第2話:電脳謀反2
自衛軍東部方面隊ミライミナト駐屯地―――
市内への定期的な侵攻を繰り返す、人工知能『バクフ』側の人馬戦車迎撃を終えたリンたちが、縦列の編隊を組みながら帰還してくる。
先頭はKF-14トムキャット。操縦をマキナ=カノン大尉が、全体の指揮管制を後部座席のクスノキ=リン大佐が務める、部隊のシンボルともいえる機体である。
続いてタチバナ=ミユウ中佐、スズシロ=チトセ中尉、マキナ=シオン少尉のKF-15イーグルが三機。
その後ろには、イーグルのAI支援機KF-16ファルコンが三機編隊で合計九機続く。
そして最後尾に―――ヒビキ=アカネ准尉、コダマ=アオイ准尉の駆るKF-4ファントムと、そのAI支援機KF-5タイガーがランウェイを越えてハンガーに進入した。
そして各々、機体を整備班に引き渡すべく、定位置にそれを停めるとキャノピーを開き、機外へと降りたった。
「いやー、今回もアカネの動きは凄かったのですよ」
独特な口調で、真っ先に口を開いたのは、チトセであった。
「ヒューマンモードのドリフトは、いつ見ても惚れぼれとするのですよ。あの複雑な動きを、戦闘をしながらマニュアルシフトで操作するなんて、本当に脱帽なのですよ」
操縦技術を褒められ、アカネ自身もまんざらでないらしく、アオイの苦笑いをよそに、得意顔でウンウンとそれに応じる。
「本当にヒビキ准尉のホイールドライブは、私たちの第四世代機のホバーにはできない動きですからね。まるで人馬戦車が踊っているかの様です」
続いてシオンも称賛の声を上げるが、その呼び方が『ヒビキ准尉』と、名字と階級なのに、アカネは違和感を感じ顔色を変えた。
「ねえ、その准尉って階級つけるのやめてくれない。あと名前でいいわよ。どうせアンタたちの方が年上でしょ」
「アハハ、乙女はみんな永遠の十七歳なのですよ!でもカノンとシオンは姉妹なので、名前で呼ばないと紛らわしいので、私もカノンは上官でも名前で呼んでるぐらいなのですよ。だから言う通り、シオンもアカネを名前で呼ぶと良いのですよ」
アカネの年齢発言にツッコミを入れながら、巧みに自身も上官を名前で呼んでいる事を引き合いに出して、チトセはシオンの心を解きほぐそうとした。
「私も名前で呼んでください。その方が嬉しいです」
アオイも微笑みながら、それに合の手を入れる。
「我々、ゴールデンヴァルキリーは一心同体なのですよ。アカネとアオイが来てから、もう一週間。そろそろ他人行儀は水くさいのですよ」
たたみ掛けるチトセの言葉にも、内気なシオンはまだモジモジしている。
「しっかし、ゴールデンヴァルキリーって、なんか成金みたいな名前で馴染めないわね」
「えっ、そうかなあ。女子だけで編成された現代のヴァルキリー。そしてリン大佐のトムキャットのキャノピーに施された金色のペイントから、いつしか呼ばれる様になったゴールデンヴァルキリーの称号。私は素敵だと思うなー」
ゴールデンヴァルキリー―――リンを筆頭に、女子だけで編成された人馬戦車の精鋭部隊に冠された通称。アカネの批判に対して、リンの熱烈なファンだったアオイは、その部隊名の由来を語りながら、うっとりと悦に入ってしまった。そして、もうちゃっかりとリンを『クスノキ大佐』から、『リン大佐』と名前で呼んでいるところも抜け目がない。
「そんなもんかしらね……」
こうなると手がつけられないアオイを放置して、アカネは言葉を残すと、バレエのステップで、その場を華麗に跳ね回り始めた。
「ひ、ひび……アカネ……さん!いつも思ってたんですが、そのステップ素敵ですね!」
突然、シオンがアカネの踊りに激しく反応した。
「あら、ありがとう。アンタ……シオンから、そんな言葉が出るとは思ってなかったわ」
勇気を出して名前で呼んだシオンに対して、アカネも呼び方を改めながら、その意外な発言に目を丸くした。
「あの……私も、日本舞踊ですが、踊りを嗜みますので……」
「えっ、なに!そういう事は早く言いなさいよ!日舞のすり足って難しくて、アタシ苦手なのよ。今度、教えてよ!ダンスで良ければアタシも教えるからさ」
あらゆる舞踊をマスターするべく、ミライミナト学園の舞踊科に入学したアカネは、新たに知った事実に大喜びで、シオンの手を取った。
「は、はい!ぜひお願いします!」
アカネとの距離が一気に縮まった事に歓喜し、次の言葉を発しようとしたシオンだったが、
「シオン!」
その姉であるカノンの、雷鳴の様な怒声がその動きを制してしまった。
「なにを馴れ合ってますの?今回の戦闘検証がありますわよ。早く準備なさい」
突き刺す様な視線にシオンは怯え、アカネに一礼すると、そそくさと姉の方に走り去っていく。
シオンとのふれ合いを邪魔されたアカネは、文句を言ってやるべく身を乗り出したが、
「皆さんも遅れるんじゃなくてよ。特にあなた!―――『ヒ、ビ、キ、准尉』!」
わざわざ名字と階級で一撃を加えると、呆然とするアカネを背中で笑いながら、カノンはシオンを連れて去っていった。
「な……なんなのよ、あのツンツン姉ちゃんは!相変わらず、感じ悪いわ!」
我に返ると、不愉快極まりないという表情を浮かべ、アカネは残されたアオイとチトセに向かって、カノンに対して毒づいた。
「まあ最近は、アカネの方が撃破スコアが上なので、カノンもきっと焦っているのですよ」
「そうですかね?カノンさんはリン大佐の指揮官機であるトムキャットの操縦担当だから、その戦闘行動にも制約がかかりますから、一概にアカネのスコアとは比較にならないと思うんですが……」
「それでもアカネが来るまでは、『クスノキ=リンの再来』と言われた絶対エースだったのですから……これはもう、プライドの問題なのですよ」
アオイの冷静な分析は正論だったが、それを超えた、どうにもできない感情のこじれをチトセは指摘する。
「どうでもいいわよ……いつかアイツとは……白黒つけてやるから」
そう言うと、アカネは再び軽やかなステップを踏み、ハンガーの舞姫へと、その姿を変えたのだった。




