第12話(最終話):踊れ!1
「アカネ……どうして?」
もはやこれまでかと思い定めた瞬間、突然、目の前に現れた本隊に加わっているはずのアカネの姿に、リンは驚いた―――しかも、乗っている機体はファントムではなく、リンとカノンの乗機であるトムキャットに一人で乗っているという点も、二重の驚きであった。
「いいから、早く乗って!もう長くはもたないわ!」
いかに全長四メートルの機甲兵器である人馬戦車とはいえ、崩れ落ちようとするエントランス天井を支え続ける限界が近付いている事に、アカネは焦りの叫びを上げた。
負傷した右腕をかばいながらも、なんとかトムキャットの後部管制席に乗り込んだリン―――それを見届けると同時に、カノンも素早くエントランスをすり抜け、屋外に脱出した。
「うおりゃーっ!」
アカネが叫びとともに、機体を反転させると―――エントランス部は天井から崩れ落ち、同時に屋内からも一階天井の崩落らしい音が聞こえてきた。
「すまない、アカネ……助かった」
痛みに耐えながら、苦しそうな声で感謝を述べるリン。
「リン……ケガしてるの?」
「大丈夫だ……シオンを……救援しなければ」
正面口方面では、いまだシオンが四機小隊のみで、多数のハッキング機を相手に戦っているはず―――自身の負傷も顧みず、乱戦の最中にある部下の身を思うのは、リンの統率者としての本能であった。
「そうね、でもこっちも、そうも言ってられないわよ―――」
アカネの言葉に、リンが管制レーダーに目を移すと、敵機がこちらにも接近していた―――その数、約二十―――中隊規模であった。
「カノン、替わりなさい!」
リンの負傷に動揺して、まだ立ち尽くしたままのカノンに、開いたままのキャノピーから、アカネが呼びかける。
「えっ……」
主を守りきれなかった事に、責任を感じ逡巡しているカノン―――だがアカネは、そんなライバルに喝を入れる。
「トムキャットは―――リンとアンタの機体でしょ!アンタがリンを守らなくて、どうするの!バクフのファルコンが迫ってるのよ!」
その言葉を聞いた瞬間、カノンは雷に打たれた様に、目を見開いた―――目の前にあるのはKF-14トムキャット、今までリンのパーソナルカラーである赤で、両肩を染めていたのを、最終決戦においてその右肩を、カノンのパーソナルカラーである青に塗り直してくれた、二人の機体。
その絆を再確認して、カノンは己を取り戻した―――そしてコクピットから飛び降りるアカネと、入れ替わる様に機体を駆け上がった。
すれ違いざま、「蹴散らしなさい!」と声をかけたアカネに、「もちろんですわ!」とカノンは請け合った―――その目は、攻撃本能に満ちた鋭い輝きを放っていた。
「カノン―――!」
「リン様、参ります!私にお任せくださいませ!」
主の呼びかけに応じながら、キャノピーを閉じると同時に、カノンはトムキャットをホバードライブでダッシュさせる―――もうハッキング機は、目前まで迫っていたのだ。
近接格闘形態のヒューマンモードのまま、機関砲を構えるトムキャット―――それがハッキング機の間をすり抜けると―――たちまち数機のファルコンが蜂の巣状態で、地に崩れ落ちた。
「こぉんのー、バクフのクソが!クソが!クソがー!」
悪鬼の形相で罵りの声を上げながら、次々とハッキング機を撃破していくカノン―――仲間との触れ合いから柔和になった事で、最近では影をひそめていた彼女の狂気性が、再び表に出た形であった。
崇敬する主を、傷付けた敵が憎い―――カノンの心は今、その憎悪の感情のみに突き動かされていた。
「死ね!死ね!死ね!」
叫びながら、機関砲だけでなくダガーも駆使して、ファルコンを粉砕していくカノン―――だが快進撃を続ける分、その視界は次第に目の前の敵だけしか映らなくなり、客観性を失っている事に彼女は気付かなかった。
「カノン、右後方に三機!」
後部管制席からのリンの叫びに、カノンがサイドモニターを見ると―――機関砲をトムキャットに狙いをつけた、ファルコンの列が、その目に飛び込んできた。
回避は間に合わない。反転射撃も右手に機関砲を持つ人馬戦車では、右後方にはワンテンポ遅れる―――瞬時に計算を働かせるカノンの結論は、打つ手なし、という絶望的なものだった。
自分とした事が、怒りに我を見失った―――リンを後ろに乗せている状態での体たらくに、我が身を呪う思いで歯噛みするカノンの目に―――自分たちを狙っていたファルコンが、機関砲射撃を受け吹き飛ばされていく姿が映る。
「な―――!」
突然、救われた状況にカノンは驚きの声を上げる。
「来たか―――」
ニヤリと笑うリンの声に、カノンが視線を先に伸ばすと、ホイールドライブで近付いてくる三機の人馬戦車の姿があった。
それはKF-5タイガー―――アカネとアオイが駆る第三世代機、KF-4ファントムのAI支援機であった。




