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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第11話:人間として1

 アカネとヤヨイの、首都進攻を賭けた激戦から数日後―――


 自衛軍東部方面隊ミライミナト駐屯地のランウェイには、多数の人馬戦車ケンタウロスが進発を控え、所狭しとひしめき合っていた。


 そのほとんどは、自衛軍の主力である有人指揮官機KF-15イーグルと、そのAI支援機であるKF-16ファルコン。


 その大編隊を従える位置に鎮座するのは、この進攻部隊を指揮するクスノキ=リン大佐のKF-14トムキャット。複座機であるその後部管制席からリンは回線を開くと、進発部隊全員に向けて、最後の訓示を始めた。


「皆、これより遂に首都に……バクフに向かって進発する!」


 討伐目標である『バクフ』という言葉に、一同の顔は引き締まる。


「かつて私は皆に、これは私の『私戦』だと言った……だがこの『電脳謀反』は、もはや私とタカハネ博士の問題ではなく、日本の―――世界の未来を占う戦いとなった!」


 始まりは、リンの師匠である大科学者―――タカハネ=サツキ防衛省補佐官の、『人工知能バクフ』を乗っ取った陰謀であるかと思われた『電脳謀反』。


 だがその本質は、バクフを含めた『人工知能ガーディアン』が世界を制御する現代において、人型機甲兵器『人馬戦車ケンタウロス』の開発を盲信的に進める人類と、人工知能の関係を是正するための策略であったのだ。


 航空機、及び航空兵器の廃絶という国連規定が制定されてから五十年―――それを破り、ミサイルどころか、ジェット人馬戦車ケンタウロスまで隠密に開発していたアメリカ。その同盟国である日本までもが、それに関与していた事実を、激しい戦いの中で、一同はその目で見た。


 それだけに、リンの言葉は皆の胸に深く突き刺さった。


「バクフは、人類の行動に不快感を示した―――だから、ハッキングという手段で人馬戦車ケンタウロスを人類から奪った……」


 そこで言葉を切り沈黙するリン―――その間、皆の胸にも様々な場面が回想される。


 攻め寄せてきたハッキング機との初めての実戦、KF-18ホーネットを一瞬で破壊したミサイル兵器への戦慄、そしてジェットで疾走するKF-20タイガーシャークの威容―――そのすべてが、平和な日常からかけ離れた異常事態であった。


「だが人類が、力による過ちを犯したとはいえ、それをまた人工知能が力をもって制するのが、正しい事なのか?―――私はそれを問うために……首都へ、バクフへ進攻する!」


 ここでリンは首都進攻への『大義』を表明すると、


「その『アンサー』が何なのか……皆でそれを導き出そう!―――皆、私に最後の力を貸してくれ!以上だ」


 皆が胸に抱く『アンサー』という言葉でもって、訓示を締めくくった。


「お見事でございました、リン様」


 前部操縦席からマキナ=カノン大尉がそう言いながら、後方に顔を向ける。それにリンは力強く頷いた。


 電脳謀反における、これまでの戦いを総括する様なリンの訓示は、皆の心を奮い立たせた。


「リンの奴、なかなかいい事を言うじゃない」


 部隊中、唯一の有人式第三世代機、KF-4ファントムのコクピットで、ヒビキ=アカネ准尉もリンの訓示に胸を打たれ、目を輝かせている。


「遂に最終決戦―――これですべての『アンサー』を出すんだからね」


 並列複座であるファントムの管制席に座る、コダマ=アオイ准尉も、そのAI支援機である第三世代機のKF-5タイガー編隊のセットアップをしながら、弾む声でアカネに言葉を返した。


「アオイ、タイガーのAIは大丈夫なのですか?」


 そこにゴールデンヴァルキリー隊の一員である、スズシロ=チトセ中尉からの無線が入る。


「はい!タイガーも今のところは、何も問題なく動きそうです」


「最終決戦用に作った、ファルコン用の書き換えAIなので、タイガーに合うかが心配だったのですよ」


「タイガーのAIも前回のアップデートで、第四世代機並みになってますので問題ありません。これでバクフからのハッキングも、バッチリ防げます!」


 人工知能バクフのAI支援機ハッキングを防ぐために、急造で作成した第四世代機用データの、第三世代機への適応を懸念したチトセに、アオイは自身に満ちた声で問題なしと回答した。


「アオイ准尉、各機、電子防護は一応万全だけれど、こちらは当初よりも、相当機体数が減っているわ……私たちも頑張るけれど、あなたの電子攻撃―――ハッキングに期待しているわよ」


 そこに駐屯地副司令、兼ヴァルキリー隊副隊長である、タチバナ=ミユウ中佐から、電子戦へのエールがアオイに届いた。


 電子戦―――レーダーなどの電子機器を、様々に妨害する事で、戦局を有利に導く―――見えない戦闘。


 もちろん人型機甲兵器である人馬戦車ケンタウロスにも、様々な電子機器が搭載され、有人機をサポートするAI支援機はその最たるものであった。


 AI支援機は、その高度な制御のために、『人工知能ガーディアン』にシステムの基本制御は委任、その指揮のみを有人機が行うという二極構造の運用形態を取っていたが―――それを逆手に取って、国内のAI支援機をハッキングという電子攻撃で手中に収めたのが、日本担当ガーディアン『人工知能バクフ』であった。


 だがそのハッキング機を相手に、アオイは逆ハッキングという離れ業でバクフどころか、アメリカ担当の世界最強ガーディアン『人工知能フロンティア』さえ破ってみせた。


 フロンティア戦で、多数のAI支援機を失ったミライミナト駐屯地としては、直接戦闘を回避できるアオイのハッキング能力にかける期待は大きく、それが進攻戦の成否の鍵を握っていると言っても過言ではなかった。


「はい!めいっぱいハッキングしまくります!」


 得意分野へかけられた期待にテンションが上がり、アオイが鼻息も荒く物騒な意気込みを語ると、それに隣のアカネは苦い顔をして、親友の困った一面に呆れるのであった。


「アカネさんも、頑張ってくださいね!」


 そんなアカネにも突然の激励が届く―――声の主は、ヴァルキリー隊のエースの座を、アカネと争うカノンの妹、マキナ=シオン少尉からのものであった。


「あ、ありがと……シオン」


 それに少し照れた様に応じるアカネ。


「私、アカネさんに会えて、一緒に戦えたおかげで、前に進む事の大切さを教えてもらいました―――本当にありがとうございます!アカネさんは、私の憧れです!」


 厳しい姉の陰におびえ、引っ込み思案だったシオン―――確かに、アカネが来てからの彼女は、以前とは見違える様な活発さを見せ始めていた。


 それをアカネのおかげだと、年上なのにもかかわらずシオンは、畏敬の念さえ込めて、それを真っすぐに年下の高校生に伝えた―――以前のシオンなら、けっしてこんな積極的な行動にも出なかったはずであった。


「―――だって、アカネ?」


 野心家のくせに、いざ褒められると慌ててしまうアカネ―――そんなパートナーの性格を知り抜いているアオイは、からかう様にそう言いながら、顔をのぞき込んだ。


「ヒューヒューなのですよ、アカネ」


 もう赤面状態になってしまっているアカネに、チトセからもさらなる追い打ちが入る。


「チトセまでなによ!アンタら、いいかげんにしなさいよ!」


 照れた気持ちも相まって、アカネはこの状況を回避するべく、いつもの様に叫びを上げるのだった。


「まったく……出陣前だというのに、緊張感のない……」


 トムキャットの操縦席で、一連のやり取りを聞いているカノンは渋い顔で、苦言を漏らす。


「フフッ、緊張で声も出ないよりはマシじゃないか」


 後部管制席からリンはそう言うと、カノンの心をほぐす様に笑いかけた。


 そんなリンを見て、幼き日よりその従者であったカノンは思う―――リン様の将器は昔から変わらないが、この戦いを経てリン様も変わった。リン様はさらに大きくなられた、と。


 妹たちに苦言を呈しながらも、その妹の成長はカノン自身も認めている。そして今また、主であるリンの余裕に満ちた振る舞いにも、その成長を感じ―――それはやはりアカネの存在に触れた事が原因なのかと、カノンは思い至るのであった。


 しかしカノンは、もうそれに心を乱したりはしない―――当初はアカネの存在に、リンの寵愛を奪われたと感じたカノンは、事あるごとに衝突を繰り返し、時には手を上げた事もあったが、幾多の激戦を共にして、好敵手として認め合った今は、静かな気持ちでそれを受け入れる事ができたのだった。


 私もアカネのおかげで変わったのかも―――そう気付いたカノンの微笑みは、いつもの凛々しい彼女からは想像できないほどの、優しさに満ちていた。


「そろそろ刻限ね、リン!」


 皆の胸に様々な思いが去来する中―――ミユウの進発を促す声が、全機に届く。


「うむ―――」とリンは答え、気合いを込める様に一息おくと、「これより我らは、首都東京に向け進発する!―――目標は……人工知能バクフ!」と、声高々にその攻撃目標を掲げ、進軍の開始を宣言した。


 遂に訪れた首都進攻の時―――金色の戦乙女、ゴールデンヴァルキリー隊を先頭に、総機体数約百機の人馬戦車ケンタウロス部隊が首都東京に向け、次々とミライミナト駐屯地から進発していく。


 日本全土を震撼させ、世界の未来を占う事になった『電脳謀反』―――その最終決戦の幕が切って落とされた。




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