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・レベルアップに困る

今回長めです。

・レベルアップに困る


 恒例のレベルアップだけど困った。何が困ったって取得先に困った。


 テレビ画面には複数のパネルが並び、画面の端には俺が毎日、規則正しくドーピングしたことで貯まった、大量の成長点が示されている。


 これがゲームのキャラなら、レベルが上がれば勝手にステータスが上がる。


 魔法とか何かスキルを覚える。プレイヤーが成長の形を選べることもあるが。でもそれはあくまでゲームの話。現実ではそこまで自動的には、行ってくれないのである。


 俺という現実に置き換えると、魔法はミトラスから教えてもらうことになる。


 他は自分で欲しいと思うパネルを、取得するのであるが、ここが問題だ。


 俺自身が別にレベルを上げたくないのである。


「うーん。どうすっかな。まいったなー」

「まだ決まらないの」


 俺の隣でテーブルに突っ伏しているのは、魔王の息子で元公務員で、たまにペットな相棒のミトラスだ。


 ファンタジックな緑髪に猫耳、尻尾は無い。欠伸をしては、こてっと頭の向きを変える。


「体とフリーの成長点は、貯めてるから良いとしてもなあ。持ち腐らせるのも勿体無、いや勿体無いこともない。なあミトラス、どうしてもレベル上がらなきゃ駄目?」


「駄目ってことはないけど、やまだかつてそんなこと、言われたことないから、僕も戸惑うよ」


 そりゃそうだよなあ。特に苦労もせず、定期的に強くなれるんだから、何も気にせず強くなったら良いんだよな。


 でもなあ。


「もう十分健康だしさあ。うちのクラスの不良にだって負けないし。俺自身の成長に、魅力とか意味とか価値みたいなものを、もう殆ど見出せないんだよね。あるに越したことは、ないんだけどさ」


「絶望でも諦観でもない、只々無気力から来る言葉が、こんなに悲しいとは知りたくなかったなあ」


「ごめんよ。けど俺も別にやりたいこととか無いしさあ」


 そう、特段の目標がある訳でなく、不良や悪霊といった、身近な敵も倒せるようになった今、俺は自分のレベルを上げることが、正直だるくなっていた。


「何時かやりたいことが出来たときのために、今は上げておこ、ね」


「そんな嫌がる子どもを学習塾に行かせる母親みたいに言わないでくれ」


 しかしミトラスが言うのも分かる。


 この前は『魔力消費軽減』『魔力濃縮』を取ったが、それは九月と十月のごたごたで、置いておいた分に過ぎない。


 それに対して、特技タブの成長点の余り様が酷い。成長点が錠剤分だけで、一万五千と丸々残ってしまっているのだ。


 前に『ペン回し』と『指パッチン』を取ったけど、あのときはミトラスに、顔を真っ赤にして怒られた。


 これでは『何か特技を覚えろよ』と言われても、已む無しである。


「君ってさ、こうなりたいとか、人生の目標とか、そういうのが無いよね」


「というと」


 ミトラスはテーブルに突っ伏していた体を起こすと、こちらに向き合った。拗ねたように眉を尖らせている。


「サチウスの友だちに例えるとね、南さんみたいに、取りあえず自分の人生を、トントンと好転させていこう、有利にして行こうっていう、生き物として当たり前の野心がないでしょ」


 頷く。あいつは何気に要領が良い。友だちも多く、いつの間にか先輩からのあだ名が『さけびん』から『みなみん』に変わっていたし。


 コミュニケーションに気を遣ったり、ブラックな職場を社会的にぶちまけたり、自分のためだなって感じの生き方をしてる。


 たまに『ズボンをズボンって言うのがもう女子高生として在り得ない』って意味不明なこと言うけど。


「東さんみたいに自分の家、暮らし、生き方を守るべく、目標を定めて将来に備えようっていう、義務感や使命感みたいなものもないし」


 海さんはもう受験の準備始めちゃっててなあ、最近中々会えない。しっかりしてるけど、あの人って現実だけ見て、人生が終わりそうな怖さがあるんだよな。


「北さんみたいにとにかく自分が好きな、全ての事柄に対して、可能な限り知識や技術を修めようっていう、冒険心や貪欲さだってないし」


 あの人はどこまで行くんだろう。好きなことを求めて、好きなもので人生を埋め尽くそうって感じだ。


「ちなみに西ちゃんは」


「日はこの世界に根を下ろす決心をしたのか、最近は焚書堂で恭介と、ずっといちゃいちゃしてる」


 最初は苦手そうにしてたのにね、とミトラスは遠い目をして呟いた。そして我に帰ると、わざとらしく咳払いをして話を戻した。


「とにかく、君は自分の能力が上がることに、もう少し執心してもいいと思う」


「俺は最終的に異世界で、お前たちと平和裡に暮らして、生きて行きたいってくらいしか、望みがないよ」


「でもほら、そのうち他の町の町長やったり、兵役に取られて隊長やらされたり、するかもしれないし」


 そんな大河系主人公みたいな群像統率劇やりたいとは思わないし、リーダー能力研修みたいなのに参加して、引率的なスキルを学びたくも無い。


「仮にそんなことになったら、お前絶対俺のこと手放さないだろ」


「う、じ、じゃあ僕のためだと思って!」


 図星を突かれたのか、ミトラスは尖らせていた口を、元に戻した。そして悲しいのはこの言葉である。


 俺の価値観や優先順位が、ミトラス>俺ということを、理解した上で出た言葉。


 俺のためにやらせたいけど、俺が自分に対し甚だポジティブさを欠いているせいで、何とか動機付けをして、レベルを上げさせようという、半ば命令に近いお願いである。


 自分のためと言っているけど、その実は俺のためなのだ。それは分かるので、俺としてはもうやる気はないけど、やらざるを得ない。


「あ、コレ! コレなんかいいんじゃないかな!」


「どれどれ……『外見維持』、これ成長とは逆の方向だろ」

「アンチエイジングという特技なんだよきっと」


『外見維持』:筋力や特技タブで、身体を強化するパネルを取得した際の、肉体の外見的な変化を抑えます。


「ってことはやはり、体を強化していくと、その内ボディビルダーみたいになってしまう、ということだな」


「それはそうだよ君の筋肉だもん」

「益々レベルを上げたく無くなってくるなあ」


 俺は男じゃないからゴリラ願望なんて持ってないよ。


「でもこれさえあれば、いくら鍛えても平気なんだよ」

「あー、そう、だなあ」


 仮にこれを取得した場合、どれだけゴリラになっても、見た目は俺のままだ。


 加えてミトラスのおかげで、来年二十歳になっても、体は十五のままだぜ。


 虚しい。そこまで外見が良くないし、体もいっそピークまでは、加齢を許可しても良い気がしてきた。十五歳であることに、そこまで魅力のない俺。


 はぁーあ。


「保留。取りあえず来月末に遺伝子取ったら、また地道に身体強化で。体がムキムキになって来たら、一旦止めてこれを取る」


「他にもこの臓器保護と、再配置が良いと思うんだよね。でなきゃ再生不能部位再生」


 健康になりそうだけど、地味に怖いんだよな。麻酔有り意識無しでないと、絶対選べない。そんな状態だと普通に選べないけど。


「とりあえず知能取るか。何気に内分泌物が足りてないって出るからな」


「僕も人間の体が、魔法を使うために魔力以外のものが必要とは、知らなかったなあ」


「脳が命令を出す以上、魔法を使う器官にも要るんだろうな。それがどこかは不明なままだけど」


 という訳で取得するのは『松果体増強』と『シナプス増量』である。どっちも成長点を千五百点使用。


『松果体強化』:ホルモンの分泌量が増加します。超能力が強化されます。


『シナプス増量』:伝達物質の増量と、伝達速度が向上します。全身に影響があります。


 片方は眉唾物の一文が付いており、もう片方は効果が齎すものを、向上とか強化と言わずにいる。


「どう思う」


「人体って不思議だね。どうして良いとこ取りが、出来ないんだろう」


 本当にな。最後に魔法タブ。と言ってもここは少し前に、魔力云々を取得したばかりだから特に何もって……。


「あれ、超能力取れてる」

「本当だ。何時取ったんだろう。この前は無かったよね」


「必要な成長点が魔法と違って重たくて、ずっと放置してたからな」


 思い当たる節としては、たった今取得した『松果体強化』だけど、それでここのパネルが取れる理由には、ならないよな。


「もしかして本当は、前から技能の上では、使える状態だったんじゃないかな。体が使える状態に、なってなかっただけで」


 ああ、機体の武器欄に書いてある技能レベルが、一定に達してないから、その武器を使えないみたいな。


 となると何時からその状態に、もしかしてオカルト部部長と握手したときに、使えるようになっていたのかも。


 だとすると俺が一方的に、魔法を渡しただけじゃなかったんだな。ギブアンドテイクになっていた訳だ。


「ということは本来なら、超能力を取得したら、松果体のパネルも取れてた訳か」


「いや、その場合はまた、ホルモン不足とか何とか、言われるだけじゃないかな」


「それもそうか。何にせよ儲けたな」


『超能力』:魔法とは似て非なる力を発揮できるようになります。


「説明素っ気無いな」

「種類が多いからね」


 そこ説明して貰わないと俺も困るんだけど。


「でも良かった。今回はレベルを上げられたね。一応今後の方針も立ったし」


 ミトラスは喜んでるけど、俺のレベルアップって概ね健康促進の域を出ないんだよな。


 魔法分野だけそれらしいけど、やってることを数値に直すと、増えてるのは概ね最大HPとMP。


 体もちょっとは強くなったけど、超人的な身体能力もない。アメコミ体形にはなりたくないしな。


「正直何処まで鍛えればいいんだろう」

「それは勿論限界までだよ!」

「限界までって俺の限界どこだよ」


 確かにあって困ることはないだろう。人間の悪意に対処できるのは、相手を超える暴力だけだ。人間のいる世界では、どれだけ有っても足りない。


「全部のパネルを取得するまでかな」

「それ人間辞めてるよな」


 肉体強化のタブには、動物とアンデッドのパネルがある。


 人間辞任用だと俺は思っているが、ミトラス的には人間が、生きたままなろうと思えば、成れてしまうことから、人間が変異したものも人間扱いらしい。


「来年はその辺も手を付けようね!」

「健康診断に引っかかるから無理だって」


 俺は断ったが、彼は完全にやる気だった。アンデッドと獣人か。特に将来の目標とかはないけれど、高校卒業と同時に、人間卒業も視野に入れないと、いけないかも知れない。

新章開始です。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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