第1話:人馬戦車2
人類が生み出した超高精度演算システム―――人工知能『ガーディアン』は、その優れた未来予測能力で、世界の武力衝突、経済危機を事前解決へと導き、世界は恒久平和の時代を迎えていた。
その成果に満足した人類は、国連主導のもと、『ガーディアン』システムを世界各国の首都に細分化配置し、そのネットワーク化によって、この恒久平和を確固たるものにせんと試みた。
それは成果を挙げ、人類は『ガーディアン』への傾倒をますます深くして、五十年の月日が流れた現在―――
日本担当のガーディアン『バクフ』は突如、
『人類の人馬戦車運用は、恒久的世界平和の妨げになるとの結論を算出しました―――よってバクフは、現刻をもってその排除を開始します』
国家防衛の要となる、人型機甲兵器『人馬戦車』の排除を、打診でも、相談でも、警告でもない、その異例の一方的通告によって開始したのだった。
「アオイー、いるのー?」
人気のないハンガーに、ミライミナト学園舞踊科一年、ヒビキ=アカネの声が響き渡る。
油の匂い、そこいらに転がる工具―――機甲科のハンガーは、うら若き乙女が通う女子高等学校とは、とても思えない殺伐さを醸し出してアカネを出迎えた。
だがそれにも慣れたアカネが、無遠慮に中に進んでいくと、前方にそびえる戦車の上に人間の上半身が乗っかった様な乗り物―――人馬戦車のキャノピーが開き、
「アカネー、自主練は終わったの?」
機甲科一年のコダマ=アオイは、嬉しそうに手を振った。
「一応ね。まあ、満足はしてないけどね」
「アカネは練習熱心だよね、日曜日なのに」
「それを言うならアンタだって一緒でしょ。何が楽しくて、JKが日曜にそんなキテレツなもんの中に籠ってんのよ」
「ほほーっ、キテレツときましたか」
そう言うと、アカネの言葉がツボにはまったアオイは、眼鏡を落としそうになるほど、ゲラゲラと笑い出した。
そんなアオイが笑い終えるのを待つ間、アカネは今取り組んでいる課題のダンスを、その広いハンガーの中で無人の観客を前に、華麗に舞い始めた。
規則正しいステップ、そして変則的なターン、時に優雅に、時に大胆なその演舞は、無骨なハンガーを壮大なステージへと昇華させる様な、圧倒的な輝きを放った。
そして最後のターンをアカネが決めると、激しい拍手がアオイから送られた。
「すごいよ、アカネ!また腕を上げたんじゃないの!?」
「当然でしょ!いずれアタシは頂点に立つのよ!誰にも負けはしないわ」
自身の踊りで世界の頂点に立つ―――いつもそう言って誰にも譲らない、純粋無垢で勝気な瞳が、アオイには眩しかった。
今一度、踊り出さんとステップを始めるアカネに、
「ねえ、乗ってみない?人馬戦車」
と、コクピットに上がってくる様に、アオイが手招きする。
「はあ?なに言ってんのアンタ」
「息抜きよ。それと観覧料かな。いいから早く」
親友ながら、変なところが強引なアオイに導かれるまま、アカネはその機体に足をかけた。
足を折りたたんで形成している、その戦車部の大きさは乗用車程度。その上に乗っかる人型の上半身の胴体を、ほぼすべてくり抜いたコクピットまでの数メートルを、華麗なステップでアカネは駆け上がり、アオイの隣のシートに身を沈めた。
「狭いのね」
それがアカネの第一印象だった。
「軍用だからね、乗用車とは違うのよ。でもファントムは複座機だから広い方よ。今は管制システムの進化で単座機の時代だから、ファントムみたいな複座機はもう退役してるの。そのおかげで、うちみたいな機甲科がある学園に、この子は実習機として来たんだけどね」
「ファントム?」
「この機体の名前よ―――KF-4ファントム。ガーディアンシステムのおかげで、AIですべて動いていた人馬戦車を陣頭指揮するべく生み出された、初の有人人馬戦車。指揮官機として、AI機を私が座っている士官席で制御するの、すごいでしょー!先週から、AI機の制御システムのシミュレーション訓練が始まってね―――」
眼鏡を光らせ、一気にまくし立ててくるアオイ。
自由と未来への可能性をモットーとして、様々な学科が存在するこのミライミナト学園でも、人馬戦車の操縦、整備開発を学ぶ機甲科は、特異な存在だった。そこに好き好んで入学してきたアオイの情熱は、ダンスにかけるアカネの情熱に負けるものではなかった。
だが、その機関銃の様な説明の意味がわからないアカネは、たまらなくなって、
「で、アタシの座ってる席が操縦席って事ね!」
と、話をまとめにかかった。
「その通り!」
やれやれ、これでやっと話が終わるか、と息をついたアカネの耳に、アオイのとんでもない提案が飛び込んできた。
「じゃあアカネ、操縦してみようよ!」