第10話:バベルの塔3
一方、師弟の再会を囲む輪の中では―――サツキの攻勢が再開されていた。
「ミユウも久しぶりね。あなたの読みの深さには、私もいつもヒヤヒヤだったわ……ここまでリンを支えてくれて、本当にありがとう」
まずはリンの心を、そのわだかまりごと溶かしてみせると、次はその盟友である、同じく愛弟子のミユウに向けて、サツキは言葉をかけた。
「恐縮です、博士―――で、今回こちらにいらした目的はなんですか?ご自身の本陣を空ける危険まで冒して……」
ミユウはサツキに、まずは返礼を述べると、そこからは彼女らしく、すかさずその来訪の意図を単刀直入に問うた。サツキがもっとも油断ならないと目している、ミユウの面目躍如たる振る舞いであった。
「そうね……とりあえずは、ノープランよ」
サツキは、ここに来る途中で、ヤヨイに指摘された言葉をそのまま用いて、それに応じる―――煙に巻く様であり、本気でそう言っている様でもある、サツキの妖しい微笑みに、ミユウは微かな警戒心を抱く。
それを刺激しない様に、「でもね」と言いながら、真剣な表情を作ると、
「あなたたちに会えば、あなたたちに会うべく、ここに来た理由が……きっと見つかると思ったの……それは嘘じゃないわ、信じてちょうだい」
サツキは、その偽らざる本心を、ミユウに答える様でありながら、皆に向かって表明するがごとく、淀みなく述べるのであった。
発言の内容が掴みかねるが、サツキが小手先の弁舌や、嘘を言う人間ではない事を熟知しているミユウは、黙ってその言葉を受け止めた。
そこでミユウとの会話に、ひと区切りついたと判断したサツキは、
「マキナ=カノン大尉―――いつ見ても、あなたの戦いぶりは素晴らしいわ。エースの腕を持ちながら、リンと組む時は、指揮官の立場を尊重した動きをしつつ、単機で出れば向かうところ敵なしの強さを見せる……特に、あなた一機で十二機のファルコンを撃破した、あの戦いは見事だったわ……あなたが『クスノキ=リンの再来』と呼ばれるのに、あらためて納得させられたわ」
と、カノンに向き直るやいなや、エースの腕を持ちながらも、その立場をわきまえた彼女の戦闘スタイルを、一息にまくしたてる様に称賛した。
「い、いえ私は別に……」
突然、話を振られた事に動揺しつつも、自身が心掛けている『部隊への献身』を理解してもらえた事と、『リンの再来』という彼女にとって、もっとも嬉しい言葉をかけてもらえた事で、謙虚な態度で応じながらも、カノンの顔は隠しきれないほど、綻んでしまっていた。
そしてサツキは、チトセとシオンにも次々と言葉をかけていく。
「スズシロ=チトセ中尉―――あなたの戦闘における状況判断力は見事よ。あなたの動き方、位置取りはいつも、自軍の動きだけでなく、戦場全体の動きを把握していて、次の作戦行動における味方の進行を、人知れずスムーズにしているわ。客観的に戦場を見ていると、よくわかるのよ―――あなたには、いずれ指揮官になる才能があると思うわ」
「あ、ありがとうございます……なのです」
状況判断能力という、自身のセールスポイントを的確に褒められるばかりか、未来の指揮官とまで持ち上げられたチトセは、思わず顔を赤らめてしまった。
「マキナ=シオン少尉―――あなたは目立たない様で、リンの―――指揮官の意図をしっかりと把握して、確実に一騎当千の仕事を、いつもこなしているわ。あなたみたいな子がいないとね……部隊ってものは破綻してしまうのよ。優れたチームには、必ず優れた縁の下の力持ちがいる……あなたは、その模範といえる存在ね」
「――――――!」
猛者揃いのヴァルキリー隊の中で、いつも自分の立場に不甲斐なさを抱いていたシオンは、思いもかけなかったサツキからの評価に、感動のあまり息を詰まらせ、言葉を返す事もできずに涙ぐんでしまう。
その姿を微笑ましく見つめながら、サツキはヴァルキリー隊の創設メンバー五人全員へ声をかけ終わると、総括とばかりに、
「リンをはじめ、皆、噂に違わぬ一騎当千ぶりよ。ゴールデンヴァルキリー―――金色の戦乙女である、あなたたちが皆、ミライミナト学園の卒業生である事を、私は学長として誇りに思うわ」
リン、ミユウ、カノン、チトセ、シオンを、学長としての立場で、もう一度、褒め称えるのであった。
まるでミライミナト学園の同窓会の様な展開―――悪意はないものの、これで全員がサツキに籠絡された形となった。
サツキもなぜ、そんな事を言ったのかは分からない―――ただ本心から、そう言いたかったから言ったまでなのだ。彼女が言った通り、ここまでの行動は一切、ノープランなのだから。
そしてサツキの目に、二人の少女の姿が目に入った。
一人は、見るからに理知的な雰囲気を醸し出している、才女らしき容貌。一見、柔和な表情ながら、うかつに触れれば切り裂かれそうな恐ろしさを秘めていると、サツキは同じ策士だからこそ、その本質を読み取った―――だが、その眼鏡の奥の瞳をキラキラと輝かせながら、話しかけてくださいと言わんばかりに、こちらを見ている姿は、なんともいえず可愛らしかった。
もう一人は、華奢ながら引き締まった肉体が印象的である。負けん気の強そうな、けっして人に飼い慣らされない雰囲気をみなぎらせ、傲岸不遜という言葉を形にすると、こうなるのだという典型の様であった―――だが、その凛とした瞳は、上昇志向の塊の様でありながら、不屈の魂を宿しているのをサツキは見逃さなかった。
この子が……リンが未来を託した子なのね―――自分を真っすぐに見つめる、その強い眼差しにサツキは、心躍る思いを抑えきれなかった。




