ違った瞬間、タンクモードのファントムに急ブレーキをかけると、そのまま左旋回のスピンを二百七十度の角度ぴったりに止めると、素早くギアをリバースに入れ、そのままバックで急加速させた。


 結果として、ゆるい軌道で相手の背後を狙ったアカネに対して、リンが直角の軌道で逃げを打った形となった。


 しかも逃げた方向は、アカネから向かって左。右旋回をかけた直後の機体では、急に左には向けないため、アカネは追撃もままならない。


 急ブレーキのスピンで直角に進行方向を直す場合、人馬戦車ケンタウロスの加速では、九十度で挙動を止める事は不可能なため、二百七十度を選択するのは妥当であった。


 だが、背後にまわったアカネの左に進路を取るのなら、右旋回なら前向きに機体を向けられたのに、リンは左旋回を選択して、わざわざエンジンブレーキのかかるバック走行で逃げた。


 不可解なその行動の意味は、すぐに恐ろしい形で判明した。


「アカネ、止まらないで!撃たれるよ!」


 予想外の展開に、一瞬ファントムを硬直させたアカネだったが、アオイの叫びにとりあえず、その指示通り機体をダッシュで前進させ回避運動をとった。


(撃たれるって、なによ?向こうは逃げてるんじゃない)


 そう思いながら、アカネはチラッとリンの機体に目をやると―――なんと、その機関砲が自分たちを狙っているではないか。


 リンのバック走行は、回避と同時に攻撃をするための選択だった事に気付いたアカネは、背筋に冷たいものが走った。




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