第10話:バベルの塔5
そんなパートナーの健闘に、アカネはニヤリと笑顔を見せると、不意にサツキと目が合った。
そしてサツキは、天命の子であるアカネを熱い眼差しで、じっと見つめる。
ヒビキ=アカネ―――サツキが天命の子として見出したリンが見出した―――天命の子が見出した、天命の子。
「ヒビキさんね……あなたは、うちの舞踊科の生徒なのよね?」
「……そうよ……舞踊科の一年よ」
まずはサツキは探る様に声をかけたが、アカネはそれにぞんざいな口調で薄い反応を返す。だがその眼差しは強く、これまでの流れを経ても、いまだサツキを『敵』として認識している油断のない目をしていた。
この気骨―――悪くない、と内心サツキはニヤリとした。
「舞踊科のあなたが、どうしてそこまで人馬戦車を乗りこなせるのか、私はそこに興味があるわ……良かったら、その秘密を教えてくれないかしら?」
あえてサツキは、探る様にアカネの顔をのぞき込む―――いかにも血気盛んなこの少女が、挑発にどんな反応を示すのか、いたずらを仕掛けてみたのだ。
「フン、それはね……企業秘密よ!」
ドヤ顔でアカネが、そう言った瞬間―――場の空気が凍りついた。
アカネにしてみれば、これまでの流れを利用して、うまい事言ったつもりであったが、もはや三番煎じをここまで堂々とやられると、見守る一同も苦笑せざるを得なかった。
しかもアカネは、サツキとアオイの様な理知的なキャラではない―――もうそこには、えも言われぬ痛々しさだけが、満ちていくのであった。
「あ、あのですね、アカネは私が出来心で練習用のファントムに乗せて、その時にハッキング機が校内に進入してきて、それで、えーと―――」
赤っ恥にまみれたパートナーの危機を救わんと、アオイがサツキに向かって、アカネが人馬戦車に乗り始めた経緯を、しどろもどろに説明する―――だが、それをアカネは遮ると、
「どうせアンタの事だから、アオイの事だけじゃなく、アタシの事も全部調べがついてるんでしょ?それなら、今さらアタシに秘密なんてないはずでしょ!」
と、場の空気を一変させるがごとく、切り裂く様な核心をサツキに突きつけるのであった。
向こう見ずで、直情径行らしいが、けっして馬鹿ではない。むしろ、ここ一番で威力を発揮するタイプらしく、これまで見てきた戦いぶりと、まったくもって合致する―――と、サツキはアカネを値踏みしながら、リンと同じく、この天命の子に惹かれていく自分を認識した。
そしてアカネの事を、もっと知りたい気持ちが抑えられなくなったサツキは、再び問いを仕掛ける。
「フフフ……あなたの言う通り、私があなたたちの事を調べ抜いていたのは事実よ。あなたが人馬戦車に乗った経緯、そして類い稀なセンスを発揮したこれまでの戦い、そのすべてを私は見てきたわ……でも、ひとつだけ知りたい事があるのよ―――」
そこで一旦、言葉を切るとサツキは、チラリとリンを一瞥した後、再びアカネに向き直り、言葉を重ねた。
「あなたはリンに、この戦いに巻き込まれたのだけれど……リンのために戦っている以外に、あなたが人馬戦車に乗り続けている理由があるはず……それを私に教えてちょうだい」
それはまるで、天命というものを探る様な問いであった。
サツキの真摯な眼差しに心動かされたのか、アカネはそれまでの険しい表情を解くと、考えるまでもないとばかりに、その問いにキッパリと答えた。
「人馬戦車が―――ファントムがアタシと踊りたいって言ってるのよ。そして、アタシもファントムと踊りたい……それだけよ!」
天命とは、こういうものか―――サツキばかりでなく、見守る一同は、そのふざけているかの様な言葉に、深く胸を貫かれ、しばし呆然とした。
だがアオイだけは、アカネの横顔を見つめながら、よくできましたと言わんばかりに微笑んでいる―――それを見たサツキは思う―――これは天命を受けた者と、その伴侶がここにいる、と。
自身の疑問に納得した事で、サツキは晴れやかな顔を作ったが、話はまだ終わってはいなかった。
「それじゃあ、今度はアタシが質問よ!」
それはアカネからの反撃であった。
思わぬ展開に表情をあらためるサツキであったが、この天命の子が自分に何を投げかけてくるのか、期待を込めてその言葉を待ち受けた。
「アンタ、どう落とし前をつける気なのよ?」
開口一番、アカネはそう言い放った―――それは、この電脳謀反における、サツキの罪を糾弾する言葉かと思われたが、そうではなかった。
「アンタが世界の未来のために、いろいろ仕組んだのは、アタシだって今じゃ理解しているわ……難しい事はよく分からないけど、アンタもアンタなりに考えての事だったと思うわよ……」
なんとアカネは、サツキの理念を理解する様な発言をした。その事に、ヴァルキリー隊の面々ばかりでなく、駐屯地の一同は呆気にとられる思いであった。
そんな空気を感じ取るとアカネは、失礼しちゃうわ、とばかりに、コホンと咳払いをひとつ挟むと、「でもね!」と、勢いよく前置きした上で、
「そんなアンタのために、巻き込まれたリンに対して、どう落とし前をつける気なのよ!?」
と、この大乱のために人生を狂わされた、リンへの思いを、サツキに向かって力強くぶつけるのだった。




