第12話(最終話):踊れ!4
国民が自分たちを支援してくれている事に、力を得たリンたちはさらに先を急ぐ。
「霞ヶ関は抜けたっすからね―――あと、もう少しっすよ」
隊列の先頭を行くイーグル改のコクピットで、ヤヨイがリンたちに状況を告げる―――首都を熟知しているヤヨイは、最短ルートの割り出しもしながら、隊列を導いていたのであった。
「霞ヶ関を抜けて行くと言った時は驚いたが……本当にハッキング機が、まったくいなかったな」
「タカハネのおばちゃんが、言ってたんすよ……バクフの戦い方は、いつもフェアだって―――だから霞ヶ関はいけるって思ったんすよ」
リンの驚きに、ヤヨイはタネ明かしをする―――首都進攻において、バクフの直近にある霞ヶ関での戦闘は、人類側としては避けたい事態であったが、まるでそれを斟酌したかの様に、バクフも霞ヶ関への布陣を避けていた―――それをバクフはきっと選択すると、ヤヨイはサツキの言葉から読んでいたのであった。
「タカハネ博士が……そうか……」
師の教えに触れた思いのリンは、今また自分を導いてくれたサツキに心の内で感謝を述べると、それに報いんがためにも、気を引き締め直すと各機に向かって、高らかにゲキを飛ばす。
「みんな、バクフまであとわずかだ!―――遮るものあらば、蹴散らすぞ!」
その言葉を受けたかの様に、レーダーに敵機の反応が現れた―――位置は隊列の前方。
「さっそく来たわね!」
そう言いながら、意気揚々とファントムを前に出そうとするアカネだったが、
「待て、味方機の反応もある―――これは……第五中隊と第六中隊か」
敵機に追われる様に走る味方の存在を認めると、リンは状況を確認するために、攻撃を押しとどめた。
「チトセね……ばっちり仕事してるじゃないの」
「なに?―――あれはチトセが率いているのか?」
「そうよ、本隊の道を開くために、チトセが敵の遊撃部隊を陽動してくれてるのよ!」
「チトセが……」
アカネの説明に、ヴァルキリー隊の各々が、この最終決戦において新たな成長を遂げている事に、リンは顔をほころばせると、
「よし、我らが来たからには、もう陽動の必要もない!―――ここからは本隊への追撃を減らすためにも、目の前のすべての敵を……蹴散らせ!」
と、各機に向けて敵機殲滅の号令を放った。
「了解!」という声とともに、隊列を解いて飛び出していく七機の人馬戦車。
「あーしが前を塞ぐっすよ!」
そう言いながら、高機動のイーグル改を疾走させるヤヨイ―――そのホバードライブのスピードは、チトセたちを追うファルコン隊との距離をみるみる詰めていった。
チトセ率いる陽動部隊は、バクフへ向かう本隊からファルコン隊を遠ざけるために、西に進路を取っている―――その背後に、アカネたちは機体を進める。
そしてカスタム機のステルス性能を活かしながら、イーグル改はファルコン隊の先頭まで接近すると、いきなりその横合いから、ヒューマンモードに変形しながら、前跳び蹴りの『グランパドゥシャ』を食らわせて、部隊の進行を止めた。
突然の奇襲にファルコンのAIは、対応ができずに右往左往する―――その間にも、斬り込んだイーグル改は、脚部ダガーの蹴り技で次々と撃破を重ねていったため、三個中隊クラスの遊撃部隊は、完全に算を乱した形となった。
そこに後方から、ファントム、タイガー、トムキャット、イーグルも挟撃したため、人工知能バクフが操るファルコン隊は、混乱の極みを迎えた。
中でも先の戦闘で、失態を見せたカノンの働きは凄まじく、汚名挽回とばかりに、「くたばれ!くたばれ!くたばれ!」と雄叫びを上げながら、トムキャットを鬼神のごとく暴れ回らせた。
「おやおや!?―――あれはトムキャットなのですよ!」
自身が釣っていた遊撃部隊が、後方で奇襲を受けている事に気付き反転してきたチトセは、派手な動きを見せるトムキャットを認め、それが友軍であると分かると、
「第五中隊は右後方から、第六中隊は左後方から、味方機に当てない様に気を付けながら、支援射撃を開始!―――私は撃破に加わってくるのですよ!」
と、率いていた二中隊に指示を残すと、乗り遅れてなるものかと、自機とそのAI支援機を味方の待つ戦域へと飛び込ませていった。
「チトセ、来たか!―――陽動任務ご苦労だった!」
肩をピンクに染めたチトセのイーグル、ファルコン小隊の合流に気付くと、リンは進攻部隊の負担を軽減させてくれた、チトセの労をねぎらった。
「ハイなのです!―――もうミユウ中佐も、バクフに到達する頃なので、ここからは私たちも合流するのですよ!」
そう言ったチトセのイーグルの後方から、第五、第六中隊が的確な支援射撃を加えてきた。
「チトセ、見事な指揮官ぶりじゃない!」
「この射撃精度は、第二中隊にも引けを取りませんよ」
「チトセさん、すごいです!」
練度の低かった第五、第六中隊が見違える様な働きを見せるのに驚いた、アカネ、アオイ、シオンが、その立役者であるチトセの手腕に、次々と称賛の声を送る。
「いやいや、まだまだなのですよ」
仲間からの立て続けの称賛に、謙遜するチトセであったが、その声はまんざらでもないといった喜びが、にじみ出していた。
「よし、一気に殲滅して本隊を追うぞ!」
いやが上にも高まる士気に、リンは部隊をさらに鼓舞すると―――その後、約数分でバクフ側のファルコン部隊は、一騎当千の戦乙女たちによって、全機が無残な鉄塊と成り果てたのであった。
『進攻隊全機へ―――聞こえますか?こちら本隊のタチバナです―――』
遊撃部隊との戦闘終了と時を同じくして、届けられた全体無線―――それは本隊を率いて、バクフに向かって先行していたミユウからのものだった。
「ミユウか!」
自身に代わって本隊を率い、乱戦の中、その状況が掴めなかったミユウからの通信に、リンが安堵の声を上げた。
『リン、無事だったのね』
「ああ、お前がシオンとアカネたちを寄越してくれたおかげだ。チトセとも合流している―――みんなで今から、そちらに向かう」
『みんな無事なのね、良かった……』
別働隊の無事を確認できたミユウも、同じく安堵の声を漏らすと、
『了解したわ。こちらは間もなくバクフに到達するわ―――予定通り、すぐに攻撃を開始するわね』
目前に迫ったバクフに対しての、一足先の攻撃開始を宣言した。
「分かった、こちらもあと少しで到達できそうだ。けっして無理はするなよ」
『ありがとう、待ってるわね―――』
ミユウとの通信を終えると、リンたちはバクフへの道を急いだ―――その後、散発的な戦闘はあったものの、どうやらバクフも防衛線による守備をあきらめ、本陣であるバクフ本体の守備にハッキング機を回したらしく、その行程はそれまでとは打って変わって、無人の野を行くがごとくスムーズに進行していった。
そして遂に、霞ヶ関と防衛省の中間地点に位置する、『人工知能バクフ』の外観が、リンたちの目に飛び込んできた。
「あ、あれがバクフなの……」
初めてその実物を目にするアカネは、思わず息を呑んだ。
世界を制御する人工知能『ガーディアン』の日本統括システムが内包されている、全高約百メートルの円柱型の高層建築物―――その圧倒的存在感は、遠目からでも見る者を恐れさせる威容を誇っていた。
「まさに……『バベルの塔』だね……」
天に向かってそびえ立つバクフに、サツキとリンがそれを『バベルの塔』になぞらえていた事を思い出したアオイも、緊張した面持ちで声を震わせた。
これが今から『アンサー』を問いかける相手―――誰の胸にも、天に向かいその真を問わんとする、その試練への戦慄が去来したのであった。




