第11話:人間として5
そのリンも、ヤヨイが占拠を進めている国営放送に向かい、急行していた。
隠密行動のため人馬戦車での移動は避け、カノンが運転する乗用車で偽装をしている―――そのため、湾岸部にKF-14トムキャットは、乗り捨てにせざるを得なかった。
今回の首都進攻に際して、リンはトムキャットの右肩を、その操縦士であるカノンのパーソナルカラーである、青に塗り替えてくれていた―――その二人の機体を捨てていく事に、カノンは強い寂しさを覚えたが、リンの思いを成就するためと、その思いを押し殺した。
「リン様、霞ヶ関の外郭にもハッキング機が展開しています。少々、荒い運転になりますが、ご容赦を」
そのカノンは、アクセルをベタ踏みしながら、助手席のリンに断りを入れる。
「大丈夫だ、私こそこんな危険に巻き込んでしまって、すまない」
「なにを仰います。リン様のためなら、このマキナ=カノン―――いつでも、この命投げ出す覚悟はできておりますわ!」
従者である自分に、労りの言葉を返してくれたリン―――その変わらぬ優しさに、カノンは必ずこの主を守り抜くと、決意を新たにしたのだった。
リンとカノンが国営放送への道を急ぐ中―――ミユウが指揮する本隊は、またひとつ防衛線を突破したところであった。
「思ったより広範囲に、防衛陣を展開しているわね」
戦闘後、味方機に損害がない事を確認し終えると、ミユウはバクフの布陣が想像以上に巧妙である事に、懸念を口にした。
「確かに!―――主要道路を避けて、こちらは動いたのですが、その先を読まれた様に、待ち構えられていたのですよ!」
同様の感想を抱いていたチトセも、ミユウの意見に賛同する。
「まだ湾岸部から、それほど離れていないのに、もう遭遇してしまったという事は―――防衛陣が広範囲かつ、こちらの動きに合わせて移動していると、考えた方が良さそうですね」
まだ霞ヶ関のバクフまで、かなりの距離を残した序盤で、防衛ラインの網にかかってしまった展開に、アオイはバクフが遊撃態勢にある事を予想した。
「バクフの奴も……一筋縄じゃあ通してくれないって事ね」
皆の意見を受けて、それを締めくくる様に、アカネは苦い顔をしながら、ここからのバクフとの戦闘が容易ならざる事に言及した。
「そうね……リンとカノン大尉が別行動を取っているので、こちらも現有戦力でバクフまで到達しなくてはならないわ―――先を急ぎましょう」
予想以上のバクフの防衛戦術に、進行の難渋を予感したミユウは、急ぎ進発を宣言したが、その時、それまで押し黙っていたシオンが、突然叫びを上げた。
「ミユウ中佐!―――リン大佐のところに行かせていただけないでしょうか!?」
「シオン少尉……?」
突然の事に、ミユウもすぐには言葉が返せなかったが、かまわずシオンは言葉を重ねる。
「私たちの動きがバクフに捕捉されているのだとしたら……きっと大佐の動きも掴まれていると思います!―――大佐はトムキャットを置いていっています。国営放送に着く前に、もしハッキング機に襲われたら……」
バクフが遊撃態勢を取っているのなら、丸腰で国営放送へ向かっているリンたちにも、危機が及ぶ可能性があるため、自分をその護衛に向かわせてほしいと、シオンは懇願した―――もちろん司令であるリンの身を第一に案じての事だが、そこには同行している姉、カノンへの心配も含まれている事は明らかであった。
そのため発言を控えていたシオンであったが、進発をミユウが宣言した瞬間、抑えきれぬ思いを放ったのだった。
公私混同とも受け取られかねない発言をした事に、シオンはまた押し黙ってしまったが、思いを告げた事には、いささかの後悔の念もなかった。以前の引っ込み思案だった彼女なら、そうは思わなかっただろう―――やはりシオンは、この『電脳謀反』を通して、自分の殻を打ち破ったのだった。
「いいわ、シオン少尉―――行きなさい!」
そして、シオンの心意気を汲んだ様に、ミユウはあっさりとその申し出を了承した。
「中佐……あの……」
あまりの事に、それを切望していたシオンの方が慌ててしまったが、
「確かに、リンたちの方面にもハッキング機が展開している可能性が高いわ。でも裂いてあげられるのは、あなたの小隊四機だけよ―――急ぎなさい!」
ミユウは急かす様に、シオンの進発を促した。
「シオン―――リンとカノンの事は頼んだわよ!」
「こちらは私たちに、任せてください!」
「ほらシオン、急ぐのですよ!」
アカネ、アオイ、チトセも次々とシオンにエールを送り、その背中を後押しした。
「みなさん……」
ミユウ、そして仲間の温情に、シオンは感涙にむせび泣きたい心情に襲われたが、グッと歯を食いしばると、
「ありがとうございます!―――行きます!」
と言葉を残し、自身のイーグルとAI支援機ファルコン三機の小隊で、国営放送に向かうリンとカノンの後を追った。




