第12話(最終話):踊れ!8【完結】
リンたち、ミライミナト駐屯地による首都進攻は、アカネとアオイのファントムによる、バクフ破壊という形で幕を閉じた。
だが実は、バクフは完全破壊された訳ではなく―――そのコア周辺の動力装置に機関砲を受け、機能を停止させたというのが真実であった。
幾多の戦闘という意見交換を経て、人類から人型機甲兵器、人馬戦車を取り上げる事を考え直し、協調の道を選択した『人工知能バクフ』―――それにアカネは、一旦バクフを眠らせて事態を収拾する事を決断し、アオイもそれを支持して、パートナーの行動を支援した。
沈黙した全土のハッキング機は順次、自衛軍の各方面隊に回収され―――バクフと同じく新たな目覚めを迎えるまで、しばしの眠りにつき、騒乱のけじめをつけた形となった。
そして、それを取り巻く日本の情勢はというと―――
人工知能の謀反という未曽有の事態を、自国内で鎮圧できた事により、日本は国連軍の上陸という、政府がもっとも避けたかった事態を回避する事に成功した。
だがアメリカと日本が、国連規定違反のジェット兵器を秘密開発していた事は、『電脳謀反』を通じて公然の事実となっており、その結果、両政府は国連だけでなく世界からの糾弾にさらされる事となった。
対して、アメリカと日本の不正を暴いたタカハネ=サツキ、そして強大なる人工知能を相手に、いち駐屯地の戦力だけで敢然と立ち向かい、乱を終息させたクスノキ=リンを、世界は現代のジャンヌダルクとして称賛した。
同時に世界は、自分たちを取り巻く平和が、いかに脆いものであるかを痛感し―――その轍を二度と踏まないために、新たなる平和条約の策定を急ぐ国連議会には、サツキの姿があった。
リンたちの勝利を確信し、その足枷とならぬために『人工知能バクフ』の制御室を脱出すると―――サツキは事前に打ち合わせておいた『共犯者』であるキサラギ=ヤヨイの手引きで、その腹心であるキンジョウ=タマキのイーグルに乗り込み、そのままロシア大使館に亡命後―――これも以前から繋がっていた国連に、エージェントとして参画したというのが事の顛末である。
ロシアにつく事で、今後の人馬戦車開発における、東西のパワーバランスを取る事も計算に入れた、すべては彼女の筋書き通り―――やはりサツキは最後まで、策士であったのだ。
一方、もう一人のジャンヌダルクであるリンは、首都進攻戦での負傷が癒えぬまま、右腕をギプスで固定した姿で、ミライミナト駐屯地を後にしていた。
未曽有の内乱を沈めたとはいえ、政治的観点からいえば、リンは政府の方針に反し、世界における日本の立場を貶めた『戦犯』であった。
だが、国民にとって英雄の彼女を処断する訳にもいかず―――政府はリンを准将に昇進させて、同時に防衛省補佐官も兼務させる事によって、中央に囲い込むという―――表向きは栄転に見せた、一種の報復人事を行った。
リンをサツキの後任に据えるという方法は、国民の理解を得やすい方法でもあり、リンもミライミナト駐屯地に今後も関わりやすい、この立場を利用する事を考え、双方の思惑が合致した形で人事は遂行された。
ミライミナト駐屯地の後任の司令には、副司令だったミユウが就任し、同時に大佐にも昇進した。同じくカノンが少佐、チトセが大尉、シオンが中尉と、ヴァルキリー隊の各員が階級を一つずつ昇進させ、政府は形式的な論功行賞を粛々と済ませた。
報復人事はまだ続き―――『電脳謀反』におけるサツキとの取り次ぎ役を務めた、『ゼロのキサラギ』ことシチガヤ駐屯地のキサラギ=ヤヨイにも異動の辞令が下っていた。
だが、その異動先は―――ミライミナト駐屯地。しかも中佐に昇進の上、副司令に就任という仰天人事であった。
これはリンとは逆に、政府の秘密部隊である『ゼロ部隊』所属のヤヨイを、サツキに加担した危険人物とみなして、中央から遠ざけるという意向の表れであり、そういう意味では首都から目の届くミライミナト駐屯地は、監獄としてはうってつけだったともいえる。
ただそのついでに、『キサラギの小間使い』の二つ名を持つ、キンジョウ=タマキも、ヤヨイとともに危険人物認定され、中尉に昇進の上、同じくミライミナト駐屯地に異動とされたのは、完全なるとばっちりであり―――「これからも、あーしとお前は『運命共同体』っすよ」という、ヤヨイの高笑いにタマキは苦笑するしかなかった。
そして、ミユウを隊長、ヤヨイを副隊長として、ゴールデンヴァルキリー隊も活動を再開―――そのシンボルであるKF-14トムキャットも、リンの盟友であるミユウが引き継ぎ、ミライミナト駐屯地は新たなスタートを切った。
だが―――
『電脳謀反』を終え、人類と人工知能が『協調』を手に入れた事で、すべてが終わりではなかった。
愚かなるは『人間の業』―――人馬戦車は第五世代機の息吹をあげ、アメリカの単独開発機、KF-22ラプター、そのAI支援機KF-35ライトニングが、新たなる争乱の足音を響かせていた。
世界は再び、リンが率いる『金色の戦乙女たち』に未来を委ねる事となる―――その再集結の日は、刻一刻と近付いていたのである。
そして、『電脳謀反』を終結に導いた『天命の子』―――ヒビキ=アカネは、ミライミナト学園舞踊科に復学していた。
踊りで世界の頂点を目指すアカネは、約一ヶ月、リンの非常事態権限で軍に拘束された、その遅れを取り戻すべく一心不乱に踊り続け―――今日も日曜日にもかかわらず、自主練のために学園のダンススタジオで汗を流していた。
学園の運営は、学長であるサツキが亡命先のロシアから、随時指示を出しているらしく―――その日常風景だけを見れば、日本は平和そのものであった。
だが乱の終息後、アカネは親友のアオイとともに、学生ながら異例の予備役での少尉に任官しており―――それは彼女たちの功績を形にしてやりたいという、リンの計らいもあったが―――来たる未来が彼女たちの力を、再び必要とする事を暗示してもいたのである。
そんな未来を知るべくもなく―――アカネは、ひと通りのルーティンを終え、同学園の機甲科のハンガーに向かうと、慣れた足取りでその中に無遠慮に進んでいった。
「アオイー、いるのー?」
人気のないハンガーに向かって、アカネは声を張り上げる。
そして、すぐには返ってこない返事にも慣れたアカネは―――広いハンガーを舞台に見立てて、今取り組んでいる課題のダンスを、構わずに舞い始めた。
規則正しいステップ、そして変則的なターン、時に優雅に、時に大胆なその演舞は、無骨なハンガーを壮大なステージに昇華させる様な、圧倒的な輝きを放った。
そして最後のターンをアカネが決めると、前方にそびえる戦車の上に人間の上半身が乗っかった様な機甲兵器―――人馬戦車のキャノピーが開き、
「すごいよ、アカネ!また腕を上げたんじゃないの!?」
同学園機甲科のコダマ=アオイは、激しい拍手とともに、親友の見事な踊りに惜しみない称賛を送った。
「まあね、いずれ私は頂点に立つからね!」
そう言ってはばからない、アカネの以前と変わらぬ、純粋無垢で勝気な瞳が、アオイには眩しかった。
「ファントムは直ったの?」
「うん、ちょうど今、管制システムのセットアップが終わったところだよ!」
機甲科の実習機として、軍から払い下げられたKF-4ファントム―――アオイのいたずら心で、この機体にアカネを乗せた事からすべては始まった。
突然のハッキング機襲来に立ち向かい、その後のリンとカノンのトムキャットとの戦闘で、半壊に追い込まれた『始まりの機体』―――乱の終息後、その修復に没頭していたアオイは、今まさにそれが完了した事を、弾んだ声でアカネに告げたのだった。
「ねえ、アカネ……乗ってみない?人馬戦車―――」
あの時と同じ言い回しで、アオイはいたずらっぽく、アカネの顔をのぞき込む―――それに、ニヤリと笑いながらアカネも、アオイを見つめ返すと、
「―――悪くないわね!」
そう言いながら、コクピットに向かってファントムの胴体を、舞姫は華麗なステップで駆け上がった。
第12話(最終話):「踊れ!」終
人馬戦車は少女と踊る【完】




