第2話:電脳謀反9
そして、マザ駐屯地からのKF-16ファルコン十二機を迎撃するために、KF-15イーグルを疾走させるカノンも、その胸に並々ならぬ闘志を燃やしていた。
いつもは全体指揮官機であるKF-14トムキャットの操縦を務めるため、カノンは自由な戦闘行動ができない。だが今回は、リンが駐屯地に残ったため、カノンもイーグルを駆り、自由な戦闘が許されるのだ。
今こそ『クスノキ=リンの再来』と言われた己の実力を、崇拝してやまないリンに、そしてその期待を一身に受けているアカネに見せつけてやる―――その決意は、ある種の悲壮感さえ帯びていた。
バクフのハッキングを警戒して、今回は支援機は連れていない。指揮官代行のミユウ、そしてカノン、チトセ、シオンの文字通り四機のイーグルのみでの迎撃。
対してこちらに向かう、マザ駐屯地でハッキングされたAI機ファルコンは十二機。
第四世代機同士の戦闘で、一対四の状況は容易ではない。だが、名誉挽回にかけるカノンの思考は、それとは逆の発想を導き出していた―――ここが勝負だと。
迎撃ポイントにイーグル四機が近付くと、ミユウが回線を開く。
「そろそろファルコンと接触するわ。今回は支援機なしで、複数機が相手よ。みんな気を抜かないでね」
「了解なのですよ」「了解しました」
チトセとシオンが、すぐさま応答するが、カノンはしばしの沈黙の後、
「ミユウ様、よろしいでしょうか」
うやうやしい口調でミユウに伺いを立てた。カノンはリンの親友であるミユウにも、リンに準ずる崇敬を抱き、その呼び名に『様』を付ける。
「なにかしら、カノン大尉」
「今回の迎撃……私にお任せいただけないでしょうか?」
それは、進行してくる十二機を、自分一人で撃破するという表明であった。
「カノン、なにを言ってるのです。相手は十二機なのですよ!」
「お姉様、それはさすがに無理です!」
カノンの暴挙ともいえる言葉に、チトセとシオンも反対の意見を述べる。
だが、ミユウは少しだけ考えると、
「いいわ、やってみなさい」
と、カノンの暴挙に賛意を示した。
リン、ミユウ、カノン、チトセ、シオンで構成されていたゴールデンヴァルキリー。リンの操縦士を務め、絶対エースを自負していたカノンに、突然飛び込んできたアカネの存在―――それは、崇拝してやまないリンの期待を受けながら、荒削りながらも日々結果を残していく。
嫉妬、対抗心、立場、そのすべてが混ざり合って、カノンの心は毎日、かきむしられんばかりの痛みを抱えていた。
無関心を装いながらも、そのすべてを理解しているミユウは、可愛い後輩に見せ場を与えるべく、人を食った様な悪戯っぽい声で、カノンに告げる。
「チャンスは公平に与えなくちゃね」
今、アカネは駐屯地で、ハッキングされたファルコンを相手に一機で戦っている。ここでまたアカネが撃退に成功すれば、また新たな戦果を重ね、カノンの焦燥はさらに募るに違いない。
そう考えたミユウは、カノンに一対十二の戦闘をさせる事を決断した。そして決断すると、ミユウの対応は早かった。
「チトセ中尉、シオン少尉。私たち三機は、カノンの支援に回ります」
そう言うなり、ダイヤモンド編隊の先頭にいたミユウのイーグルが後方に退がった。そして入れ替わる様に、その後ろにいたカノンが前方に上がる。
「感謝いたします、ミユウ様」
「アカネ准尉は、一対三よ」
カノンの謝辞に、ミユウはアカネの戦況を伝える事で、ゲキを飛ばす。この辺の手綱さばきは、まるで老練の指揮官の様な上手さがあった。
「格の違いを……見せてやりますわ」
それに反応したカノンは、静かな闘志を燃やす―――もう間もなく、十二機の敵機は視界に入ろうとしていた。
「チトセ中尉は私の右翼。シオン少尉は左翼に付いて、私を中心に三機で並列に並んで。今回、私たち三機は支援機よ」
本気でカノンに、一対十二の戦闘をやらせる気なのか―――チトセとシオンは困惑しながらも、それでもミユウの指示通り機体をその両翼につけた。
「二人は私の動きに合わせて、援護射撃を加えて……カノン大尉―――あなたの間合いで始めなさい!」
ミユウの言葉と同時に、タンクモードのホバー走行で前進してくる十二機のファルコンが視界に入る。
「では……参りますわ!」
そう言い残しカノンのイーグルは、同じくタンクモードのまま編隊を離れて突出した。
「回り込むわよ。遅れないで!」
そしてミユウもタンクモード三機の並列編隊で、敵機の側面を目指す。
迎撃ポイントは駐屯地に近い、湾岸施設『ミライミナト』の敷地内にある大型公園。遮蔽物の少ないこの地形は、まさに操縦者の技量が問われる、難易度の高い戦場であった。
だが己の技量を誇示せんと血をたぎらせるカノンにとって、この状況は願ってもない展開。荒ぶる気持ちのせいか、笑みさえ漏れてくるほどであった。
カノンのイーグルのコクピットに、ロックオンアラートが鳴り響く。そしてそのあまりの数に、管制システムが追いつかないほどの警告がモニターいっぱいに広がる。
正面に迫る敵―――ファルコン十二機がカノンに向かって、その手に持つ機関砲で一斉掃射を加えんと、編隊を横一線に広げた瞬間。
「こぉんの、クソが!クソが!クソがー!」
カノンは魂の叫びを上げると同時に、イーグルを素早くヒューマンモードに変形させると、その機体を前方にスライディングさせながら、機関砲を乱射して弾幕を張った。
ただ弾幕を張っただけではない。その射撃はタンクモードのファルコンの戦車部前方―――人馬戦車がヒューマンモードに変形した際に、その動きの要となる膝に変形する部分を、地面すれすれから撃ち上げたのだった。
AI機の予測演算では、人馬戦車の正面攻撃が地面から繰り出されるなどというデータはない。カノンの戦術はそれを見越した、まさにAIの裏をかく奇襲であった。
予想外の先制攻撃に、ファルコンは散り散りに回避運動を取り始め、カノンのイーグルから距離を取る機体の他に、反撃の近接戦に備えヒューマンモードに変形を試みる機体もあったが、そのうちの三機の動きが鈍い。
それはカノンの機関砲から発射された二十ミリ弾を、まともに膝に食らってしまった機体であり、挙動を乱す以外に、地面に崩れ落ちるものもあり、その映像を見ながらカノンは妖しくほくそ笑む。
そしてバランサーを巧みに利用し、スライディングから素早く立ち上がったカノンは、イーグルのホバーを全開にしながら、憐れな三機に接近すると、
「このクズが!クズが!バクフのクズが!」
人馬戦車の排除を掲げ、人類に謀反を起こした人工知能『バクフ』を罵りながら、瞬く間にそれを蜂の巣にしてしまった。
「さすがに下からの攻撃は、予想できないわね」
ミユウは冷静な声ながら、カノンの天才的な奇襲戦法に舌を巻いた。
「なんだか、敵機の動きが一瞬止まった気がしました」
「あれは予想外のカノンの動きに、AIが思考を停止させたのですよ」
シオンの疑問に、データ頼みのAI機の弱点をチトセが分析する。膨大な戦闘データの蓄積により、その強さを発揮するAI機はその反面、初見の動きには脆い。それは既成概念を打ち崩すアカネの操縦に翻弄される、AI機の姿が証明していた。
それに反感を抱きつつも、柔軟に自身の戦闘にその手法を取り込むカノンは、やはり稀代の人馬戦車使いの一人であった。
「さあ、感心するのはここまでよ。カノンの援護よ!」
そう言いながらミユウが機銃を、敵機の軌道を先回りして撃ち込む。その射撃に足を止めたファルコンがまた一機、カノンの餌食となった。
「まだまだ、これからですわ!」
気迫の雄たけびとともに、カノンの駆るイーグルは、ミユウの水際だった指揮による三機の支援を受けながら、一機、また一機と、その撃破数を重ねていったのだった。




