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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
稟議にかけろ!編
71/518

・レベルアップだぞ

今回長めです。

・レベルアップだぞ


 他所より遅れた始業式を終えた日の晩。要するに今日で今なんだけど、俺とミトラスはテーブルを囲んで仲良くテレビを見ていた。画面には見慣れた俺のステータス画面。


 白くていけない錠剤の原材料が変わったけど、効果はそのままのようで、結構な量の成長点が溜まっていた。今日も使い道に悩む。


 前回の肉体強化に成長点1,500を注ぎ込み残り3,500。脳みその強化にフリーの成長点を2,000注ぎ込んで残りは3,000。合わせて6,500。


 これが前々回の分。そして人間サプリが動物サプリに切り替わったのが前月の途中からで、今日までに入ったのが1,700。パンドラから貰った髪留めのおかげで、各分野にも同じ量が入る。


 つまり肉体とフリーの成長点の合計が9,900。一日一点の基礎点が四十日で40。加えて各分野の成長点に、これまで取得したパッシブな要素で、一日十点は加わるようになっている。肉体とフリー枠で20はある。これがまた四十日で800である。合わせて840の合計10,740。


 使った分が戻っただけだな。


「とはいえこの人間サプリ改め動物サプリと合わせて、一日111の両方合わせて222、だいたい三ヶ月溜めれば目標に届くな」


 今年の自分へのクリスマスプレゼントは『きれいな遺伝子』に決まりだな。まるで妊娠するみたいな響きだ。避妊はしてるけど。


「それはそうと、いい加減少しは知能を上げようよ」

「えー」


 ミトラスが嫌なことを言う。


 俺の成長はこの謎の改造を受けたテレビを通して行われる訳だが、成長する分野はチャンネルというより、ブラウザのタブのような形で、複数の項目が設けられている。


 すなわち『肉体』『知能』『魔法』『特技』である。これらの項目は、日頃から対応する訓練をした場合に成長点が入り、中にあるパネルを取得して成長することができる。


 俺の場合は強い魔物たちから目一杯恩恵を受けて、ズルと言っても過言ではないレベリングを、日々行っている訳だが、知能だけは何となく上げたくないのだ。


「この前どかんと大きいの取ったからいいじゃないか」


「今回の分も取れるんだから取りましょう。特技でお茶を濁すのも無しだよ」


「いや、特技は別にいいだろ。役に立ってるんだから」


 特技枠は魔法枠にない頭か体を使った技能である。成長させた肉体や、知能の使い道と言い換えてもいい。


 俺の投石やら水泳の技術は、ここで取得したものだ。学生生活で役立つものも多いので、取っておいて損は無い。


「ペン回しや指パッチンなんて何に役立つんですか!」

「う!」


『ペン回し』:指の間にペンを搦めて回す特技です。取得すると指の体力の限界まで回せるようになります。この特技で上昇する肉体的能力はありません。


『指パッチン』:親指に人差し指から薬指までの指をかけて、親指の付け根に当てて音を鳴らす特技です。この特技で上昇する技能はありません。


『口笛』:自在に口笛を吹けるようになる特技です。この特技を取得した際に太っていると、口腔内が口笛の妨げにならないように痩せます。


「持て余してるじゃないですか!」

「うう!」


 ミトラスの非難に何も言い返せない。我ながらしょうもないことをしているという自覚がある。


「だって10とか20とか凄い少ない点数で取れるんだもの。前々からやってみたかったし、その為に時間を割いて練習するなんてアホらしいし」


「こんなもの取ること自体がアホらしいんだよ!」

「ううう!」


 ミトラスが顔を真っ赤にして怒っている。くそう何も言い返せねえ!


「う〜」


 やばい指先でテーブルをトントンし始めた。相当怒っている。こんなにカッカしてるこいつを見るのは初めてだ。世の中しょうもないことほどやられると、頭に来るものだがそんなにか。


「君も人間なんだからさ、種族的な持ち味を伸ばそうよ」

「だから体は強くしてるじゃん」


「そういうことじゃないしディーみたいな体になったら嫌だって言ってるの!」


 ムキになってミトラスは語調を強めている。冷静になってから自分の失言に気付き、ばつが悪そうにしているが、それは俺も同じだった。順調に体が強くなってるけど、筋肉ムキムキで腹筋割れるのは流石に嫌だ。


「分かったよ。これからは肉体強化をしばらく控える。でもあんまり賢くなりたくないんだけどなあ」


「どうして?」

「性格悪くなりそうじゃん」


 これは決して俺より賢い人を悪く言うつもりじゃない。俺より馬鹿でも優秀でも性格が悪いのはいるからな。でもなあ。なんかなあ。


「それになんていうか、頭って良くなっても、得した感じが全くしないんだよな」


「性格に関しては、今のサチウスの頭が多少よくなった程度では、変わり様がないけど、得ってなるとなあ。君って本当に知識欲とか向上心ってないよね」


「あってたまるかそんなもの気持ち悪い」

「そこまでいう」


「だいたいそういうのが強い奴って自分のために他人を巻き込むんだ。そんなの先輩だけで十分だよ」


 あれだって先輩を気に入ってるのと、趣味がそれなりに同じだから許してるんであって、南が何か資格取りたいから、一緒に勉強してくれとか言い出したら、ヤダって即答するよ。


「そんなこと言わずにさあ、もうちょっとガツガツしよ? ね? お願いだから」


「夜のほうはガツガツしてるだろ」

「それはそのままでいいの。いいから賢くなろ? ね?」


 こいつもちょっと前までは初心だったのに小慣れてきたからかスルーできるようになりやんの。でもそうか、そこはそのままでいいのか。


「しょうがないなあ。ちょっとだけだぞ」

「やった! サチウスのそういうとこ好きなんだ!」


 調子いいこと言って。まあいいや。今までなるべく見ないようにしてきた知能タブのパネルを見る。


「相変わらず項目名がそそらんな。筋肉はどこが強くなるってすぐ分かったけど、大脳と大脳皮質ってどう違うんだよ。ていうか脳みそだって内臓なんだから肉体の項目じゃないのか」


「最初は僕もそう思ったんだけど、脳と脊髄周りって肉体への指揮系統だからか、妙な独立の仕方をしていてね。正直僕もこの分類が正しいのか不安」


 そこはせめて機械でも魔法でも正しい分類がされたと言ってくれ。お前が自分の判断と手仕事で分けたとか、知りたくなかったぞ。


「聞かなきゃ良かった。ともあれ脳の何処が何を司ってるのかは後で調べるとして、じゃあこの小脳強化でいいか」


 小さいって書いてあるし、影響もきっと小さいだろう。そうであってくれ。取得したら脳が肥大化して頭の形が変わったりしませんように。


『このパネルを取得すると現状ではホルモンの不足に陥る危険性があります。取得しますか』


 拒否!


「おいなんだ今すっごい怖い警告文出たぞ!」

「いやあ、人体って不思議だなあ」

「てめえこの野郎」


 首を傾げるミトラスの胸ぐらを掴む。これも久しぶりだが全然嬉しくない。


「もしかしたらこれまでに肉体を強化してきたことで君の分泌できるホルモンの総量が、かなりカツカツになってたのかも」


「どういうことだよ」


「要するに体の制御で、かなり手一杯の状態になっていた可能性があるってことだよ」


「おつむが体に振り回されかかってると、こういうことか」

「そういうこと」


 何その肉体の暴走が始まりそうな状態。これ地味に危なかったんじゃないか。


「えっと、だったらとりあえず、当面はホルモンの量が増えるように、脳みそを強化すればいいのかな」


「それがいいと思うよ」


 なんということだ。何も知らずに放置して、体を鍛え続けていたら頭の欠陥、もとい血管が切れたり力の加減が効かなくなったりしていたのか。


「でもホルモンの分泌って生活習慣で変わるものだろ? だったら今の成長点優先の暮らしを、改めないといけないんじゃないか」


「いや、君の体は現在かなり丈夫になってるから、怠けようがストレスに晒されようが、ほぼ平常通りの分泌量になってるはず。だからこの場合脳の器官を強化するのが正解のはず」


「はず多くない?」

「僕は医者じゃないし人間でもないからね」


 それはそうだ。しかし俺に比べてやたらと向上心があって、俺をレベルアップさせたがるミトラスの言葉だ。ここは一つ信じてやって見よう。脳の異常とか怖いし。


「結局どれを取ればいいんだ」


「下垂体か視床下部っていうので良かったはず。ネットではそう出てた」


「お前もすっかりパソコン使えるようになっちゃってなあ」


 今じゃ戦争もののゲームを遊んだり資料を漁ったりするようになってしまった。それはさておき下垂体と視床下部ね。


「高いな……一つ1,500って両方取ったら点数尽きるぞ」


 でも警告文は出ない。念のための他のパネルではさっきのホルモン不足が出ることを確認する。これらのパネルで出ないってことは当たりっぽいが、ええい取得!


『下垂体強化』:対応するホルモンの分泌量が増加します。


『視床下部強化』:対応するホルモンの分泌量が増加します。


 対応するホルモンが何かは教えてくれないんだな。言われても分からない可能性があるからいいか。


「なんか今回強化というより治療みたいな感じだったな」


「まあ、鍛錬には小まめな回復が必要だからね、考えてみれば肉体の強化をしても、体を休ませたりはしてなかったし、重大な見落としをしてたのかもね」


 毎日学校行ったりバイトしたりだもんな。俺の太い足だって、むくんでもっと太くなってたし、夏休みもなんだかんだお前と特訓したしな。


「なんか肩透かしのような命拾いのような、妙に疲れた」

「魔法の強化はまた今度にしようか」

「そうすっか」


 俺はテレビを消して今回のレベルアップを終えた。


 しかしホルモンが足りませんか。女性ホルモンが足りてないと言われても、已む無しな性格をしている自覚はあるけど、こうして面と向かって確認すると些か不安になるな。


「でもこれって結局どういうことなんだ?」

「頭の強化は細心の注意が必要だってことだね」


 当たり障りないけどまあそういうことだよな。しかしこれで俺のホルモン状況が、改善されるようになった訳だが、果たしてそれが何を意味するのか。有れば有ったで病気にも繋がるものだけど、無きゃ無いで困る。


 今更だけど、自分の体だって良く分かんないものだな。

新章開始となります。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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