第12話(最終話):踊れ!2
そのタイガーの的確な支援射撃のおかげで、トムキャットは窮地を脱する事ができた。
「カノン、深入りし過ぎだ!タイガーが弾幕を張ってる間に、一度態勢を立て直すぞ!」
「かしこまりました、リン様!」
リンの指示にカノンは素早く反応して、一旦戦域を出ると、残った敵機の数を確認した―――その数、約二十―――どう考えても十機は撃破したはずなのに、数が減っていない。
「新手も来ている様だな」
同じ事を考えていたリンは、敵増援部隊の存在を口にしたが、「だが―――」と前置きすると、
「こちらも、さらに増援が来た様だ」
と、レーダーに映る味方機の出現に、声を弾ませた。
「あれは……ファントム!」
整列して弾幕射撃を続けるタイガーの後方から、高速移動形態のタンクモードで走行してくる機体―――それがファントムだと気付くと、カノンは声を上げた。
そしてファントムは、タイガーの列を通り過ぎると、キャノピーを開きながら、国営放送の脇にたたずむアカネに近付いていく―――コクピットには、管制席にアオイが一人―――どうやらアカネにトムキャットを任せ、アオイは管制席でタイガーを制御しながら、簡易操縦システムでファントムをここまで持ってきたらしかった。
「お待たせ、アカネ」
「思ったよりも早かったわ、さすがね」
最大速度でトムキャットを走らせたにもかかわらず、支援機も制御しながら、わずかな遅れのみでファントムをここまで引っ張ってきたアオイの手並みに、アカネはニヤリと笑うと、コクピットに駆け上がった。
「さあいくわよ、ファントム!―――踊りなさい!」
キャノピーを閉じたファントムは、アカネの叫びとともに、ヒューマンモードに変形すると、タイガーが弾幕射撃で押さえ込んでいるハッキング機の群れに、飛び込んでいった。
車輪走行によるスピンターンを繰り返しながら、華麗に敵機の中を舞うファントム―――そして、そのダンスに混ぜろとばかりに、飛び込んできた機体が一機―――それは『ゼロのキサラギ』ことキサラギ=ヤヨイ少佐の駆る、KF-15イーグル改であった。
伏せていた機体を回収して、支援に戻ってきたヤヨイ―――前方へ跳躍しながらの蹴り技である『グランパドゥシャ』で、まず一機を撃破しながらハッキング機の群れに飛び込むと、イーグル改は脚部ダガーを駆使した、バレエダンサーの様な見事な足技で、そのまま次々と敵機撃破を重ねていった。
その姿を一言で表すなら―――圧倒的な強さであった。
負けじとアカネも、ファントムを乱舞のごとく駆け回らせながら、得意のゼロ距離射撃で撃破を重ねていく―――そして乱戦の末、イーグル改が脚部ダガーをコンパスの軸にした、回転蹴りで最後の一機を撃破すると―――二十機以上いたハッキング機が、わずか五分を待たずに掃討されたのだった。
強い―――あまりの二機の強さに見惚れてしまい、戦陣に再突入し損ねたカノンは、感動にも似た気持ちでそう思った。
しかし、その中でも特筆すべきは、やはりヤヨイの強さであり、初めての共闘を終えたアカネも、よく彼女に勝てたものだと、数日前の一騎討ちでの勝利が信じられなくなる思いであった。
そんなアカネの気持ちを見抜いた様に、
「いよー、バカ弟子ぃ―――まだまだっすねー」
ヤヨイがニヤけた声で、はからずも師弟関係となったアカネを挑発した。
「ば、バカとはなによ!―――フン、見てなさい、次こそはアンタより多く撃破してみせるわよ!」
それに対して、対抗心むき出しで応じるアカネ―――なんだかんだで、この二人も妙にウマが合ってきている気がして、アオイは思わずクスリと笑ってしまうのだった。
そんな中、「大佐、ご無事でなりよりでした……しかし、なぜファントムとトムキャットが……?」と、ヤヨイのイーグル改の後に続いてきたものの、カノン同様、ヤヨイとアカネの乱舞に戦陣に加わる機を失い、待機していたシオンが、いるはずのないファントムとトムキャットの存在に疑問を投げかけてきた。
「決着の……『アンサー』の場に、リンを連れていくために、迎えに来たのよ」
「それでですね……アカネが、リン大佐を迎えに行くなら、トムキャットに乗せなければ意味がないって―――湾岸部に戻ってトムキャットを回収してから、ここに来たんですよ」
アカネの言葉に続けて、アオイが苦笑いでトムキャットを持ってきた経緯を説明する―――国営放送への進路が違うのでは、と指摘したアオイを制してまで、アカネが別方向に向かったのは、潜入行動のために湾岸部に乗り捨てたトムキャットを、リンに返すためだったのである。
「そうだったんですね―――キサラギ少佐のイーグルも、突然現れて、あっという間に正面のハッキング機をみんな撃破してくれて……もうビックリの連続です!」
シオンはアオイの説明に納得すると、今度は自身が守っていた正面口の敵機を、ヤヨイが掃討してくれた経緯を、興奮した口調で説明した。
自分との共闘前に、すでに多数の敵機をヤヨイが撃破していた事実に、度肝を抜かれたアカネだったが、ハタと気付くと、
「ところで、ケガは大丈夫なの、リン?」
と、トムキャットに乗り込む際に、負傷していたリンの身を案じた。
「ああ、大丈夫だ。右腕を少し痛めたが、大事はない―――皆、心配には及ばない」
初めて負傷の事実を知る仲間に、動揺を与えないためか、ことさらリンは気丈に振る舞い、そう答えると―――続けて、最後の決戦に向けて士気を鼓舞する様に、指揮官としての指令を発した。
「さあ、みんな……『アンサー』を出しに行くぞ―――進軍開始だ!」




