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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
時間の自由編
485/518

・似た者の襲撃

・似た者の襲撃


 ※このお話は斎視点となります。


 ちくしょー。未来を見に行きたかったなー。

 でも私以外にリーダーやれるのが皆役割持ちじゃね。

 こればっかりは我慢するしかない。


「先ずはサチコ。用意はいい?」

「地味な役目だよなあ」

「爺やによろしくね」


 サチコは蓮乗寺さんの携帯電話を持って、みーちゃんくんの頭を撫でてから前に出た。私たちの時代に戻ったら、ウルカさんを呼んで、私たちの帰りを待つことになっている。


「先に休んでなよ」

「おう。そうするわ」


 疲労が色濃い。服も何故か男の人のだし、明らかにこいつだけめっちゃ戦ってる。


「一応腕時計を通して話したりできるから、何かあったら連絡するよ」

「分かった。お前らも絶対に帰ってこいよな」


 コンソールを操作して、照準をサチコに向けると。空中にチャージ中を示すメーターが現れる。視覚的に分かり易い。


「サチコ……」

「お前が助かったら、俺の卒業式に出ろよ。もう保護者って歳だろ」


「あんた頭ん中子どもだもんね」

「抜かせ、目の前でお前の手紙朗読してやるからな」


 サチコとみなみんは、軽口を叩き合って笑った。どうやら関係は修復されたようだ。あくまで外見上の話かも知れないけど。


「先輩、頼む」

「うーし、じゃあ行くぞ、また会おう! サチコ!」


 チャージが完了したので、照準をサチコに向けてスイッチオン。光が飛び出てそのまま直撃。数秒して体が透けて消失した。


「北さんこれ成功したの」

「ちょっと待ってね。サチコのタイムマシンがこれだから……えーっと」

「貸して。それはこうするの」


 みなみんから手解きを受けて、台の端っこにまた画面が。これ幾つまで展開できるんだろうか。


「で、時計の横のスイッチを押せば、通話が可能よ」

「あーあーテステス。サチコ聞こえるー」

『おー聞こえる聞こえる。トランシーバーみたいだ』


 画面には上から見ろした形でサチコの姿。ほーんこうなるんだなあ。面白いけど、作業を急がないと。


「オッケー。連絡が取れるのは分かったから、通話は入れっ放しにしておくね。何かあったら言ってよ」


『分かった』


 これで一つ目『現代』はクリア。次が本命。


「みーちゃん」

「はい」


 呼ばれて一歩進み出た異世界の魔王君は、少し緊張したように、頬を紅潮させていた。


「みーちゃん。あのときの私は、タイムマシンの情報をばら撒く前に、家の中を少しウロウロするわ。怖れや躊躇いがあったから。そこを狙って」


 かわいいとこあるなあ。


「分かりました。安心して待っててください」


 そう言うと、今度はマックス氏に向き直った。この中じゃ影が薄いけど、たぶん二番目にけったいな人だ。


「マックス君」

「はっはい!」


「たぶん異世界に行けば、この時計は使えないと思う。それとこの作戦は、彼女が安全になった未来を見つけて、戻って来るまで終わりません。だからそれまでの間、彼女のことを頼みます」


「はい!」


 そうか。いつ終わるか分からないんだな。


 でも待てよ。仮に平和になっても、この本部内ではずっと『今』のままだから、過去のみなみんが、また同じ暗い出世街道を歩もうとしても『当時』の人なんかいないし、再現はできないはず。


 それどころか、平和になった未来には、その後のみなみんが生きていく。失敗ありきのアラサーみなみんとは、また別の存在だ。

 

 そして我々が観測する以上、タイムマシン拡散後という時間は存在しなくなる。これ迄はみなみんだけなら、世界と一緒に消えてなくなり、ループに陥っていただろう。


「えーっとたぶんこれがこうだから」


 でも異世界に行くと別存在扱いになって、世界が消えてもアラサーのみなみんが残る。加えて他の派生世界と違うのは、やらかし後の世界は、このアラサーが確かに生きてきた直系の時間なのだ。


 私たちが改変された『現代』と同じく、影響を受けても消えない可能性が高い。


「こうしてそれがあーなって」


 本来は歴史を変えると別ルートの発生と、元ルートの改変または消失という影響がある。


 それなのに、うちらの時代は歴史が改変されたけど、別のルートが生えてないっぽいんだよね。これと同じ様に出来れば、未来も綺麗に一本の改変のみで済むし、私たちと過ごしたみなみんは残る。


 でもその場合だって結局、アラサーのみなみんは消えちゃうと思うから。だから。


「む~~~ん」

「ほらいっちゃん。お願い」

「え、ああ、うん。じゃ行くよ。発射!」


 思考を中断して照準を向けると、再びの光線にて魔王の姿が消える。やはり次元の彼方へ追いやる攻撃に弱いんだな。単に抵抗しなかっただけかも知れないけど。


「で、観測してーの、連絡入れて―のっと、もしもし」

『もしもし、ミトラスです』

「そっちはどうだい」


『前の南さんはいましたが、部屋を出たきり戻りません』

「大丈夫、時計を見て。一時間しないと帰ってこないわ」


 想像するだけでかわいい。

 きっと悩みに悩んだのだろう。

 ていうか少しじゃない。


「今のうちにちゃちゃっとやってしまおう」

『はい……できました』

「そのまま姿を消して待機」

『了解』


 思ったより順調だ。最後が詰まると分かってる以上、最初がスムーズなのに越したことはない。


「よし次、蓮乗寺さんと川匂さん」

『はい』


 乗り気じゃない割に声ぴったりだな。


「送るのはこっちのみなみんがいた世界だからね。つっても特にすることないし、観光でもしたら」


「いや、じっとしてますよ」

「そうね。危ないのやだし」

「まあいいけど、じゃあ発射!」


 ながら作業の三発目。蓮乗寺さんと川匂さんは、無事未来へと旅立ったようだ。スピーカーオン!


「もしもし」

『あ、聞こえてるわ。こっちは大丈夫みたい』

『私のいた頃とそんな変わらないですね』


 映し出される画面を増やして見ると、平屋よりやや高いけど、二階建てではない、妙にプラスチックテイストな家々が映し出された。


 ていうか高床式倉庫かこれ。


「それ何」

『家ですね。地盤が耐えられなくなってて、この時代はこういうのが流行ってるんですよ』

『山育ちがブルジョワになってそう』


 ハイテクで対処療法止まりなのが、如何にも人類だなあ。もうちょうい観察したいけど、さっさと次に行かなくては。


 コンソールの画面からは、歴史修正中を知らせる小さなアラームが鳴っている。順調に染め直しが始まっているらしい。これが終わると残るタイムラインは二本の予定。


 これ他所から見たら、歴史改変中とか侵略中って出そう。


「みなみん、マックスさん」

「はい」

「行ってくるわ」


 アラームが鳴り続ける中、次の二人に声をかける。

 苦労したのか、こうして見るとみなみん本当に老けたな。


「ついでに若返って来たら」

「出来ればそうしたいわね」

『だったら後で僕がやってあげましょうか』


 会話に割り込んできたみーちゃんが、そんなことを言う。できるんだ。じゃあずっと勉強とか創作し続けられるじゃん。いいなあ。


「是非お願いするわ」

「私も考えようかな」

『サチウスの友だちなら何人でもどうぞ』


 娘の友達だからみたいなノリでみーちゃんが言う。笑っていたみなみんがこっちを見た。


 頷いたのを見て、私も頷き返す


「それじゃあ行くわ」」

「ガチャに負けてもめげるんじゃないぞ」

「異世界に戻ります。しっかり掴ってて」


 マックスさんが、手の平サイズの水晶玉を握って念じると、玉が徐々に光り始めた。タイムマシンと似た感じ。


「『飛べ』」


 その言葉と共に光は激しくなり、二人を包み込むと、そのまま消え去った。今頃はきっと異世界だろうか。コンソールを弄っても、二人の反応はない。


「予定だと修正された世界を見つけたら、そっちに戻ってくる手筈なんだけど」


 ちなみにその後こちらに帰還、サチコのいる『現代』にマックスさんを帰したら、みなみんには彼の記憶処理を行ってもらうことになっている。


 彼は彼で歴史を繰り返してくれないと困るからね。


「ふう、これで全員を送り出した訳だけど」


 あれだけいたのにもう私一人だけだ。気分は孤独な総司令。こういうときって敵の襲撃があったりして、送り出した皆の顔を思い浮かべるものだけど。


「暇になったな。サチコーそっちはー」

『今ウルカさんと合流して、蓮乗寺の家で待機中』


「みーちゃんは」

『同じく待機中です』


「川匂さんたちは」

『…………』


 返事がない。あれ。


「おーい、二人ともー、大丈夫、どうかした」

『なにあれ……』

『私の世界のものじゃないっぽいけど』


 二人の呟きに不穏な気配を感じ取り、私は『未来後期』の映像を大写しにした。二人が見ている先には、目新しい高層建築と、異様に開けた街並み。


 そして空飛ぶ宝船。


 宝船。それも真っ黒。


「なにあれ」

『こっちが知りたいわ』

『どうした、何かあったのか』

『サチコ殿、アレを!』


 俄かに騒がしくなった画面には、全く同じ空飛ぶ宝船の姿が。UFOか? UFOなのか?


『こちらでも確認できました』

「え、どういうこと。何が起きてるの、アレ何なの」


 困惑していると、蓮乗寺さんの画面が光った。宝船の舳先から謎の怪光線が放たれ、小さな建物が一つ吹き飛んだ。


『南がさっき言ってたな』


 サチコの呟きに、私たち全員がはっと息を飲む。もしかしなくても、アレがそうなの。


「サチコ、アレってつまり、アレかい」

「ああ」


 再びの怪光線が、路駐されていた玩具のような車を焼き尽くす。不細工な見た目だけど、ヤバさがすごい分り易い。


「未来からの侵略者って奴だぜ」

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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