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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第11話:人間として8 (第11話 終)

 そして国営放送から、東に少し離れた市街では、ミユウ率いる本隊が、新たに遭遇した防衛陣を突破するべく、突入を開始したところであった。


「チトセ中尉のおかげで、だいぶ防衛部隊との遭遇率が下がってきたわ!―――この調子ならいける!ここも一気に撃破するわよ!」


 かけ声とともに、ミユウは先陣を切ってKF-15イーグルを敵陣に切り込ませていく―――そのAI支援機、KF-16ファルコン三機とともに的確な先制射撃で、敵前衛に綻びを作ると、そこを狙ってファントムを先頭に、後続機も次々とその後を追った。


 その頃、第五中隊と第六中隊を率いて陽動任務に当たったチトセも、市街地を走り回っていた。


「ほい、また新しい遊撃部隊が見えてきたのですよ!―――バクフに向かうと見せて、ギリギリまで近付いたら、また同じ要領で、一気にあさっての方向に走るのですよ!」


 明るさを失わず、チトセは部隊にそう指示すると、先頭を切って遭遇部隊に接近していく。


「第五中隊は私の右後方、第六中隊は左後方に展開―――私が右旋回で次の交差点を曲がったら、弾幕射撃を浴びせながら、みんな私の後に続くのですよ!」


 具体的な説明を交えながら、同時に各機のモニターに進行路も表示させるチトセの指揮に、練度の低い第五、第六中隊も安心してその指示に従っていた。


 その実地研修の様なチトセの指揮のおかげで、陽動部隊は見事にバクフを撹乱させ、本隊への狙いを半減させる事に成功している―――ミユウ、チトセの隊ともに、着々とバクフ進攻へ、その役割を果たしていたのだった。


 そして、今まさに激戦を繰り広げている同胞へ―――そして、これから未来を紡いでいく全世界人類に向けて―――リンのメッセージが届けられる。


『皆様……私は、日本国自衛軍東部方面隊、ミライミナト駐屯地司令、クスノキ=リン大佐であります―――』


 ヤヨイのジャックによって、国営放送の緊急放送用の電波網を利用したそのリアルタイム映像は、世界に向けて発信された。


『今、我々は日本国のガーディアン、『人工知能バクフ』と戦闘を繰り広げています』


 同時に画面にワイプで映し出される、リアルタイムの戦闘映像―――緊急放送の回線のため、リンの姿は日本国内のすべてのテレビ、及びネット回線に強制的に割り込んでいる。海外メディアも、この日本で起こった電波ジャックに注目するのは時間の問題であった。


「始まったみたいね……」


 ハッキング機との戦闘を継続する、KF-4ファントムのコクピットにも、リンの映像が飛び込んでくると、アカネは忙しく操縦桿を操作しながら、そう言った。


「無事に到着したんだ……良かった」


 アオイも支援機である、KF-5タイガー三機の操作をしながら、リン一行の無事に胸をなで下ろした。


 ミユウ、チトセ、シオン機だけでなく、戦闘中の首都進攻部隊各機、及びシチガヤ駐屯地にも同様の映像は流れ、皆は眼前の課題に立ち向かいながらも、リンの姿に固唾を呑んで注目した。


『国民の皆様……人工知能バクフの人馬戦車ケンタウロスハッキングによって、政府からの非常事態宣言が出て約ひと月―――報道管制が敷かれる中で、状況が分からず、不安な日々を過ごされた事と思われます』


 その人工知能バクフの制御室で、首都進行軍と相対するサツキも、放送を受信したバクフのモニターに目を移し、己が未来を託した愛弟子の姿に顔を綻ばせた―――だが、バクフも黙って手をこまねいている訳ではなく、自身を窮地に陥れる敵方の工作を潰すべく、すでに放送を遮断するための電波妨害を開始している。


 審判者であるサツキは、その演算モニターを横目で見ながら、どちらの側の支援をする訳でもなく、ただ心の内でリンの無事を祈るばかりであった。


『すべてをお話しします―――この電脳謀反と呼ばれる乱が、なぜ起こったのか。なぜこの電脳謀反が起こらなければ、ならなかったのか―――そして今日まで、この日本に何が起こっていたのか……そのすべてをお話しします』


 リンの突然の世界に向けた登壇は、防衛省に設置された首都進行隊の対策室にも衝撃を与え、流し込まれたその映像に、会議室は騒然となっていた。


「な、な、なんだこれは!―――なぜクスノキ大佐が!?」


 官房長官が狼狽の声を上げている間にも、リンの演説は進行し―――アメリカ、日本、両政府が国連規定違反のジェット兵器の開発に着手していた事。バクフはそれに異議を唱えるために、人馬戦車ケンタウロスをハッキングするという手段に出た事。そして、これまでの戦闘経過などを、簡潔ながら手際よく次々と説明した。


 それを受けて、ガックリと肩を落とす官房長官―――もはや、いかなる隠蔽工作を施しても、国内外の日本政府への批判はかわせない事を悟り、観念した様子であった。


『バクフにも、いや人工知能にも―――人工知能の真があったのです!それは未来を思う心です!』


 状況の説明を終えると、リンは話題を『未来』に向けて転換し、まずは人工知能側の立場を説明した。


『国連が航空力の廃絶を決定し、その後、五十年の世界平和を人類が得られたのは、人工知能であるガーディアンの世界制御のおかげでした―――ガーディアンはその演算で、人類が過ちを犯さぬ様に、常に道を示してくれました』


 忘れかけていた平和への経緯―――リンの言葉は、まずそれを全人類に思い起こさせた。


『今またガーディアンは、その日本担当であるバクフは、我々に道を示してくれました―――このまま進むのは危険だ、人馬戦車ケンタウロスを捨てろと!』


 リンのメッセージが続く中、防衛部隊をまたひとつ撃破し終えた本隊では、アカネが神妙な面持ちで思案をしていた。


「アカネ?」


 パートナーの異変に気付いたアオイも、管制席から隣のアカネを覗き込む。


『だが我々は、それに従うだけで良いのでしょうか!?―――我々は我々の『アンサー』を出さなければ、ならないのではないでしょうか!?』


 リンが『アンサー』という言葉を放った瞬間、アカネは決意した表情で、無線を指揮官であるミユウに繋いだ。


「ねえ、ミユウ」


「どうしたの、アカネ准尉?」


「アタシたちは、このまま最短ルートでバクフに到達した時点で、攻撃を開始するんでしょ?」


「そうよ、そのためにチトセ中尉も道を開いてくれてるわ」


「そうよね……でもゴメン、ミユウ―――リンを迎えに行きたいの!」


「アカネ准尉……?」


「無茶苦茶言ってるのは分かってるの!みんながアタシたちを先に行かせるために、頑張ってくれてるのも!―――でも、ここまでみんなで『アンサー』を出すために頑張ってきて、その最後の瞬間に、一番頑張ってきたリンがいないのは違うと思うの!―――だから、お願いミユウ!すぐにリンを連れてくるから、アタシたちを行かせて……!」


 アカネはリンが登壇してから、ずっと感じていた思いを、気魄に満ちた叫びに乗せて一気にまくしたてた。


 リンが全人類に向けてメッセージを放つのも役割なら、その間に一秒でも早くバクフを倒す事も役割であり、ここは各々の役割を果たすというのが正論であった―――アカネの発言は、その正論を曲げるものであった。


『そのために我々は、今、人工知能バクフを目指して戦っています―――ですが、これは戦争ではありません。我々は、一方的な要求には屈しない姿を見せ、人類の真を人工知能に問うているのです』


 アカネ、ミユウ、双方が沈黙している間にも、リンの言葉は続いた。アカネの悲痛な思いと、ミユウの指揮官としての思いの両方が理解できるだけに、アオイも神妙な面持ちでなりゆきを見守っている。


『そのために今、私の仲間は戦っています―――『人間として』の真を問うために!―――『人間としてのアンサー』を出すために!』


『人間として』―――その言葉は、アカネ、ミユウ、そしてアオイだけでなく、それを聞くすべての同胞、全人類の心を貫いた。


「アカネ准尉、アオイ准尉、指揮官として命令します―――リンを連れてきて!」


 次の瞬間、ミユウはそう言った―――機械ならぬ人間の情―――そんなものでは説明し切れない、万感の思いがその言葉には宿っていた。


「ミユウ……」「ミユウ中佐……」


 驚くアカネとアオイに、その時間も惜しいとばかりに、


「急いで!バクフには先に行ってるわ―――すぐに追いついてくるのよ!」


 ミユウは二人に向かって、ゲキを飛ばした。


「ありがとうミユウ、すぐ戻るわ!」


 練度の高い、第二中隊から第四中隊がついているとはいえ、これで本隊のヴァルキリー隊はミユウのみとなった―――その戦力低下を承知の上で、この決断を下したミユウの心意気を無駄にしないためにも、アカネはすぐさまファントムをアクセルターンとともに発進させた。


「あれ?―――アカネ、国営放送なら方角はこっちじゃないよ?」


「いいのよ、これで」


 ファントムの進路に疑問を抱いたアオイの言葉を、アカネは静かながら有無を言わせぬ口調で封じると、機体を高速移動形態のタンクモードに変形させながら、さらにアクセルを踏み込み先を急いだ。


『日本国民の皆様……そして世界全人類の皆様……この戦いを、我々の『アンサー』を見届けてください―――そして皆様は皆様の……『人間としてのアンサー』を出してください』


 リンのラストメッセージが、放たれていたその時―――


 本隊を率いるミユウは、新たなる防衛陣に遭遇し、その戦端を開き―――チトセはその本隊を守るべく、陽動部隊を駆け回らせ―――アカネとアオイは、リンを最終決戦の場に迎えるべく先を急ぎ―――カノンはヤヨイとともに、リンの世界発信を遮ろうとするバクフからの電波妨害と戦い―――シオンは国営放送に群がってくる、ハッキング機を修羅の形相で次々となぎ倒していた。


 リンを筆頭とする金色こんじきの戦乙女たち、ゴールデンヴァルキリーは―――役割と場所は違えど、誓い合った『アンサー』を出すために、皆、懸命に前に進み続けていたのだった。


 そしてリンが凛々しい笑顔で一礼すると、そこで放送は遮断された―――遂にバクフの妨害によって、ヤヨイの電波ジャックが破られたのであった。


「やれやれ、ギリギリだったっすね」


 なんとか役割を果たせた事に安堵したヤヨイが、放送スタジオのコントロールルームで深い息を吐いた。


「すまない、キサラギ少佐、苦労をかけてしまったな」


 秘密諜報部隊所属であるヤヨイの工作能力なくしては、成し遂げられなかった世界発信―――その協力に対して、リンも最大の感謝をもって、その労をねぎらった。


「しかし緊急放送網を奪いながら、バクフの電波妨害を十分以上も防ぎ切るなんて……驚きでしたわ」


 ヤヨイの電子戦を、隣でサポートしていたカノンも、その常人離れした手腕に感嘆の声を漏らした。


「あー、あーしは褒められて伸びる子っすからねー。そういうの大歓迎っすよ」


 感謝と賛辞に対して、ヤヨイはおどけながら、リンとカノンに微笑むと、次の瞬間、スタジオにドーンという振動が伝わってきた。


「なんだ!?」


 驚きの声を上げるリンに、


「まずいっすね―――ハッキング機の攻撃が、激しくなってきたみたいっすね。急いでここを出るっすよ!」


 と、ヤヨイは表情をあらため、半開きの目を『鷹の目』にすると、リンとカノンを脱出路に先導しながら走り出した。


「シオン……」


 走りながらカノンは、放送局の護衛についている妹の身を案じる。


 シオンは迫り来るハッキング機を、自身のイーグルとAI支援機ファルコン三機で懸命に防ぎ続けていたが、中隊規模の編隊が送り込まれるに及んで、機関砲の弾丸が尽き、固定武装のダガーのみで応戦せざるを得ない状況に―――遂に、放送局への機関砲攻撃を許してしまう展開となっていたのだった。


「あーしのイーグルが、少し先に伏せてあるっす―――あーしがそれで、ハッキング機を蹴散らすんで、ひとまず大佐たちは安全なとこまで逃げてほしいっす」


「分かった、気をつけてな、少佐」


 作戦行動を了解しながら、リンはヤヨイの身を気遣う言葉をかけると、


「大佐たちも……では、あーしはここで!」


 それに少し嬉しそうな顔を作ると、ヤヨイはそう言い残して二階通路のガラス窓を突き破りながら、屋外へ飛び出していった―――おそらく、そこがイーグル改への最短ルートだったのだろう。


 そんな破天荒なヤヨイの行動に、驚きと苦笑を漏らしながら、リン、カノン主従は自分たちの脱出路に―――激戦が繰り広げられている正面入口の、反対側にあるエントランスに向かって先を急いだ。


 そして二人が、一階フロアに到達すると、


「こちらです、リン様」


 カノンが広大な一階ロビーを見渡しながら、脱出口にリンを導こうとした瞬間―――メキメキと音を立てながら、天井から大型照明施設が、二人に向かって落下してきた。


 一瞬の出来事であった―――ハッキング機の激しい機関砲攻撃によって、国営放送の躯体に重度の振動が加わった事により落下してきた照明―――その真下にいたリンは、その下敷きとなってしまった。


「リン様―――!」


 カノンの絶叫がロビーにこだまする。


 リンの安全を優先するために、脱出口に向けて先に進んだ事が幸いして、カノンは無傷であった―――だが従者である彼女にとって、それは不幸であった。


「リン様、リン様!」


 主の名を叫びながら、その身に覆い被さる鉄塊を取り払うカノン―――幸い、頭部、胴部にそれは当たっていないらしく、リンは痛みに顔をゆがめながらも、意識はハッキリとしていた。


 そして、「さあ、リン様」と言いながら、カノンがリンを抱き起こすべく、その右肩に触れた瞬間―――「ううっ」とリンが激しく、苦悶の叫びを上げた。


「リン様!?」


「すまない、カノン……右腕をやられたようだ……他は、大事ない……」


 苦しい息の中で、自身の被害状況を的確に報告するリン―――常人では考えられない、強靭な精神力であった。


 カノンがリンの左に回り込み、その体を抱き起こす―――そして二人は脱出口に向けて、再び歩き出した。


 一歩、また一歩と、その歩みは遅い―――その間にも、大きな揺れが何度も二人を襲い、状況の悪化を物語っていた。


 そして主従がようやく、エントランスにたどり着いた時―――無情にも今度はその天井が振動に耐え切れずに、崩落を始めた。


 その瞬間、二人は見た―――崩れる天井に手を伸ばし、それを防いだ人馬戦車ケンタウロスの姿を。


 それは左肩を赤に、右肩を青に染めた見慣れた機体―――KF-14トムキャット―――そして、そのキャノピーがゆっくり開き、その操縦者にリンは驚きの声を上げた。


「アカネ―――!?」


「リン、迎えに来たわよ!」




 第11話:「人間として」終


 第12話(最終話):「踊れ!」に続く




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