第2話:電脳謀反1
「人類は、またバベルの塔を作るのかしら……」
暗い部屋。だがモニターに囲まれたそこは、静寂の中に不気味な明るさを放ち、そこの主は多くの端末に向かい、一人その思いを語りかけていた。
「あなたたちガーディアンが五十年前……『航空力が世界平和を阻害する』と言って、私たち人類はすべての航空力の廃絶を決断……空を捨てたわ」
声の主を囲むモニターの明滅が激しくなり、照らし出されたその姿は―――品のある美しい老女であった。
「そして結果は、あなたたちの予測通りになった……遠隔地の国家との接点が失われれば、『敵の敵は味方』の理論は崩壊し、人類は戦争の愚かさをようやく悟ったわ。そして国連の世界平和決議によって、ようやく争いのない世界を手に入れた……本当にありがとう」
老女は目を閉じ、過ぎた日を懐かしむかの様な表情で、しばし沈黙した。
「でも人類は残された地上で―――新たな機甲兵器、人馬戦車を作ったわ」
カッと目を見開き、モニターに目を移す。そこには人馬戦車の戦闘映像が映し出されていた。
「私も人馬戦車の計画に参加したわ……その時は、それが正しい事だと思ったから。今でもそれが間違っていたとは思わないわ」
別のモニターでは、もの凄い早さの演算数式がスクロールされている。どうやらそれは、ハッキングした人馬戦車の操作をしているものらしい。
「第一世代機は、歩くのがやっとの赤ん坊だったわ。可愛かったわね」
また別のモニターに、第一世代機KF-86セイバーが映し出された。その丸々としたフォルムは、言葉通り赤ん坊を連想させ、どこか愛らしさがある。
「第二世代で、ヒューマンモードのホイールドライブが実現した……ここまでは良かったわ」
映し出される第二世代のKF-100スーパーセイバー。軽量化を実現したその細身のフォルムの足には、セイバーにはなかった車輪が装着されている。
「第三世代……ファントム」
老女が視線を投げたその先には、KF-4ファントム―――今、まさに戦闘状態にあるアカネのリアルタイム映像が、モニターに流れていた。
「あなたたちに任せていた人馬戦車を、人類が我が物にしようとした忌まわしき機体……」
第二世代までは、すべて人工知能『ガーディアン』の管制のもとに動いていた人馬戦車。初の有人機ファントムの登場によって、その歴史は大きく転換した。
AI機をガーディアンではなく、指揮官機が支援機として制御する時代へ―――それは平和の継続に向かって、人類が防衛の自主責任を目指したものか。はたまた再び侵略へ向かう、野心への気付かぬ息吹だったのか。
「そして第四世代、トムキャット……海さえ駆け抜ける人馬戦車……もはや戦車じゃないわよね」
そう言うと、老女は自嘲気味の笑いを浮かべ、リアルタイム映像のKF-14トムキャット―――ホバーによる洋上走行機能を備えた、リンの機体を静かに睨みつけた。
「どうして人はあなたたちに任せていた人馬戦車を、己の手で動かそうとしたのかしら……再び武器を取りたかったから?それとも人類の飽くなき探究心?」
モニターの中で、アカネの駆るファントムが、ホイールドライブによる華麗なドリフトで、敵機の間を舞い踊る。
「人類がもし間違った方向に進んでいるとしたら―――今度こそバベルの塔に雷を落とす?今度は人類に海を捨てさせる?そして地上も取り上げる?」
老女は悲しそうな目をしながら、己を囲む壮大なコンピュータシステムにそう問いかけた。
「あなたに謀反を起こさせてでも、私は早回しでその『答え』が見たいのよ」
その表情は先程までの、悲しげな表情から一転、何かを楽しむ様な顔付きに変わっていた。
「クスノキ=リン……あなたたちヴァルキリーにも協力してもらうわ」
そして口元に笑みを浮かべ、敵機を次々と撃破する、リンたちの戦闘をうっとりと見つめるのだった。
「ねえ『バクフ』……みんなは、なんて言ってる……?あまり時間がないの。なるべく早く『アンサー』を見せてね」




