・似た者の襲撃
・似た者の襲撃
※このお話は斎視点となります。
ちくしょー。未来を見に行きたかったなー。
でも私以外にリーダーやれるのが皆役割持ちじゃね。
こればっかりは我慢するしかない。
「先ずはサチコ。用意はいい?」
「地味な役目だよなあ」
「爺やによろしくね」
サチコは蓮乗寺さんの携帯電話を持って、みーちゃんくんの頭を撫でてから前に出た。私たちの時代に戻ったら、ウルカさんを呼んで、私たちの帰りを待つことになっている。
「先に休んでなよ」
「おう。そうするわ」
疲労が色濃い。服も何故か男の人のだし、明らかにこいつだけめっちゃ戦ってる。
「一応腕時計を通して話したりできるから、何かあったら連絡するよ」
「分かった。お前らも絶対に帰ってこいよな」
コンソールを操作して、照準をサチコに向けると。空中にチャージ中を示すメーターが現れる。視覚的に分かり易い。
「サチコ……」
「お前が助かったら、俺の卒業式に出ろよ。もう保護者って歳だろ」
「あんた頭ん中子どもだもんね」
「抜かせ、目の前でお前の手紙朗読してやるからな」
サチコとみなみんは、軽口を叩き合って笑った。どうやら関係は修復されたようだ。あくまで外見上の話かも知れないけど。
「先輩、頼む」
「うーし、じゃあ行くぞ、また会おう! サチコ!」
チャージが完了したので、照準をサチコに向けてスイッチオン。光が飛び出てそのまま直撃。数秒して体が透けて消失した。
「北さんこれ成功したの」
「ちょっと待ってね。サチコのタイムマシンがこれだから……えーっと」
「貸して。それはこうするの」
みなみんから手解きを受けて、台の端っこにまた画面が。これ幾つまで展開できるんだろうか。
「で、時計の横のスイッチを押せば、通話が可能よ」
「あーあーテステス。サチコ聞こえるー」
『おー聞こえる聞こえる。トランシーバーみたいだ』
画面には上から見ろした形でサチコの姿。ほーんこうなるんだなあ。面白いけど、作業を急がないと。
「オッケー。連絡が取れるのは分かったから、通話は入れっ放しにしておくね。何かあったら言ってよ」
『分かった』
これで一つ目『現代』はクリア。次が本命。
「みーちゃん」
「はい」
呼ばれて一歩進み出た異世界の魔王君は、少し緊張したように、頬を紅潮させていた。
「みーちゃん。あのときの私は、タイムマシンの情報をばら撒く前に、家の中を少しウロウロするわ。怖れや躊躇いがあったから。そこを狙って」
かわいいとこあるなあ。
「分かりました。安心して待っててください」
そう言うと、今度はマックス氏に向き直った。この中じゃ影が薄いけど、たぶん二番目にけったいな人だ。
「マックス君」
「はっはい!」
「たぶん異世界に行けば、この時計は使えないと思う。それとこの作戦は、彼女が安全になった未来を見つけて、戻って来るまで終わりません。だからそれまでの間、彼女のことを頼みます」
「はい!」
そうか。いつ終わるか分からないんだな。
でも待てよ。仮に平和になっても、この本部内ではずっと『今』のままだから、過去のみなみんが、また同じ暗い出世街道を歩もうとしても『当時』の人なんかいないし、再現はできないはず。
それどころか、平和になった未来には、その後のみなみんが生きていく。失敗ありきのアラサーみなみんとは、また別の存在だ。
そして我々が観測する以上、タイムマシン拡散後という時間は存在しなくなる。これ迄はみなみんだけなら、世界と一緒に消えてなくなり、ループに陥っていただろう。
「えーっとたぶんこれがこうだから」
でも異世界に行くと別存在扱いになって、世界が消えてもアラサーのみなみんが残る。加えて他の派生世界と違うのは、やらかし後の世界は、このアラサーが確かに生きてきた直系の時間なのだ。
私たちが改変された『現代』と同じく、影響を受けても消えない可能性が高い。
「こうしてそれがあーなって」
本来は歴史を変えると別ルートの発生と、元ルートの改変または消失という影響がある。
それなのに、うちらの時代は歴史が改変されたけど、別のルートが生えてないっぽいんだよね。これと同じ様に出来れば、未来も綺麗に一本の改変のみで済むし、私たちと過ごしたみなみんは残る。
でもその場合だって結局、アラサーのみなみんは消えちゃうと思うから。だから。
「む~~~ん」
「ほらいっちゃん。お願い」
「え、ああ、うん。じゃ行くよ。発射!」
思考を中断して照準を向けると、再びの光線にて魔王の姿が消える。やはり次元の彼方へ追いやる攻撃に弱いんだな。単に抵抗しなかっただけかも知れないけど。
「で、観測してーの、連絡入れて―のっと、もしもし」
『もしもし、ミトラスです』
「そっちはどうだい」
『前の南さんはいましたが、部屋を出たきり戻りません』
「大丈夫、時計を見て。一時間しないと帰ってこないわ」
想像するだけでかわいい。
きっと悩みに悩んだのだろう。
ていうか少しじゃない。
「今のうちにちゃちゃっとやってしまおう」
『はい……できました』
「そのまま姿を消して待機」
『了解』
思ったより順調だ。最後が詰まると分かってる以上、最初がスムーズなのに越したことはない。
「よし次、蓮乗寺さんと川匂さん」
『はい』
乗り気じゃない割に声ぴったりだな。
「送るのはこっちのみなみんがいた世界だからね。つっても特にすることないし、観光でもしたら」
「いや、じっとしてますよ」
「そうね。危ないのやだし」
「まあいいけど、じゃあ発射!」
ながら作業の三発目。蓮乗寺さんと川匂さんは、無事未来へと旅立ったようだ。スピーカーオン!
「もしもし」
『あ、聞こえてるわ。こっちは大丈夫みたい』
『私のいた頃とそんな変わらないですね』
映し出される画面を増やして見ると、平屋よりやや高いけど、二階建てではない、妙にプラスチックテイストな家々が映し出された。
ていうか高床式倉庫かこれ。
「それ何」
『家ですね。地盤が耐えられなくなってて、この時代はこういうのが流行ってるんですよ』
『山育ちがブルジョワになってそう』
ハイテクで対処療法止まりなのが、如何にも人類だなあ。もうちょうい観察したいけど、さっさと次に行かなくては。
コンソールの画面からは、歴史修正中を知らせる小さなアラームが鳴っている。順調に染め直しが始まっているらしい。これが終わると残るタイムラインは二本の予定。
これ他所から見たら、歴史改変中とか侵略中って出そう。
「みなみん、マックスさん」
「はい」
「行ってくるわ」
アラームが鳴り続ける中、次の二人に声をかける。
苦労したのか、こうして見るとみなみん本当に老けたな。
「ついでに若返って来たら」
「出来ればそうしたいわね」
『だったら後で僕がやってあげましょうか』
会話に割り込んできたみーちゃんが、そんなことを言う。できるんだ。じゃあずっと勉強とか創作し続けられるじゃん。いいなあ。
「是非お願いするわ」
「私も考えようかな」
『サチウスの友だちなら何人でもどうぞ』
娘の友達だからみたいなノリでみーちゃんが言う。笑っていたみなみんがこっちを見た。
頷いたのを見て、私も頷き返す
「それじゃあ行くわ」」
「ガチャに負けてもめげるんじゃないぞ」
「異世界に戻ります。しっかり掴ってて」
マックスさんが、手の平サイズの水晶玉を握って念じると、玉が徐々に光り始めた。タイムマシンと似た感じ。
「『飛べ』」
その言葉と共に光は激しくなり、二人を包み込むと、そのまま消え去った。今頃はきっと異世界だろうか。コンソールを弄っても、二人の反応はない。
「予定だと修正された世界を見つけたら、そっちに戻ってくる手筈なんだけど」
ちなみにその後こちらに帰還、サチコのいる『現代』にマックスさんを帰したら、みなみんには彼の記憶処理を行ってもらうことになっている。
彼は彼で歴史を繰り返してくれないと困るからね。
「ふう、これで全員を送り出した訳だけど」
あれだけいたのにもう私一人だけだ。気分は孤独な総司令。こういうときって敵の襲撃があったりして、送り出した皆の顔を思い浮かべるものだけど。
「暇になったな。サチコーそっちはー」
『今ウルカさんと合流して、蓮乗寺の家で待機中』
「みーちゃんは」
『同じく待機中です』
「川匂さんたちは」
『…………』
返事がない。あれ。
「おーい、二人ともー、大丈夫、どうかした」
『なにあれ……』
『私の世界のものじゃないっぽいけど』
二人の呟きに不穏な気配を感じ取り、私は『未来後期』の映像を大写しにした。二人が見ている先には、目新しい高層建築と、異様に開けた街並み。
そして空飛ぶ宝船。
宝船。それも真っ黒。
「なにあれ」
『こっちが知りたいわ』
『どうした、何かあったのか』
『サチコ殿、アレを!』
俄かに騒がしくなった画面には、全く同じ空飛ぶ宝船の姿が。UFOか? UFOなのか?
『こちらでも確認できました』
「え、どういうこと。何が起きてるの、アレ何なの」
困惑していると、蓮乗寺さんの画面が光った。宝船の舳先から謎の怪光線が放たれ、小さな建物が一つ吹き飛んだ。
『南がさっき言ってたな』
サチコの呟きに、私たち全員がはっと息を飲む。もしかしなくても、アレがそうなの。
「サチコ、アレってつまり、アレかい」
「ああ」
再びの怪光線が、路駐されていた玩具のような車を焼き尽くす。不細工な見た目だけど、ヤバさがすごい分り易い。
「未来からの侵略者って奴だぜ」
誤字脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




