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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第11話:人間として4

 サツキとの交信を絶たれ、もはや自力で霞ヶ関を防衛しなければならなくなった政府は、その対応に追われていた。


「総理を官邸から、急いで脱出させろ!」


 ミライミナト駐屯地による首都進攻部隊への、対策本部が置かれている防衛省の会議室で、首相に代わって指揮を任されている官房長官が、怒鳴り声を上げる。


「ミライミナトの進攻を受けて、北部方面隊と中部方面隊のハッキング機も、東京に向かっています!―――そのため安全な脱出ルートの設定には、もう少し時間がかかります」


 首相の戦域脱出を指示する官房長官に、防衛大臣付きの実務官が状況を説明する。


「それを探すのがお前たちの仕事だろ、急げ!」


 すべてが後手後手に回らされた事に、怒り心頭の官房長官はハタと思い出すと、


「シチガヤの方はどうした!?まだ動けないのか!?」


 いまだ迎撃に赴いていない、シチガヤ駐屯地の有人機部隊について問い合わせた。


「はい……イーグルの起動系に障害が出ているらしく……いまだ原因が特定できず、動けていない状況です……」


 苛立つ官房長官に向かい、実務官は言いづらそうにそう答えた。


 ―――その時、シチガヤ駐屯地では、ヤヨイの指示を受け、有人機のOSデータにバグを仕込んだタマキが、動けなくなったKF-15イーグルに右往左往する隊員と一緒に、自分も右往左往していた。


 やっちゃいました、やっちゃいました、やっちゃいました、あわわわわー―――遂に禁断の一線を越えた事に、タマキの頭はもう真っ白であったのだ。


「くそっ、こんな時に!―――ならキサラギはどうした!?『ゼロのキサラギ』を動かせ!」


 ままならぬ状況に官房長官は、政府直属の秘密部隊である『ゼロ部隊』のキサラギ=ヤヨイの出動を指示するが、


「キサラギ少佐も……消息不明の状態です……」


 と、それに返ってきたのは、またもや絶望的な回答であった。


 打つ手がなくなり、ガックリと肩を落とす官房長官―――もはや日本政府は、サツキの言葉通り、この決戦を見守る事しか道はなくなったのだった。


 その頃、消息不明と名前の挙がったヤヨイは―――霞ヶ関から西方に少し離れた、国営放送の放送局の前にいた。


「さーて、あーしも始めるとするっすかね」


 そう言うとヤヨイは、政府の非常事態宣言が出ているため、必要最低限のスタッフしか残留していない国営放送の正面入口から、堂々と入っていった。


 そして、「あー、どもども、防衛省シチガヤ駐屯地のキサラギ=ヤヨイ少佐っすよ」と、その身分証をチラつかせながら前置きすると、


「ここはバクフの攻撃目標になったすよー!もうすぐ何千機という人馬戦車ケンタウロスがここに攻めてくるっす!―――早くみんな逃げるっすよー!」


 ロビー全体に響き渡る大音声で偽情報を流し、まずは局員をパニックに陥れた―――そして空になった受付ブースに素早く入り込むと、局内の放送回線を使って同様の偽情報を流しまくり、次々と局員を施設外に出す事に成功した。


『ゼロのキサラギ』の恐るべき手並み―――作戦行動を進めながら、ヤヨイは『鷹の目』になると、ニヤリと笑いながら、


「クスノキ大佐……お待ちしてるっすよ」


 と呟きながら、リンが自分に密命を依頼してきた時の事を思い出す。




 リンはヤヨイに言った―――国営放送をジャックしてほしい、と。


『ゼロのキサラギ』にしかできない事―――と前置きした事で、相当な難題であろうと予想していたヤヨイであったが、さすがにこれには驚いた。


「ほう……穏やかじゃないっすね」


 それにヤヨイは表面上、いつも通り余裕の構えで、まずはリンの真意を問うた。


「だろうな……だが、これは前々から考えていた事なのだ」


 そう言いながら、リンは涼しげな目で、真っすぐにヤヨイを見つめると言葉を重ねた。


「人類と人工知能……それぞれの真を問うために、我々は今日まで戦ってきた。その『アンサー』を出すために、我々は首都に進攻する……きっと、これで戦いは終わるだろう」


 まずリンは、次の戦いが最終決戦になる事に言及すると、そっと目を閉じた。


「だが『アンサー』は、我々とバクフだけで出して良いのだろうか?―――この戦いの意味……人類と人工知能の未来……」


「クスノキ大佐……」


 世界の未来を真に思う、リンの気持ちに触れたヤヨイは、ある思いに至る―――これは、タカハネ=サツキが世界を救おうとした気持ちと同じだ、と―――ヤヨイは、今、自分がサツキに続いてリンを選んだ事に、間違いはなかったと確信した。


 そしてリンは、カッと目を見開き、その思いを放つ。


「その『アンサー』は、全人類で考えるべきだと思う……たとえ今、その答えは出なくても、百年、二百年先への、そのキッカケとするためにも、私はこの戦いの意味を皆に知らせたいのだ!」




 回想を終えたヤヨイは、局内を走りながらクスクスと笑う。


「そのために、国営放送を乗っ取って、世界発信って……まったく、あの人は面白えっす」


 そう呆れながらも、ヤヨイはリンのために―――リンが描く未来のために働ける事が、たまらなく嬉しかった。




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