第10話:バベルの塔8
「なっ―――!?」
ヤヨイの勝利宣言は、リンだけでなく、一同に衝撃を与えた―――一騎当千のヴァルキリー隊を相手に、それを打ち負かすと宣言したのだから、驚かない方が無理であった。
「大した自信だな、少佐……だから、ここで我々は手を引いて、あとは国連軍に委ねろというのか?」
だが、あくまで冷静にリンは、ヤヨイの主張を受け止めると、静かにその意図を確認した。
「その通りっす。せっかく大佐たちが、首都に踏み込んできても、あーしがそれを止めるっす。そしてその後、国連軍の出動を、タカハネ補佐官が要請する事になるっすよ―――同じ結果になるんだったら、大佐はもうここで終わりにするっす。それでもう十分っす!」
その気迫に圧倒される様に、リンは言葉を発せなくなった―――国家の機密案件に従事する、ゼロ部隊所属のヤヨイの言葉には、それがけっしてハッタリなどではない、重い説得力が備わっていたからである。
その空気を読み、一連のやり取りを傍観者の立場で見守ってきたサツキが、救済とばかりに言葉を差し挟む。
「ねえ、リン……もう一度、考え直してもいいのよ?」
ヤヨイの主張と自信に、サツキも理ありと認めたからこその発言であった。
だがリンは少しだけ目を閉じ、心を落ち着かせると、その目を見開き、緊張しながら事のなりゆきを見守っている仲間の顔をゆっくりと見渡すと、
「大丈夫です博士、私には……志を共にした仲間がいます―――必ず、やり遂げてみせます!」
その揺るがぬ決意を、あらためてサツキに向かって、ハッキリと表明するのであった。
これで本当に、すべては決まった―――サツキ、そしてミライミナト駐屯地の一同は、リンの意を受けて、最終決戦へ進み出す―――その表情は、皆、晴れやかな落ち着きを伴い、誰の目にも迷いの色は見えなかった。
「やっぱ、そうなるんすか……まあ大体、予想はついてたっすけどね……」
リンの翻意に失敗した事を悟ると、深いため息を漏らしながら、ヤヨイは呆れた顔でそう言った。
「すまない、キサラギ少佐……だが、少佐の気持ちには感謝している……本当にありがとう」
ヤヨイへ心からの深謝を述べる事で、この会談を終了させようとしたリンであったが、
「あ、別にまだ、あーし諦めてないっすよ……じゃあ、ここからは―――実力行使でいかせてもらうっすよ!」
そう言い放ったヤヨイに、場は再びの緊張に包まれた。
「実力行使……!?」
「そうっすよ、あーしがなんで、わざわざ人馬戦車でここまで来たと思ってるんすか?交渉決裂の時は―――ここで、アンタらを潰すためっすよ!」
不敵な笑みを浮かべ、ヤヨイがそう言った瞬間、一同にはその背後に控えるKF-15イーグルが、なぜか大きく見えた。
「ここでアンタらが、あーしに負ける様なら、首都進攻なんて夢のまた夢っす……だからここで、あーしと勝負して白黒つけるっすよ!」
ヤヨイの提案は、首都の防衛ラインを形成する自分との戦闘で、リンたちの首都進攻の成否を推し量るというものであった―――そして、ヤヨイはもちろん負ける気など毛頭ない。
「我々と、人馬戦車で勝負をするという事か……それで、もし我々が負ければ―――」
「首都進攻……諦めてもらうっす」
「ここで少佐に勝てなければ、結果は見えている……と?」
「そういう事っす。ここで結論が出れば、無駄な戦闘を回避できるっす」
「引いては……くれんのだな?」
「あーしは、大佐たちを止めるために、ここに来たっす」
「……………」
ヤヨイの決意が固い事を確認したリンは、しばし沈思黙考すると、
「分かった……その申し出、受けて立とう」
一軍の将として、相対する一軍の将との、首都進攻を賭けた決戦に応じるのであった。
「タカハネ補佐官……いいっすね?」
リンが勝負を受けると、ヤヨイはなりゆきを見守っていた、サツキに確認を取った―――別にサツキの了解を取る必要などなかったが、それは今や同志となった二人の、ある意味、仁義の様なものであった。
リンの首都進攻にも理があれば、ヤヨイの首都防衛にも理があった―――双方に理がある結論の出ない道ならば、それは雌雄を決するしかない。
聡明なサツキは、それを明確に理解している。だから、「分かったわ……」と、まずはヤヨイの確認に了解を示すと、続いて、
「でもね……勝負の方法は、私が決めていいかしら?」
と、避けられなくなった自国軍同士の戦闘に、まるで審判として参加を表明する様に、その間に割って入ってきた。
「―――!?」
サツキの発言にリン、ヤヨイ、ともに怪訝な表情を見せた。信用はしているが、それでもサツキは稀代の大策謀家だ―――その提案を聞くまでは油断がならないと、両軍の将は思わず身構えてしまう。
「嫌ね、二人とも……この期に及んで、教え子と同志に何かを仕掛けるなんてしないわよ、フフフ」
そう言いながらサツキは、リンとヤヨイの顔を見比べながら微笑んだ。そして心中を見抜かれ、少しだけ気まずい顔を作る二人をよそに言葉を重ねる。
「勝負は一戦だけ……キサラギ少佐の相手は―――ヒビキ=アカネ、コダマ=アオイのファントムというのは、どうかしら?」




