・そんなことはない
※デモンズクロウのカテゴリはウォーハンマーです。
・そんなことはない
「私の人生束縛しないとか言っておいて何よ。こんなに沢山出来ないわよ。肝試しのときは思いっきりいっちゃんのこと頼んでたし」
「ごめん。じゃあこれは無しで。でもな、半ば不可抗力でこの時代に来た最初と違って、今は自分の意思で来てるんだから、流石に責任が発生すると思うんだよ俺は」
「そういうところできっちりしないで貰えるかしら」
「むしのいいこと言うなあ」
「女の友情ってそういうものでしょ」
「まあまあ落ち着いて」
場所は旧部室。昨日に引き続き俺たちは、作戦会議に追われていた。
ただ南があんまり優秀だったので、アレもコレも頼もうとしたら、上記のようなことを言われてしまったのだ。反省。
「とりあえず事務的なことを、みなみんに丸投げする案は白紙に戻そう。今は現状を整理して、これからやるべきことを、把握するのが大切だよ」
先輩は『全部お願い!』と書かれたノートの頁を、破り捨てるなりそう言った。
今朝の朝礼で学校側に早速動きがあったのだ。南は貧血を起こして聞いてなかったようだが、要約するとこうだ。
『非常勤の教師が大量にうちにやってきた』
こいつらにうちの部活の顧問を、やらせる気なのは明白だ。活動日も非常勤の出勤日に、合わせるつもりだろう。
というか連盟書に名前を貰うことさえ、曜日が限定されてしまう。何故ならうちの学校では、非常勤は出勤してない日は、教師でも何でもないという扱いなのだ。常勤だったらそうでもないんだけどね。
こいつらの仕事中の時間でなければ、書類にサインは貰えない。それ以外の時間で貰っても、意味がないという仕組み。派遣や非常勤の権限の無さ、扱いの弱さがを逆手に取られた形だ。
「取り敢えず、他の部の皆は申請を書出しちゃったのが痛いわね」
「皆律儀でまだまだ心にモラルがあるから、ごめんね」
「部員を育てたことを謝る部長がいますか。止して下さい」
所属していた部は一部を除き、活動ができないでいる。こういう間にストレスが溜って、問題を起こせば、相手に付け入る隙を与えてしまう。お通夜のような自粛ムードが広がりつつある。
「あの非常識で前時代的な一文が追加された、連盟書も添えて送ったから、今日の終わりか明日辺りには、教育委員会から連絡があると思うんだけどなあ」
「相手に動きが無いと、俺たちも身動きとれないのが辛いっすね」
「要するに暇よね」
「悲しいことに上まで隠蔽とか黙殺に走られると、私ら手の打ち用が無いんだよね」
「学生も学校って組織の構成員であることに、変わりないっすからね」
そんなことを言いつつ愚痴を零して、することも無いから、部長が持って来てたTRPGでもするかということになった。GMは南。
「みなみんえこ贔屓して!」
「具体的には?」
先輩が目をキラキラさせながら、ルールブックの頁を開く。確か三つ選ぶんだよな。
「経歴表の『無駄な知識』と『無駄な特技』と『異種族のいる街で育った』で初期習得言語を三つ増やして欲しい。それと両親が異種族ということで親からそれぞれの種族の言葉も教えてもらったということにして更にもう一つ。合計で初期習得言語が五種類!」
「そんなに言葉覚えても、人間の言語はこのゲームじゃ意味ないっすよ。それで、いったい何語が欲しいんですか」
「シャドウ語とドワーフ語と交易共通語と妖魔語と、後は片方しかない言葉のどれか」
「本当に意味が無いじゃないかよ」
「そんなのならハーピー語とかを含む、全幻獣語とか言ってもばちは当たらないわよ……」
そんなこんなでデーモンルーラー竜人グラップラーと、セージバード妖精使いのナイトメアで、サンプルシナリオを回したのであった。
「なんでそんなクラスとったの」
「牙と尻尾あるのに爪がないのはおかしいだろう」
「あるある」
「ある、のかしら……」
――そして翌々日。
昨日はバイトで出られなかったものの、早いもので学校からまた通達があったようだ。旧部室には全員が集合しており、二度目の対策会議が行われている。
「え~この度~また~連盟書の~改変が~行われた訳ですが~」
なぜかねっとりした口調で喋る先輩。俺たちにも見えるよう、学校から配布された、初めからやや黄ばんでいる安っぽいプリントを掲げている。
そこには『この会は現在部として申請中であり、審査の結果が出るまでは、連盟等を含めた一切の活動を禁ずる』が消えて、代わりに『顧問予定の教員の署名を記載すること』とある。
「顧問予定って、部活になったら駄目なんじゃ」
「それがね、クラブ活動主任の先生に聞いたら、会のままでも顧問は付けられるって」
「何だそりゃ」
意味がさっぱり分からん。なんでそんなことになっているんだ。
「それって他を部活昇格して、うちの部を潰すって方針が、折れたってことでいいのか」
「そうみたい。でも雇い入れた先生を、何とか使わないといけないからって」
「計画が頓挫したから仕入れちゃった分を、どうにか掃かないといけないってことか」
俺が尋ねると南が答えた。そんなイベントが中止になったから、増員したスタッフを他所に押し付けるような真似をするなよ。
「部になるか会のままでいるかは生徒に任せるって」
「この前のお便りが利いたのかな」
「そう! その通り!」
部室の正面、黒板の前で何か言ってた先輩が、こちらを指差す。周りの視線が集まる。止めろそれ本当に気分悪くなるから。
「えー、今朝我が家の郵便受けに入っていた、教育委員会からの書物を読み上げます!」
拝啓と挨拶を抜きにすると、だいたいこんなことが書かれていた。
『お便りから事情を把握できました。貴部に課された条件があるにも関わらず、それと平行して部の発足を各会に促すという行為は同一の担当者が担当しているという点を鑑みて貴部の部活への妨害行為に相当するということを認めることは自然な判断であると言って差し支えるものではないと思われます。元より他の会が部として申請し、心ならずも部の設立が受理されなかった生徒同士が一つの部として集まり、それぞれの努力の場を学び屋の中に見出し確保しようという動きは決して批難されるべきものではありません。添付された資料からも正しく自助努力、独歩独立の精神に基づく取り組みであることが窺えました。そもそも、現在の部に所属している全会の一致を得られなければ部の申請さえ認められないという条件に対して正当と見なせる根拠を米神高等学校側から得られなかったという現状からこの度の件は学校側の不当な圧力と言わざるを得ません。よって当委員会からは貴校へ部活動そのものの管理体制への改善を勧告しました』
長い。
これには一同から歓声が上がる。端的に言えば、俺たちは何もサボってた訳でも、遊んでた訳でもないことを示して、お上に泣きついた結果、うちの学校に『駄目でしょ』とお下知を出したということである。
斯くして、俺たちの部活動申請は事無きを得たし、締め切りも撤廃された。連盟書を集めないと愛同研は存続できないが、部活申請した所を部に昇格させて、連盟書を作成出来なくなるという、分断工作も退けた。
これでまた元の部活を送れると、皆安堵して本日の集会を終えた。偉い人から説教を聞かされたであろう学校も、しばらくは大人しくなるだろう。平和は守られたのだ。
「それじゃあまた部の申請行ってくるから、皆名前書いてー!」
『おー!』
先輩が出した愛研同総合部の設立申請書に、全員が署名していく。その数なんと三十九名。多いな。こんなにいたのか、ていうかうちの学校では、部の設立に最低五人必要なことを考えると、どこも一足りなかったんだな。
「よしよし全員書いたな。後はこれをコピー取って提出して。うん、皆お疲れ様! 今日は本当にありがとう! 迷惑かけてごめんね、じゃ解散!」
先輩がそう言うと皆晴れやかな笑みを浮かべて、空き教室を後にした。
多少ごたついたが無事に済んで何よりだ。考えてみれば非常勤の先生だって、うちとは関係なかったのかも知れない。
何はともあれ、今回は楽に事態が解決してよかったな!
注記を入れ忘れてました。
誤字脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




