第12話(最終話):踊れ!5
そのバクフに対して、一足先に到着していたミユウ率いる本隊は、すでに攻撃を開始していた。
直径約八十メートルの円柱型のバクフは、その中心から直径約百三十メートルまでの範囲が、警備のための空白地帯となっている。
そこにひしめく、数百機の人馬戦車―――そのすべてが、『人工知能バクフ』によってハッキングされた、自衛軍東部方面隊のAI支援機KF-16ファルコンであった。
首都に防衛線を展開する事をあきらめ、本陣に戦力を集結させる事を選択したバクフの布陣は周到を極め、本体の外周にたどり着くまでの約五十メートルの間に、幾重もの防御陣を三百六十度、全方位に張りめぐらせている。
その一部分を突き崩しても、すぐに左右からその穴をふさぐ戦術に、ミユウは攻め手を欠いて、次第にその内容は消耗戦の様相を呈してきた。
「いったい何百機の人馬戦車を一度に制御できるの……本当に化け物ね」
目の前の数百機だけでなく、北部方面隊、中部方面隊のハッキング機も首都に向かわせながら、同時に自分たちへの戦術解析も同時に行うバクフの力量に、今さらながらミユウは舌を巻いた。
国連加盟国の全首都に一台ずつ配置され、世界をネットワークで制御してきた『人工知能ガーディアン』―――それは五十年の時を経て、その学習能力の極みを迎え、今、その日本担当であるバクフは、人類の挑戦をバベルの塔に雷を落とした天のごとく、強大な力で払いのけようとしていたのであった。
焦りながらも為す術なく、いたずらに弾丸を消耗する事を避けるため、一旦、本隊を退がらせたミユウ―――そこにリンからの声が届いた。
「ミユウ、待たせたな!」
「リン!?」
そう言いながらミユウが後方を確認すると―――第五、第六中隊を引き連れたリンたちの機体が近付いてくる。
その陣容は、AI支援機を何機か減らしていたが、人的被害はない様子で、同じく人的被害は出していない本隊同様、決戦戦力として期待できる内容であった。
「ようやく、ここまで来れた……お前には、苦労をかけてしまったな」
引き退がった本隊先頭に陣取る、ミユウのイーグルの隣までトムキャットが近付くと、リンは開口一番、盟友の苦労を思いやり、その労をねぎらう言葉をかけた―――虎の子のヴァルキリー隊を、次々とその身から引きはがし、遂には自身一人で本隊の指揮だけでなく、戦闘の要の役割も果たしたその苦難は、知勇兼備のミユウにしかできない離れ業であった。
「大丈夫よリン―――みんなのおかげで、なんとかなったわ」と、リンのねぎらいに仲間を称えたミユウは、「―――状況を説明するわね」と、時を惜しむ様に、作戦行動を前に進めるべく話を切り出した。
―――そして、ミユウの戦況報告が終わると、
「なるほどな、我々がそれほど迎撃を受けなかったのは、戦力をここに集中させたからだったのか」
バクフを囲む十重二十重の防御陣を見ながら、リンが苦い顔で戦局に対する感想を述べた。
「とりあえず、何か突破口がないか探るため、攻撃を仕掛けてみたのだけれど……今、説明した通りで、まったく隙がない状況よ」
「正面から当たっても、消耗戦なら機体数の多い、あちらの勝ちなのですよ……」
「それに、北部方面隊と中部方面隊のハッキングも迫ってますわ……時間が経てばこちら側の負けは確実……」
ミユウの先制攻撃の所感を受け、チトセとカノンも続けて、状況に対する厳しい意見を口にした。
「急がないと……でも、どうすれば良いのでしょう……」
切迫した展開に焦るシオンであったが、かといって打開策がある訳でもなく―――それは誰もが同じであり、出口の見えない状況に、皆、口をつぐんでしまった。
「対話……という訳にもいかなくなったな……」
重苦しい空気の中、リンが口を開く。
「優勢である限り、降伏はありえないわね……」
それにミユウも同意を示す―――リンたち首都進攻隊の狙いは、バクフ戦力を電撃作戦で壊滅させ、人工知能に降伏を決断させる事だった。
当初は、バクフ破壊による決着しかないと思われた『電脳謀反』であったが、フロンティアによる人工知能同士の救援、及び劣勢を判断したその撤退を目の当たりにして―――人工知能が情勢を、道義的に判断できる事を知ったリンたちは、決着を対話に賭けた。
だがバクフを、あと一歩のところまで追い詰めながら、手の出せない状況―――かつ、時が経てばバクフには日本全土のハッキング機という援軍が来る―――情勢は一刻を争う展開となってきた。
「リン―――」
ミユウが決断を迫る。
「―――やむをえん……バクフを破壊する!」
もはや対話の道は閉ざされた―――そう判断したリンは全軍に向けて、バクフを破壊する事によって、この『電脳謀反』を終結させる事を宣言した。
「キサラギ少佐―――バクフを停止させるには、やはり最上階のコアを破壊しなくてはならないか?」
方針を決断するとリンは、この中で『人工知能バクフ』を、最もよく知るであろうヤヨイに、その方策を問うた。
「おそらくは………理由はブリーフィングで話した通りっすが、バクフの構造は内部が十三層に分かれ、各階のシステムを単独で破壊しても、残りがその損失を補完するはずっす―――すべてを破壊する時間がなければ……十三階の制御室にあるコアを破壊するしか手はねえっす!」
政府からの取り次ぎ役として、制御室のサツキと接見した経験と、秘密諜報部隊所属としての知りうる知識で、ヤヨイは、リンに短期決戦の最善策を示したが、
「―――だが、問題があるっすよ」
と、その過程にある難題について、言葉を濁した。
「どういう事だ?」
優れた策士でもあるヤヨイの懸念に、不安を感じたリンは、その理由を問い質す。
「あーしが見てきたバクフ内部の螺旋通路は、高さが五メートル以下……場所によっては三メートルなかったんすよ……」
「という事は……」
ヤヨイの言葉に、素早くその意味を理解したミユウが、苦い声を漏らす。
「そうっす……人馬戦車じゃ進入できねんすよ―――仮にできても、ホバードライブの浮遊移動は天井につっかえて、できねえっす……二足歩行で進むとしても、外周二百五十メートルのバクフを十三階まで登るとして、ざっと三キロの距離―――それを内部迎撃システムと戦闘しながら、進むのは至難の技っす……」
高速移動形態のタンクモードで全高約三メートル、近接格闘形態のヒューマンモードで全高約四メートルとなる人馬戦車の機動力を、すべて封じたバクフの内部構造に言及したヤヨイの言葉―――それによって首都進攻隊は、バクフを囲む重囲に加え、新たな課題に直面した形となった。




