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こうなると本気で考えなきゃいけないみたいです

お母さんの結婚感・・・。

 アレックスに正式にプロポーズされてから、ノッコはすぐにお母さんに相談した。


大賀(おおか)に帰っている時で良かった。これは、ターチやアミに相談できることじゃないもの。


大学1年生の同級生たちは、まだ合コンとかに行き始めたレベルだから一足飛びに結婚と言ってもノッコとそう変わらない知識しかないと思う。

高校生の時の友だちはもう結婚した人もいるけれど、あまり仲良くなかった子だからこういう個人的なことは聞きにくい。


「そうか。彼はもう結婚を考えている訳ね。…そうなるかもね。」


「どうしてそうなるの? 普通は何年か付き合ってから結婚を考えるんじゃないの?」


ノッコの疑問にお母さんはどこから説明しようかしらと言いながら話してくれた。


「意外とね、結婚っていうのは勢いなのよ。流れっていうか、旨く行くものはすぐに決まっちゃうし、何年付き合っても結婚に結び付かない人は多いものなの。んー、例えば最近は結婚できない人が多いでしょ。そういう人って、自分で何とかしようと考えすぎている人なのよ。」


「でも一生のことなのに、そんな勢いとか流れみたいなもので決めるの?」


「そう。今結婚している人ってたいていそんなもので決めたんじゃないかしら。結婚しようかなと思っている時にたまたま出会った人だったり、あーこの人といると楽だな、とかだったりそんなものよ。よく考えると不思議だわね。よく『ご縁』っていうけれど、結婚とか子どもが出来るとかなんていうものは、人間がどうこうして出来るものじゃないのよ。宇宙の巡りっていうか神の意志みたいなものが関わって来るもんなの。こっちは人としての知恵を絞って、そんな宇宙の流れの中で与えられた環境に上手く適応していくしかないのかもね。与えられた環境の中でビー・マイ・ベスト、やれるだけやってみるっきゃないっていう感じなのよね人生って。」


ノッコは母の人生観っていうか結婚観を初めて聞いた。


しかし世の女性雑誌とか恋愛小説とかが叫んでいる結婚とは、なんか違う感じがする。



「…アレックスとの結婚を考えたほうがいいってこと?」


「それは、ノッコの考え方次第よ。結婚を考えられない人なら断ればいいし、好きで結婚を考えられる人なら真剣にその方向で悩んでみればいいじゃない。お母さんに相談している時点で、後者でしょ。嫌いな人なら速攻断ってるんじゃない?」


「確かにそうかも。アレックスのことは嫌いじゃないんだけど…でも結婚なんてまだまだ先の話だって思ってたし、彼氏とかもいたことなかったし、外人だし、貴族だし、なんかいろいろありすぎるんだもん。」


ノッコがそう言うと母は声をあげて笑った。


「言い訳を考えてる時点で、ノッコも彼に惹かれてるんでしょ。どうせ言い訳を考えるんなら、マイナス思考じゃなくてプラス思考で考えなさいよ。」


「この条件のどこにプラスの部分があるの?」


「結婚はね、何歳になったら出来る、経験をどれだけ積めばできるというものじゃないのよ。誰だって初めてで戸惑うものなの。それはノッコだけじゃなくてアレックスだって同じよ。彼にとってもノッコは外人だし、自分の知らない世界で育ってきた人だし、冒険だと思うわよ。でも、一緒にいて心地いい人かどうかよ。その冒険を一緒に楽しめる人かどうか。これからの人生を一緒に創って行けるパートナーとしてどうか。考えるべきはそこじゃないかしら。こういう出会いは一生のうちに1度か2度ぐらいしかないわよ。思っているより意外と少ないものなのよ。よく考えてお返事しなさいね。」



お母さんの最後のセリフに、ノッコはゾクッとした。


そうなんだ。

アレックスか、もう1人の誰か…ぐらいの選択なのね。


頭の中でテレビに出て来る司会者が『さぁー、どっちっ? どっちだっ!』って言っているような気がする。

うーん、こうなると本気で考えなきゃいけないみたいだ。


どーしよう。

どうしたいの?私。



一緒にいて心地いい人かどうかと言われると…それは心地いい。


家に入り込まれて一緒にご飯を食べていても違和感も何もなかったもんね。

これが今まで出会った男の人だとしたら違和感ありまくりだっただろうな。

だから彼氏もいなかったわけだし…。


人生の冒険のパートナーとしての信頼は…あれ? あるかも。

ただ、今回みたいに黙って皇居に連れて行かれるのは嫌だな。

それは事前に言われたらアルさんが懸念していたように同行を断ってただろうけど…。


しかしアレックスは日本に1年しかいない人だ。

アルさんとの結婚を考えるんだったら、私が英語教師の免許を取るために今大学で勉強していることからして、志望の前提条件が崩れてしまう。


ここからか…。


私としてはどうしても英語教師になりたいっていうこだわりは、ないのよね。

中高と一貫して英語の成績が良かったから、これを将来的に武器に出来ないかなぁと考えたのが、シャア大学や学科を選ぶきっかけだったからな。



アルさんは観光業を仕事にしている。

そして伯爵としての領地経営を将来はしていくことになる人だ。

その人生に寄り添いながら、私のしたいこと、出来ることを模索するのかぁ…。


観光か…。

今までは考えてこなかった分野だ。


通訳の仕事をしながら自分の考えを話してみるのは面白かった。

通訳ねぇ。

あまり専門分野に特化しない、観光にプラスアルファを付け足したような通訳ならできるかもしれない。

イギリスに住むのなら、日本人向けの観光案内とかには重宝されるかも。


なるほどね。

今までして来た勉強をベースにして、方向性を少し変えてみるのか。


仕事や勉強はそれでいいとしても、問題は貴族向けの対応よね。

こればかりは日本で勉強できるとも思えないな。

ここはアルさんに聞くしかないのか…。


そして私が一生をイギリスで過ごす覚悟ができるかよね。

こればっかりはあっちに行ってみないとわからない。

東京から大賀に帰ってきただけでやれやれと思ったもんなー。

正直、ここが一番ネックかも。


全体として見て、その方向で善処してみますとしか言えないな。


…こういうプロポーズへの返事ってありなのかしら?




◇◇◇




 ノッコが考えてみたことをアレックスに伝えると、彼は涙目になって喜んだ。


「すごいよノッコ、ここまで考えてくれるなんて思ってなかった。ハァ~、アリガト。ノッコだけに負担を強いることはしないよ。僕も一緒に考えていくし、もし結婚してイギリスに住むようになっても日本と頻繁に行き来できる方法を考えるからっ!」


そう言いながら抱きしめられたけど…ちょっと恥ずかしい。


外国風のハグは日本人としてはハードルが高いよ。

この場が自宅だっていうことが違和感なのか…私が男の人と付き合うのが初めてだっていうことが関係しているのか…たぶん両方だと思うけど。


アルさんとしては、ノッコが考えたようなことはもう検討済みだったようだ。


春にノッコが2年生になる時に観光通訳系の学科を選択して勉強を進めておいて、夏に1度イギリスに行って、貴族が行く大学のコースに編入が出来るかトライしてみる。

そこで編入が出来れば、ノッコが秋の新学期からイギリスに先に行く。

そしてアルさんが秋の終わりに向こうに帰ってから、結婚準備をしていくのはどうかと言われた。


…考えるの(はや)っ。


「お互いの婚約は今日整ったわけだけど、出来たら夏の始めに対外的な婚約式をしておきたいね。お父さんやお母さんと日にちの調整をしたいな。イギリスに来てもらって親族の婚約式が出来たらなと思ってるんだ。」


「ちょっと待って待って。…その婚約式って、まさかエミリーさんの写真にあったようなやつなの?」


「いいや、あれは公爵家のだから大袈裟なんだよ。うちのはもっとこじんまりしてるよ。」


「あっそ、なら安心した。」



夕食の時に、アレックスがうちの両親に私達が婚約することを話した。


お母さんには事前に相談していたのでお父さんの方にも少しは話が行っていたらしい。

お母さんは「ふーん、決めたのねっ。おめでとー!」と喜んでくれて、お父さんは「ノッコが選んだ人ならお父さんは寂しいけど応援するよ。」と言ってくれた。


一番驚いていたのは何も聞いていなかった伸也だ。


「どういうことだよっ。バイト先の上司って言ってたくせに、女って信じらんないな。」


とあきれ返っていた。



しかしアルさんが婚約式にイギリスに来て欲しいと言ったことで、一番喜んだのは伸也だ。


「おー、外国旅行。初外国が親戚の家って、カッけー。友達に自慢できるな。」


…あんたねぇ。


お父さんやお母さんの兄弟夫婦も一緒に来てくださいと言われて、お父さんは固まっていた。


外国の人と親戚付合いって、ちょっと大変そうだ。

「英会話が…。」というお父さんのぼやきもわかる。


両親の年代の人は英語が苦手な人が多いからね。

お父さんの兄弟は3人だが、その中で英語が出来そうな人は、放射線技師をしている叔母さんぐらいかな。


お母さんの妹の旦那さんは自動車の設計技術などのエンジニアをしていて、実験などで海外出張もあるそうだから何とかなるにしても、妹の方の名古屋の叔母ちゃんは、児童支援センターで働いてる保母さんだから、たぶん英語は苦手だろうな。


うちのお母さんは私達の双子の教育をしている時に、最低限の英語は一緒に勉強したみたいで苦手感はないけれど、長い文章は喋れない感じだ。


そうか、私の結婚が親や親戚に及ぼす影響については考えてなかったね…。

その方向に走り出してから見え始めることもあるわけで・・・。

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