表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/127

第10話:バベルの塔6

 再び、それを見守る一同は唖然とした。


 かつてリンの事を『上から目線女』と、まるで仇の様に毛嫌いしていたアカネが、よもやリンを思いやる発言をするなど、まさに青天の霹靂であった。


「どうなのよ、人の人生メチャクチャにして!」


 続けてアカネは、サツキを責め立てる。それに対して、サツキは険しい表情のまま、口を噤んでいた。


 それに対して、さらにアカネが口を開こうとした時、


「アカネ、よすんだ。もういい」


 と、当事者であるリンが口を挟んできた。


「もういいって、なによ!アンタ、悔しがってたじゃない!そんなに簡単に許しちゃうわけ!?」


 そう言って、アカネはリンに食い下がったが、


「アカネ……思えば、私もお前をこの戦いに巻き込んだ―――それは平和への信念からに他ならなかったが、普通の学生だったお前を、命がけの戦場に巻き込んでしまった事は事実だ……だから、私に博士を恨む資格はないんだ……」


 リンは、己が師と同じ過ちを犯した事を認め、サツキの罪を許す事で自身の贖罪とするかの様に、薄く微笑んだ。


 それにアカネは、少しだけ悲しそうな顔をすると、


「アタシだって、アンタの事、許した訳じゃないんだからね……」


 下を向きながら、そう呟いた。


「アカネ……」


 それを見たリンは、良心の呵責に胸を痛めた。


 だが、下を向いたままアカネは、「でもね……」と言うなりガバッと顔を上げると、


「言ったわよね、リン!この戦いでアンタの『アンサー』が出たら、もう一度アタシたちと勝負するって!それがアタシの『アンサー』だって!」


 リンが人工知能との決戦を決意した時に交わした、再戦の約束を持ち出し、


「それでアタシが勝ったら……許してあげるわ!」


 と、勝手極まりない理論を振りかざしながら、リンに笑顔を向けるのだった。


 その言葉はまるで、贖罪に対する救済―――リンはアカネの笑顔に、心が洗われていく思いであった。


「アンタは、タカハネ=サツキを許す―――アタシはアンタを許す……それで全部、終わりよ」


 そう言って、アカネは自身の発言を締めくくった―――その瞬間、この世から『電脳謀反』の罪人つみびとは、誰もいなくなった様な感覚を一同は覚えた。


 だが実際、これで本当に憎しみの連鎖は断ち切られたのだ。ただ、その立役者がアカネである事に、意外だという感情を抑えられず、皆は感動だけでない、含み笑いも混じった、なんとも奇妙な笑顔を浮かべるのであった。


 これも天命の子ゆえに為せる業か―――アカネに対して、皆と同じく深い感動を覚えつつも―――だがこれで大円団ではない、まだ戦いは終わっていない、とサツキは気持ちを戦場に引き戻すと、リンに向かって歩きだした。


「リン、あなたの気持ちを教えてほしいの……あなたは、これからどうしたいの?」


 自身がこの大乱に巻き込んだ、愛弟子の前に立つと、サツキはリンに向かって、問いを始めた。


「あなたは私の期待に応えてくれたわ―――バクフを苦境に立たせる事で、フロンティアを参戦させる事に成功して、米軍のミサイル兵器だけでなく、ジェット型AI機も引きずり出してくれた―――国連もこれで、規約違反兵器の物証をつかむ事ができたわ……」


 サツキは開戦からここまでの、リン率いるヴァルキリー隊の功績を、まずは称賛すると、


「もう十分よ、私が国連軍の出動を要請すれば、一週間でこの内乱は治まるわ。だから、あなたたちは、もう手を引いても―――ここで終わりにしてもいいのよ?」


 と、電脳謀反の国連軍による幕引きを、リンに向かって切り出したのだった。


 それを受けて、少しだけ考えると、リンはサツキの目を真っすぐに見つめながら言った。


「タカハネ博士……博士は見たいと言いましたよね、人類と人馬戦車ケンタウロスの未来を―――アンサーを」


 それは、ミライミナト駐屯地のAI機をハッキングして、電脳謀反の黒幕として、その姿を初めて現したサツキが、リンに向かって言った言葉だった。


「そしてガーディアン―――人工知能が、進み続ける人類の築く『バベルの塔』に、どう判断を下すのかを」


 バベルの塔―――サツキが、慢心した人類を比喩した言葉を持ち出しながら、リンは言葉を重ねる。


「確かに人類は、ガーディアンの導いてくれた平和に背く様に、人馬戦車ケンタウロスを弄んでいるのかもしれません……その報いとして、天の使いたる人工知能が、バベルの塔にいかずちを落とす日も、いずれ来るのかもしれません……」


 そう言ったリンの顔は、微笑みながらもひどく涼しげで、そこにはサツキが見出した『天命の子』の姿があった。


「ならば私は、バベルの塔の頂上で、天に向かい真を問おうと思います―――抗うだけでなく、屈するだけでもない……『人間として』の真を、人工知能に問おうと……それを見届けてくれませんか、博士?」


 それは、戦闘継続の表明であった。


 だが今のリンの心には、当初、抱いていた人工知能への敵愾心ではなく、人間と人工知能の有り方を、その身をもって示さんとするために戦うという、崇高な志が宿っていた。


 己が、人類の代表たる人物として見出したリンは、様々な葛藤を経て、今まさにそれに足る人間として、目の前にいる―――それを感じたサツキは、無意識にリンを抱きしめていた。そして言った。


「分かったわ、リン……待っているわ」


 リンの戦闘継続―――それは、すなわち首都進攻であり、サツキが本陣とする人工知能バクフへの攻撃に他ならない。


 そして、サツキの「待っている」とは―――それを受けて立つという事を意味していた。


 ともに人類の未来を思う師弟の、決戦はこれで決まった。


 そしてリンは、「はい」と答えると、敬愛する師の、昔よりも小さくなってしまった肩を、その上から強く抱きしめ返すのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ