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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第3話:アンサー2

 そして、思いがけぬリンの挑戦に応じたアカネとアオイは、機体のセットアップに入った。


 勝負は模擬戦ディスクによる、光線銃を用いた撃破戦。レーザー光線発射機を、機体に取り付けた受光器が感知して撃破認定する。


 AI支援機は、バクフからのハッキング対策のため、駐屯地全機のAIを取り外したので今回は使用できない。すなわち、有人機VS有人機のガチンコ勝負であった。


 クスノキ=リンとの対決。望んではいたが、まさかトムキャットをよこせと言った、あんな挑発に乗ってくるとは思わなかったアカネは、コクピットの中で考え込む。


 挑発したつもりが、実は挑発に乗ったのは自分ではないのか―――またあの女に、自分は見透かされたのではないかと。


 難しい顔を作るアカネに気付いたアオイは、口元をニヤリとさせながら、その肩を勢いよくバーンと叩いた。


「な、なによ、いきなり!?」


 突然の衝撃に驚いたアカネが、目を丸くしながら抗議の声を上げる。


「考えたって仕方ないよ……勝とうよ」


 ニコッと微笑むアオイの言葉に、キョトンとするアカネ。


 いつもアオイはこうだ。振り回されている様で、気がつくと自分を引っ張ってくれている。熱烈なリンのファンのくせに、それに勝とうと励ましてくれる。いつも、いつも、いつも―――絶対、自分の味方でいてくれる。


 その思いに感謝しているが、それをけっして素直に言えないアカネは、


「当然でしょ!あの上から目線女、叩きのめしてあげるわ!」


 精一杯の憎まれ口と、ふてぶてしい笑顔を見せる事で、アオイの気持ちに応えた。


「さあ、リン大佐も準備できたみたいだよ」


 アオイの声に、モニターに目を移すアカネ。


 そこに映るのは、自分たちと同じKF-4ファントム。今回の模擬戦にリンは自機であるKF-14トムキャットではなく、ファントムを選んだ。


 第四世代機であるトムキャットと、旧型の第三世代機であるファントムとの戦力差を生まないための配慮ではあるが、リンのそういう所もアカネは気に食わない。


 今回の勝負には、リンの乗機であるトムキャットの所有権が賭かっている。いくらかつてのエースとはいえ、旧型機へのブランクは相当のはずだ。それでも余裕と思っているのなら、なおさら腹が立つ。


絶対に負けられない―――アカネの気合は否応にも増してくる。


「こうしていると昔を思い出すな」


 久しぶりにファントムのコクピットに座り、操作系の確認を終えたリンは、隣のミユウに向かい語りかける。


「そうね。まさか、またあなたと、こんな形でファントムを動かすなんて思ってなかったわ」


 士官席で管制操作をしながら、ミユウも感慨深げに答える。


 かつてのコンビの復活であった。第三世代機が全盛だった時代、この二人は操縦リン、管制ミユウでファントムを駆り、人馬戦車ケンタウロス界の不動のエースとして君臨した。


 時は流れリンは駐屯地司令に、単座の第四世代機への移行に伴いミユウも操縦士に転向した。


 ともにファントムには相当のブランクがあるはずだが、二人とも特に緊張するでもなく談笑を続ける―――負けるなどとは毛頭思っていないのだ。


「どうするの?攻める……?それとも受けて立つ?」


 ミユウの問いに、リンは涼しげな表情を崩さないまま、


「ヒビキ=アカネの動きを感じたい。まずは受けて立つ」


 と、まずは守勢に回る事を宣言した。


 同時にアカネ、アオイ組のファントムのコクピットでも、


「どうする?攻める?まずは向こうの出方を窺う?」


 アオイがアカネに、同様の質問をしていた。


「もちろん攻めよ!最初の一撃で決めてやるわ!」


 期待通りのアカネの返答に、アオイも強くうなずくと、同時にリンからの無線が入った。


『どうだ、そちらの準備は?こちらは、いつでもオーケーだ』


 アオイは、アカネに目配せすると、


「リン大佐、こちらもオーケーです。よろしくお願いします!」


 ハツラツとした声で、開戦準備が整った事を丁寧に報告した。


「よし、では始めよう。スタートは先程、説明した通り。このまま直進して、お互いの右側を通過した時点で戦闘開始だ」


 そう言いながら余裕の表情のリン。隣のミユウは、いつもながらに朗らかに微笑んでいる。


 対してアカネは、空回りせんばかりの気合を放ち、隣のアオイも心なしか緊張の面持ちだ。


 無理もない―――アカネにとっては、もはや宿敵ともいえる相手との対戦。アオイにとっては、長き憧れのエースと四つに組んで人馬戦車ケンタウロスを競わせられる、夢の様な舞台なのだ。


 戦場は駐屯地のランウェイ、および周辺を用いた遮蔽物ゼロの平地戦。約五十メートルの距離を挟んで向かい合う二機が直進し、お互いの右を通過した時点で攻撃が許される。


 開始時の機体体型は、戦車体型のタンクモード、人型体型のヒューマンモード、どちらの選択も自由である。


 アカネは当然、得意とするヒューマンモードを選択。もうすでに脚部車輪を降ろして、ホイールドライブで特攻する気十分とばかりに、その場でアクセルターンを繰り返している。


 対するリンはタンクモードを選択。平坦なランウェイを最大加速で走るならば、こちらの方が速い。


 リンが模擬戦に、しかも久々のミユウとのコンビでファントムを駆る。そしてその相手は、突如現れた高校生ファントム使い、ヒビキ=アカネ。


 話を聞きつけた隊員たちが、続々とギャラリーとして集まり、ランウェイ周辺は異様な熱気の会場と化した。


「リン大佐とミユウ中佐のファントム、私、初めて見ます!」


 ギャラリーに加わったシオンは、リンとミユウの勇姿に、もう興奮しきりの体であった。


「トムキャットではなく、ファントムで。しかも往年のコンビでいくところが心憎いのですよ」


 同じくギャラリーとなっているチトセも、今回のリンの演出に拍手を送る。だが、そう言った後に、


「まあ、リン大佐としても、アカネとアオイをこのあたりで、自分で測っておきたいという狙いもあるのですよ」


 と、模擬戦の裏に隠された、リンの真意を推測した。


「フン―――」


 チトセの指摘に、まったく同意見のカノンは面白くない。できれば自分がリンの代わりとして、アカネを叩きのめしてやりたいぐらいだ。


 リンとカノンのトムキャットをよこせと言った、アカネの暴言に端を発した今回の模擬戦。リンはアカネの言葉を巧みに利用して、またもやアカネの事を知ろうと試みている。


 まったくもって面白くない。不愉快千万の思いにくれるカノンは、


「まあ、いいですわ。あのバカ女……コテンパンに痛い目を見るといいですわ」


 アカネを罵りながら、その完全敗北を予想する事で、溜飲を下げるのだった。


 そしてアカネの、リンのファントムが、お互いに向かって動き出し―――遂に模擬戦の幕が切って落とされた。




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