第2話:電脳謀反6
「やーだー、アカネ。クシャミする時はそっぽ向いてよ」
「ごめん。なんかいきなりムズムズきたから、間に合わなかったわ」
話の途中で、突然、特大のクシャミをした事にアオイは苦言を呈したが、特に悪びれる風もなくアカネは鼻をグスグスいわせながら、鼻頭をグリグリとなでた。
「えーっと、で、カノンさんは小さい頃から、リン大佐のお付きだったってとこまで、聞いたんでしたっけ?」
話を元に戻すべく、アオイはここまでの話の流れを確認した。
「はい、リン大佐のクスノキ家は軍の名門の家系で、私のマキナ家はその遠縁にあたります。そのご縁で、お姉様はリン大佐のお付きを務めてまいりました」
「はっ、いいご身分ね。子供の頃からお付きって……一般人の私たちには分からない世界ね」
自身とのあまりの境遇の違いにアカネは呆れて、アオイにそう言いながら、三人で並んで座るファントムの戦車部の上で、また寝転んでしまった。
「アカネは踊りを学ぶため、私は人馬戦車の事を学ぶために、それぞれ地方から出てきたからね」
「それで、こんな事に巻き込まれるなんて思ってなかったわよ」
アカネは独り言の様に呟いた。確かにこの一週間でアカネの、そして日本の境遇は一変した。
「ご家族は、ご無事でいらっしゃいますか?」
心配そうに、シオンが問いかける。
「幸い私のとこも、アカネのとこも、基地がない土地だからそれは大丈夫でした。でも自分が今、人馬戦車に乗って戦ってますとは……さすがに言えないですね」
「そうですよね……私も本当に申し訳なく思います」
「別にシオンが謝らなくてもいいわよ。アオイは人馬戦車に乗れて、内心喜んでるんだから」
アカネのツッコミに、その通りのアオイは頭をかきながら苦笑いするばかりであった。
「お姉様は、リン大佐のためなら命だって捨てられるほどにお慕いしています。だから、アカネさんにかけるリン大佐の期待が羨ましいのです。だからといって、叩いた事はいけないと思っています。本当にすみませんでした」
「あれが期待ね……」
迷惑そうな表情を作ると、
「もう、いいわよ。シオンの気持ちは分かったし、わざわざ来てくれてありがと」
アカネは起き上がるなり、シオンの手を取りランウェイまで駆け出した。
「アカネさん、なにを?」
突然の事に、慌てるシオン。
「約束でしょ。アタシに日舞のすり足のコツ、教えてよ」
瞬間、シオンの顔が華やぎ、「はい!」と返事をするやいなや―――
ミライミナト駐屯地に、スクランブルの警報が鳴り響いた。
「なによ!これから、いいとこだったのに!」
アカネの苦情などお構いなしに、
『ヴァルキリー隊、全機発進準備。繰り返す、ヴァルキリー隊、全機発進準備』
ゴールデンヴァルキリーの発進を命ずる、スクランブル放送が繰り返しアナウンスされた。
「アカネ、シオンさん、行こう!」
二人を促すアオイだったが、次の瞬間、驚くべき異変に気付くと、
「アカネ、ファントムに乗って!支援機が動き出してる!」
ファントムのキャノピーを開け、素早く乗り込み、アカネを隣に手招いた。
アオイの言う通り―――ハンガー内の自軍支援機、KF-16ファルコンが起動している。
AI支援機であるファルコンは、KF-15イーグルの制御下におかれるはずなのに、それが勝手に動いていると言う事は、考えられる事はひとつ。
―――人工知能ガーディアン。その日本担当であり、今、人馬戦車排除を掲げ、謀反を起こしている『バクフ』のハッキング攻撃であった。
だが、リンたちが黒幕と疑う、タカハネ=サツキの通告により、バクフの戦線布告以前に、ミライミナト駐屯地はAI機のハッキング対策を終えていた。
それが今、ハッキングを受けているという事は、バクフの―――そしてタカハネ=サツキの攻撃が、第二段階に移行した事を意味していた。
「シオンさんは、急いで退避してください!ここはアカネと私でなんとかします!」
アオイはそう言い残して、アカネが乗るなりファントムのキャノピーを閉じると、士官席のコンピューターを電子戦モードに切り替えた。
電子防御をして、ハッキングされた支援機を元に戻すか―――いや、完全にデータの書き換えまでされていれば、防御は意味がない。それなら電子攻撃を加えて、その動きを封じるか。
アオイが、その知能をフル回転させる。
今のところ、起動しているAI機は三機―――やろうと思えば、この駐屯地の全機をハッキングする事も可能なはずだっただろうに―――すると、これは陽動。
そう判断したアオイは、隣でイラついた顔をしながら、アオイの指示を待っているアカネの方を向くと、眼鏡の奥の瞳を光らせて、ニッコリ微笑みながら言い放った。
「よしアカネ!倒しちゃいましょう!」




