第2話:電脳謀反4
そして時刻は夜半へと移り、非常用の照明だけを残した薄暗いハンガーの中に、寄り添うアカネとアオイがいた。
「あーもー、まだ痛いわよ!あの女、本気で叩きやがって!」
タンクモードのファントムの上で、アカネがシオンから叩かれた左頬を押さえながら、喚き声を上げる。
「うーん、でもあれはアカネもいけなかったよ。あんな風に言ったらカノンさん、怒るに決まってるじゃないの」
苦笑いをしながら、たしなめるアオイであった。
「なによ!アタシだってアタシなりに、このままじゃいけないと思ったから、人馬戦車で戦う事を選んだのよ!本当に手伝ってあげてるんだから、感謝してもらって当然じゃない!」
「だからリン大佐も、すまないと思ってるって、言ってくれたじゃない」
駄々っ子をあやす様に、アオイはアカネの顔を覗き込んだ。
「まあアンタも、あのクスノキ=リンの味方だからね。あんな『上から目線女』のどこがいいのよ」
「リン大佐は、人馬戦車に関わる者みんなの憧れだからね―――人馬戦車が第三世代から、第四世代機に移り変わる時に、あの若さで開発のテストドライバーに選ばれたエース中のエース!」
「そうなの?知らなかったわ……って、べ、別に興味ないから!」
指揮官だと思っていたリンが、人馬戦車操縦のエースだったという事実に、思わず目を見張りながらもすぐに思い直し、プイっとそっぽを向いてしまったアカネに笑いながら、アオイはかまわず説明を続ける。
「エースって言っても、この五十年、ガーディアンシステムのおかげで世界に戦争はなかったから、模擬戦闘ベースだけどね。それでも世界トップレベルの操縦技術を持ってるのは確かよ。私も演習を見に行った事があるけど、それはもう素敵で―――」
「ああ、もういいわよ!で、そんな優秀なアイツが、なんで駐屯地の司令なんてやってんのよ」
確実に長い話になる、アオイのリンへの称賛を打ち切り、アカネは自身の疑問をぶつける。
「ああ、それね。防衛省補佐官からの推薦があったの」
「防衛省補佐官?」
「そう、防衛省の相談役。タカハネ=サツキ補佐官のね」
場面は変わり、駐屯地司令室―――
「そろそろ『あの人』が……タカハネ=サツキが出てくると思う……次の指揮は頼めるか?」
リンが窓の外を眺めながら、傍らのミユウに語りかける。
「そうね。もしかしたら、あなたがここに残るのを待ってるのかもしれないわ。今日の目に見えた手加減も、その誘いだと思うわ」
ミユウは、ブリーフィングの時には伏せていた推察を、今ここでリンだけに明かした。
「私が陣頭に立たないのを、待っている……と?」
「あなに何かを見せたいのか……それとも、あなただけを助けたいのかもしれないわね」
そう言うと、ミユウはクスクスと笑った。
「悪い冗談だな。だが、バクフの謀反を事前に知らせてきた、あの人だ。何か私に言いたい事があるのは確かだ」
「指揮は任せてちょうだい。あなたは司令として全体を統括しながら、あの人の動きに備えて」
「すまない……お前がいて助かる、ミユウ」
「なにを今さら……ずっと一緒だったじゃない」
「お前と一緒にファントムに乗っていた頃が……なんだか懐かしいな」
そう言うと、リンは少しだけ遠い目をした。
「なによ、もう、年寄りみたいに」
再びミユウがクスクスと笑い出し、それにつられてリンも、親友にしか見せない笑顔で、共に過ぎし日を懐しんだ。
場面は再び、ハンガーのアカネとアオイ―――
「タカハネ=サツキ……どっかで聞いた事ある名前ね?」
その名前の人物が思い出せず、首をひねるアカネ。
「もうアカネったら、自分の学園の学長を忘れたの?」
「そうよ!それってうちの学園の学長じゃない!あの綺麗なお婆ちゃんが、その防衛なんとかの、なんとかで、クスノキ=リンをここの司令にしたっていうの!?」
アオイのヒントに、ようやく答えを得たアカネは、あまりの驚きに、しどろもどろな言葉でアオイに返答を求めた。
「防衛省補佐官ね。そう、タカハネ学長は、人工知能『ガーディアン』の開発スタッフでもあり、人馬戦車の設計にも携わった凄い科学者よ。その見識を評価されて、民間人ながら防衛省の補佐官に抜擢されたの」
「そんな事、知らなかったわ……」
「アカネは踊りにしか興味なかったからね。いくら幅広い未来への人材育成を目指したミライミナト学園でも、人馬戦車専門の機甲科があるのは、タカハネ学長のおかげよ」
機甲科のアオイが鼻高々にそう語るのを、舞踊科のアカネは白けた目で見つめたが、アオイはまったく気にせずに続ける。
「で、防衛省補佐官に任官したタカハネ学長は、在学中から目をかけていた、愛弟子のリン大佐を、ここミライミナト駐屯地の司令に抜擢したって訳よ!」
「えっ?ちょっと待って!在学って、クスノキ=リンも、うちの機甲科の卒業生なの!?」




