表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/518

・打ち上げ

新章開始となります。

第五章


・打ち上げ


『お疲れ様でしたー!』


 ここは小田原市内のとあるファミレス。その中の隅っこを陣取って、俺たち六人はコミケ後の打ち上げをしていた。撤収したのは割りと遅めだったので、皆クタクタだ。


 六人というのは北先輩の先輩。即ち米神のOGのサークルの三人と先輩と俺。そして俺たちをからかいに来て、売り子の手伝いをさせられた南のことである。


「いやあ助かっちゃったよ、本当ごめんねーありがとー」

「いえいえどういたしまして」


 後輩トリオのリーダーたる先輩が、サークルの方々と何やら話しては、褒めちぎられている。彼女にはバイト代、俺たちも手伝いで交通費が支給されている。先輩に体よく使われたな。


「盛り上がってるなあ」

「話の内容にまったく付いていけないわ」


 四人掛けの席の隣にある二人掛けの席で俺と南は呟いた。オタ度の差がそのまま位置に現れた形である。ちなみに俺と青、南は赤のスタッフっぽいシャツにカーキ色のズボン。先輩ズはてんでばらばらの格好だけど不思議と見分けがつかない。何故だ。


「でさ、○○と××のはねえだろって話になってングフフフ!」

「ありますね!」


「え、斎ちゃん的にありなの?」

「いや、ないカプを考える層ってこと」

「うんうんそっちね。つっても私ら皆そんな感じだけど!」


 酒入ってないのにテンション高っけえな。でもこれたぶん、あんまり仲良い感じじゃないな。北先輩と彼女らで好みが違うから、そのうちこの関係は自然消滅するだろう。


「そういえばサチコは何買ったの。やっぱりエッチな本」

「俺としてはやっぱりの置き所が気になるけど、そうな。男性用と女性用を少しずつ」


 基本的に食品以外を買う生活をしてこなかった俺が、こつこつと稼いだバイト代から、生活費を差し引いた分を放出した。欲しいものを買えるということは、素晴らしいことを再確認した一日であった。


「皆荷物は配達にしちゃったから、誰が何買ったか分からないのが残念ね」


「俺としてはお前が帰って来た経緯のほうが、気になるんだけど」


「何よ、ここは私は何を買ったかっていうほうを、気にするとこじゃないの」


 いいよ別にそんな。お前がクロスとスラッシャーの二属性に、理解を示し始めたとかそんなの聞きたくないよ。


「ええとね、この時代には、ゼミのフィールドワークで来てるの」

「え、何。今度は大学を飛び級でもしたのか」


「それもあるけど、いくら私でもそれだけじゃ、半年でそこまでいけないわ」


 最早ギャグだな。こいつが頭いいとこなんて、テストの点数以外で見たことないぞ。とここで注文していたピザが届き、皆でドヤドヤしながら食う。そしてまた追加注文。


「帰った後急いで大学に編入して、単位互換が認められてるコミュニティカレッジと通信も掛け持ちして、それこそ毎日寝る間も惜しんで、単位を稼いだの。こんなことなら、もう半年早く始めておけば、あんな苦労しなくてすんだのよね」


 さらりと言って退ける南はこともなげだ。未来人の頭脳と身体能力がすごいのか、それとも単にこいつが超人なのか。そんなことよりもっと気になることがある。


「お前学費はどうやって捻出したんだ」


 大学一つだってお安いものではない。厳しさと引き換えにお安い他の二つだって、二つもやったらやっぱりお高くなる。ここに来て南ブルジョワ説まで飛び出すのか。


「前の会社を訴えたお金で払ったわ」

「聞くんじゃなかった」


 前の会社、というのは南は所属していた、時空アメリカとかいう、如何にも胡散臭いタイムパトロールの下請け会社のことだろう。派遣のていで国を跨ぎ、多重派遣をしていたのだが、やはり駄目だったか。


「ほら、私って最初派遣に登録してたでしょ。そこから時空アメリカ警察に派遣されて、そこから更に日本の支部に配属になったのよ。それが良くなかったのね」


 元から良くなかったと思うんだけどなあ。思い出してみるとこいつは、派遣元→時空アメリカ警察嘱託公安部→日本支部というふうに、漂流してきたんだったか。


「折りしも本国が日本の法律に梃入れして、海外からの派遣に対して、受け入れを厳しくしたせいで、業態が完全にアウトになってね」


 別の部署というか仕事の煽りを受けたのか。


「派遣元と支部を、日本とアメリカの法律でちゃんと訴えて、ついでに秘密っぽかった本部も明るみに出しちゃって、そしたら本部も違法になっちゃってえ。私騙されて違法な仕事に従事させられてましたってことで訴えてえ、お金が一杯になりましたー」


 わざわざ頭の悪い喋り方をしてるけど、相当面倒でえげつない事態が、未来で起こったようだ。


 非合法活動を国内で、秘密裏に承認されていても、それがバレると庇いようがなくなってしまうのは、最近あまり見ないスパイもののお約束だ。


 前の歴史だとトカゲの尻尾切りからの、ヴィラン・ネバーダイが流行りだったけど、現実の陰謀とか工作が発覚しちゃうのは、割りとよくある。そしてそういうのは世界史の教科書に載っちゃう。


「あれ、でもそれだとお前は、少なくとも騙されていたということにしても、前科一犯ということになるのでは」


 知らなかったとはいえ、犯罪行為に加担していた事実から、御用となってしまうはずである。


「ほら、そこはうち、アメリカだから。司法取引と保釈金があれば、人生幾らでも買い直せるし」


 うーん。この話は掘り下げないほうがいいな。俺の気分が悪くなる。とはいえこんなこと、一朝一夕では不可能だったはず。


 案外帰るまでの三ヶ月間、ずっとそういう準備を、進めていたのかも知れない。そう考えると南って、結構恐ろしい奴なのかも。


「離れ業ばっかりやってるなあ。そういやフィールドワークって言ってたけど、お前今本当は何年生で、何のテーマを扱ってるの」


「一応三年ってことになるのかなあ。テーマは見ての通り時間移動よ。本部を明るみに出す際に、タイムマシンのことも世の中に広めてね。誰の手垢も付いてないから、皆一斉に始めちゃって」


 おかしいな。広めるったって、ものの数ヶ月でそんなことが、急に知れ渡るものなのか。いきなり過ぎるような。


「またそんなの一体どうやって」


「ネットの拡散に加えて、タイムマシン作ってた人たちが、独立して声を上げ始めたの。当たり前だけど警察の装備は、警察が作ってる訳じゃないわ。他所が作ったものを購入してるだけ。それを独占してただけ」


「んで、スキャンダルからタイムマシンが世に出て、それを使った学問が起こったと」


 盛大にばら撒いたなあ。


「そういうことね。で、私のテーマは『歴史改変を人は認識できるか』」


「答え出てるじゃねえか。ずりいの」

「役得と言って頂戴」


 そう言って笑うと、南は手元にあった水を一口飲んだ。小さく息を吐く。自由になった。そんな感じがする。


「でもよお。法律のほうは大丈夫なのか」

「平気よ。ずっと未整備のままだもの」

「そういうことじゃねんだけど、まいいや」


 人から批難されて、後ろに手が回る前に、自分たちでルールを作ってしまおう。そういうのはこいつらの独壇場だ。心配するだけ無意味か。


「自分で言うのもなんだけど、まるでオカルトみたいよね」

「なるほど、盆が近いから帰って来た訳だ」


 失礼ね、と南が笑う。釣られて俺も笑っていた。平和だ。いつになく平和だ。あとは帰ってミトラスと話して風呂入って寝るだけ。珍しく何の憂いもない。


「サチコ、今、オカルトって言った」

「ええ、言いましたけど。怪談でもしますか」


 一つの単語に食いついてきた先輩に、機嫌よく返事をすると、彼女はにまあっと笑った。夏といえば定番だが、何もファミレスですることもあるまい。


「いや、実は今度の登校日にさ、考えてることがあるんだけど、いいかな」

「いいっすよ。何すか」


 そこで先輩が切り出したのは、他愛のないことだった。少なくとも、この場で俺と南が気分を害し、空気が悪くなるようなことではなかった。だから、俺たちは二つ返事で了解してしまったのだ。




 あとであんなことになってしまうなんて、このときはまだ、しるよしもなかったのだ。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ