第2話:電脳謀反7
「はあっ、倒す?ここで?大丈夫なの?」
いつもは血の気が多く、アオイになだめられてばかりのアカネだったが、ハンガー内で敵機を倒してしまおうという、アオイのこの提案には、さすがに驚いた。
「ここハンガーの中よ。こんな狭い中じゃホイールドライブもできないし……」
モニターに映る周囲の状況を確認して、アカネは息をのんだ。
「本来、ヒューマンモードのホイールドライブは、補助装置だよ。今日は二足歩行でやってみようよ!」
このハッキングは陽動。敵機がこれ以上は増えないと判断したアオイは、二足歩行戦の経験をアカネに積ませるべく、笑顔でアカネを追い詰める。
「やってみようって、アンタねえ……もう、分かったわよ、やってやろうじゃない!」
アオイの性格を理解しているアカネは、これはやるしかないんだと覚悟を決めた。
そして、KF-4ファントムをタンクモードのまま後退させて距離を取ると、すかさずヒューマンモードに変形させた。
正座をした形で、戦車部を形作っていた脚部が、駆動音を立てながら、二本の足に変形する。モニターの視界もせり上がり、ファントムは人馬から人への変化を完了させた。
それに合わせて、敵となったAI機のKF-16ファルコンも、その形態をタンクモードからヒューマンモードに変形させてくる。
そしてやはり、ファルコンもこの狭いハンガー内での戦闘に、ホバリングを選択する意思はないらしく、その足を地面につけたままであった。
そこに管制室のリンからの無線が入る。
『ヒビキ=アカネ、コダマ=アオイ、聞こえるか?現在、ハッキングされたのは、そこにいる三機だけだ。今、急ぎ整備班に、その他の全支援機のAIの取り外しを命じている。そこはお前たちだけで頼めるか?』
「はあっ?嫌だって言っても、やらせるんでしょ?なら、やってやるわよ!」
すかさずアカネが、リンの声に反応する。
「リン大佐、おそらくこのハッキングは陽動です。AIの取り外しは、時間をかけて大丈夫だと思われますので、作業は私たちから遠い機体から始めてください。なるべく早く、こちらも終わらせますので」
続けてアオイが、今回の敵の狙いと、戦闘域での危険作業を整備班にさせないための、冷静な分析をリンに報告する。
『分かった、そちらは頼んだ。マザ駐屯地のファルコンが十二機こちらに近付いている。私はここに残り、ミユウの指揮で四人を発進させる』
リンがそう言い終わるやいなや、次々にKF-15イーグルが、ヒューマンモードの二足歩行で、アカネたちと対峙するファルコン三機に迫ってきた。
今回はリンが残るため、カノンもイーグルに乗っており、その数は四機。ファルコンはすれ違い様の一撃を回避するために、イーグルに道を開いた。この臨機応変の動きもAIの戦闘学習能力の一端を示していた。
そしてファントムとのすれ違い様、カノンのイーグルは、アカネに回線を開くと、
「いいこと!?私は絶対に、あなたには負けないわ!」
そう言い放ち、なんとイーグルはファントムに、ショルダーチャージを食らわせてから、通り過ぎていった。
「うわ、うわ、なにすんのよ、アンタ!?」
機体が揺れて、慌てたアカネだったが、それはけっしてバランサーの制動範囲を超えない一撃であり、軽いご挨拶であった。
「あなたは、あなたの仕事を全うなさい!私は、私のやり方で、格の違いを見せつけてやりましてよ!」
そう言い終えると、カノンのイーグルも僚機に続いてハンガーを出るなり、機体をタンクモードに変形させて、迎撃ポイントに向かい、ランウェイを風の様に去っていった。
「カノンさんの言う通りだよ、アカネ。私たちはこの三機を安全に沈黙させるのが仕事だよ」
残されたファントムのコクピットで、アオイはアカネを鼓舞する。
「分かってるわよ!しっかし、クスノキ=リンだけじゃなくて、あのツンツン女からも、上から目線で言われたのが気に食わないわ!」
そのアカネは、アカネなりの理由も含めて、その闘志を燃え上がらせた。
「大丈夫―――アカネならできるよ」
「当然でしょ。アタシを誰だと思ってるの!」
初めての二足歩行戦に、内心緊張していたアカネだったが、アオイのエールは千の武器に勝る力となって、その背中を押したのだった。




