第12話(最終話):踊れ!6
「それなら!―――ファントムならいけるわね!」
突然もたらされた、暗雲を突き破る様な力強い叫び―――皆が驚いた、その声の主はアカネだった。
「ファントムの車輪走行なら、高さの問題はクリアしてるわ!―――アタシがバクフのとこに行って、話をつけてくるわよ!」
気負いもなく、悠然と決着をつけに行くと宣言したアカネ―――確かにアカネとアオイの駆る第三世代機、KF-4ファントムならば、バクフ内部への突入も可能であった。
「行けるか、アカネ?―――だが我々はお前を支援できない……ファントムだけでの戦いになるぞ?」
『天命の子』ヒビキ=アカネの言葉に運命を感じたリンは、その覚悟を問う。
「リン……まかせときなさい―――みんなの『アンサー』、アタシがバクフに届けてくるわ!」
それに対して、迷いなくアカネはそう答えた。
「安心してください、大佐―――私がアカネを、ちゃんとバクフのところまで連れていきます!」
続けて、その盟友であるアオイも、リンにそう請け合った。
「だがコダマ……バクフの内部迎撃システムも相当なもんっすよ!?―――わりーが、あーしもそこまでは情報は用意できてねえっすよ……」
アカネを誘導すると宣言したアオイに、ヤヨイはその手助けができない事を詫びる様に、心配そうな声を上げたが―――それに対して、返ってきたのはアオイの自信に満ちた、明るい声だった。
「大丈夫です、キサラギ少佐!―――バクフの構造、制御室までの最短ルート、及び迎撃システムの配置―――すべて情報は入手してあります!」
「あ、あんた、まさか……!?」
パートナーの予想外の言葉に、アカネは驚きの声を上げた。
そして皆も理解した―――ハッキングの天才少女である、コダマ=アオイが、秘密諜報部隊のヤヨイでさえ入手できなかった、国家機密レベルの情報をすでに入手していた事実を―――そしてそれは、この決戦の最終局面が、ファントムによる内部突入になると、アオイには想定できていた事の裏付けであった。
「まったく、アンタは……」
そう言って呆れながらも、隣に座るパートナーの存在を、誰よりも頼もしく思っているアカネが微笑むと、
「大丈夫―――アカネならできるよ!」
それにアオイも微笑みを返しながら、いつものエールを送るのだった。
「アオイ准尉、ハッキング攻撃は、どこかで使った?」
皆がアオイの慧眼に度肝を抜かれる中、ミユウは本体突入作戦を前に進めるべく、『稀代の策士』が持つ秘技について、その使用の有無を確認した。
「いえ、幸いまだ温存できています!」
マザ駐屯地制圧戦、そして人工知能フロンティアとの海上戦で見せた、敵AI機の制御権を奪う、アオイのハッキング攻撃―――この激戦の中、奇跡的にそれが未使用である事を、アオイは弾んだ声でミユウに伝えた。
「別働任務に向かってもらったのが、ここで幸いしたわね―――リン!」
「よし、アオイのハッキングで敵の動きを止めた隙に―――ファントムを内部に突入させるぞ!」
ミユウの呼びかけに、リンはファントムによるバクフ突入を決断した。
そこに、「少佐ー!」という呼び声とともに、タマキがシチガヤ駐屯地のKF-15イーグルからなる、有人機部隊を率いてリンたちに合流してきた―――リンの世界を思うメッセージに心打たれ、加勢に駆けつけてきたその数、約二十五機―――現状でシチガヤの出せる支援規模の、約半数であった。
「いい、タイミングっすよ、タマキ!―――状況は?」
「はい!北部方面隊のハッキング機の一部が、もう間近まで来ています!―――半数は、そちらの迎撃に当たってもらってます!」
「まずいっすね……もう、時間がねえっす」
タマキの報告に、ヤヨイは事態が予想以上に切迫している事を、全部隊に告げる―――そして今、人類の代表者として首都進攻隊を率いるリンは、最後の指令を発した。
「シチガヤの諸君!助力、感謝する!―――これより、我らはバクフへハッキング攻撃を仕掛け、その隙に一機でも多くの敵機を撃破し、ファントムをバクフ内部に送り込む!―――ハッキングは長くは持たん!その後は激戦となるだろう……だが、これが最後の戦いだ!我々の『アンサー』を……バクフに示すのだ!」
「おおおーーーっ!」
沸き上がる雄叫び―――ミライミナト駐屯地とシチガヤ駐屯地は、今、世界を救う同志として一つになった。
「タマキ、あれは持ってきてるっすか!?」
リンの訓示が終わると、すぐさまヤヨイはタマキに向かい、依頼していた件を確認した。
「はいー!持ってきてますよー!」
そう答えたタマキのイーグルの後方から、見るからに物騒な武器が運び込まれてくる。
「これは―――!?」
一同が、驚きの声を上げる中、
「四十ミリ機関砲っすよ―――レールガンとはいかなくても、こいつでもバカ弟子の道ぐらいなら、作ってやれるっすよ!」
ヤヨイはそう言いながら、それを素早くイーグル改に装備させた。
「よし!狙うは前方の、バクフ南側進入口!―――ハッキングが成功次第、一気に防御陣を突き崩し、ファントムの突入を援護するぞ!―――アオイ、仕掛けろ!」
「はい!」
リンの状況開始の宣言に声高らかに答えると、アオイはファントムの管制席のキーボードを激しく叩き、バクフに向けてハッキング攻撃を開始した。
皆が息を呑み、待ち続ける沈黙の時間―――見えない戦いである『電子戦』。
かつてマザ駐屯地制圧戦で苦杯を舐めたバクフも、もちろん対抗策を練っている―――それをさらに破らんと、アオイは激しい電子攻撃を仕掛け続けた。
『世界を制御する人工知能』対『稀代の策士、かつハッキングの天才少女』―――その勝負は、『天命の子』を支える『王佐の才』に軍配が上がった。
「―――取りました!」
バクフがハッキングによって掌握しているAI機の制御権を、さらに奪取した事をアオイが全軍に告げると、
「かかれーーー!」
リンの号令一下、首都進攻隊の人馬戦車は、身動きの取れなくなったハッキング機、KF-16ファルコンに向けて、一斉に襲いかかった。
マザ制圧戦では、バクフはアオイのハッキング攻撃に白旗を上げた形となったが、アメリカ担当ガーディアン『人工知能フロンティア』は、海上戦でその制御権を一分で奪還した―――おそらくバクフも今回は反撃に出てくる―――与えられた時間は長くない事を、誰もが理解していた。
南側の進入口を阻む防御陣を、懸命に排除する各機―――機関砲をファルコンに撃ち込み、それが崩れると弾き飛ばしながら、ただひたすらに一筋の道を築いていく。
そして、ようやく一機の人馬戦車が突入できる進路が完成すると、
「よっしゃ、みんなどくっすよ!―――タマキー!」
「はいー!」
ヤヨイの叫びとともに、タマキが自身のイーグルで、ヤヨイのイーグル改の背中を抱く―――そして機体を安定させたイーグル改は、突入路に真正面の位置を取ると、轟音を響かせながらバクフの外壁に向けて、四十ミリ機関砲を一点に集中させて撃ち込んだ。
「行けーっ!バカ弟子どもーっ!」
強化装甲で守られたバクフの進入口に、風穴が空いた事を確認したヤヨイの叫びとともに―――アカネとアオイの駆るKF-4ファントムが、アクセルターンの音を高鳴らせ、バクフに向けて発進した。
「頑張ってー!」「頼んだぞー!」
タマキをはじめとする、シチガヤ駐屯地からのエールを浴びながら、誇らしげにヒューマンモードで疾走するファントム―――その両肩に赤と青で『A.』のエンブレムをあしらった第三世代機は、それに込めた『アンサー』の思いを届けるために、今、仲間たちが両側に控える一本道に突入した。
「アカネさん、私、信じてます!」
「アオイも、頑張るのですよ!」
まずは、シオンとチトセが声援を送り、
「アカネ!―――負けたら承知しませんわよ!」
「アオイ准尉―――アカネ准尉を導いてね!」
続いて、カノンはライバルに手厳しい激励を、ミユウは『稀代の策士』に『天命の子』の前途を託した。
その間、ファントムはスピンターンの演舞を繰り広げながら、その花道を進んでいく―――それは、ここまで苦難の道をともに乗り越えてきた、ヴァルキリー隊の仲間たちへの無言の答礼であった―――それを理解している『金色の戦乙女』たちは、そのダンスに笑みを浮かべた。
そして最後に、『人類の代表者』となったリンから、二人に未来へのバトンが渡される。
「アカネ、アオイ―――頼んだぞ!」
「了解!」
声を揃えて、そう答えた二人―――シンプルな言葉のやり取りであったが、そこには万感の思いが込められており、彼女たちにはそれで十分であったのだ。
仲間たちの思い、人類の『アンサー』を背負ったファントムが、ヤヨイの四十ミリ機関砲で開かれた進入口からバクフ内部に飛び込んでいく―――人馬戦車と踊る少女、ヒビキ=アカネのラストダンスが、ここに開幕したのであった。




