・レベルが上がっても
・レベルが上がっても
『きれいな遺伝子』:取得すると現状自分の種族の中で、最高の遺伝情報を元に、体が再構築されます。
すげえ魅力的な文言。
仮に取得した場合、俺のステータスが十倍くらいになる。見た目は日本人でも、既に人種の情報が書き換えられているというのに。これはその中でも最高ということか。
「でもポイント凄い食うね。三万とか要るんだけど」
「何せ肉体だけで見れば、人類史の限界レベルだからね。あくまで先天的な肉体に限るけど」
隣で煎餅を齧りながらミトラスが言う。今更こいつの言い方に驚いたりはしないが、現状の十倍が人類の限界なのか。
「なんか大したことなくねえか」
「大丈夫。そこから訓練次第で更に十倍は強くなって、装備と戦術と戦略で千倍くらい強くなるのが人間だから」
彼はパタパタと手を振って、気だるげな笑みを浮かべた。それなのに心底うんざりとした声を出す。昔を思い出すんだろうか。
それよりも水玉のパジャマが可愛い。
「なるべく経験を積ませたくないから、争いを避けた所で、同族で勝手に殺しあっては、際限なく凶暴化していく。本当に厄介だよ。戦争を長期化させずに済んで良かったと思う」
俺は溜め息を吐くミトラスの、ファンタジックな緑髪と、猫耳を撫で繰り回してから、再びテレビに視線を戻した。
そこに移るのは俺のステータス画面。今日は日曜の夜で月一のレベルアップの日である。
今の俺の手持ちのポイントは、人間サプリを食べ切ってしまい5000ちょい。フリーの成長点を数えてもその倍。丸々二万は足りない。
「今回が済んだらこれからは貯蓄だな」
という訳で今回の取得する肉体強化のパネルこれ。
『神経全強化』:自律神経を始めとした様々な神経が丈夫になり、反応が早まります。激しいストレスや昼夜逆転にも負けません。
『血液改善』:ドロドロな血液がサラサラに。血中の栄養価も向上。吸血鬼も大満足!
『血管強化』:丈夫な血管、石灰質が詰って危うい事態も起きなくなります。
それぞれ成長点を500消費して、俺の体の健康はこれで現状最高の状態になった。これからは筋力に適宜振るところだが、遺伝子を取得したいので保留。
ここまでに取得した、各種肉体強化パネルのおかげで、俺の代謝は最高に改善されている。栄養変換のおかげで、怠けただけでも成長点が得られるようになったし。
果たしてそれがどれだけになるのか。悪漢共を加工した栄養剤のおかげで、問答無用で入手できていた百点もの成長点も、今後は入手不可能になる。今後はその辺も考えておかないとな。
「しかし肉体はいいけど他は持て余すな」
「それは君が使い道を考えないからでしょ」
そうは言うが現代社会で知能なんて要らないぜ。何かになりたいとか資格が欲しいなんてこともないし、最近はテスト以外にも、取得に条件のある資格も増えてきてるし。
学業も成績が良ければ逆に浮いてしまう。もう十分クラスに居場所がないけどこの上『実は頭がいい』なんて設定を追加したくはない。キャラじゃないの。
「もう単純計算と記憶力も頭打ちだよ」
「人間なのにあんまり伸びなかったね」
うるさいよ。しかし悔しいがその通りで、俺のおつむのその辺は文字通り頭打ちとなった。暗記と珠算が幾らか人よりできるという程度だ。
「しょうがないから、これ取るか」
『未使用領域解放』:脳の未使用の領域を覚醒させます。
「今まで無かった上に、説明がこれしかないから避けてたけど」
「まあ成長する以上は、多分君の益になるはずだよ、きっと、たぶん」
ミトラスも自信はなさそうだった。俺も不安だ。あればいいってもんじゃないを、地で行くのが人間の知性だ。クトゥルフでも低いほうがいざってとき発狂しにくい。でも他に選択肢がないから取る。ぽちっとな。
「お、パネルが増えた。そして計算と記憶力がまた取得できるようになっている」
レベルキャップが解放されたということだろうか。今までこれ以上取得できないというパネルは、ずっと点灯しっぱなしだったのだが、今は未取得の状態になっている。
ちなみに払った成長点はなんと5000。足りない分はフリーの成長点から補填。
「お、そして魔法のタブにも変化が」
各種魔法の取得や、系統のレベルアップに必要な成長点の量が減っている。ああ、こういうのを見ると『知能来た!』って感じがするな。頭良くなった実感湧かないけど。
「魔法は大量に成長点を要求しないけど数多いのがな」
「レベル上げのし甲斐があるでしょ」
ミトラスは嬉しそうに言うけど、俺は同意できない。ゲームだったらそうだけど、自分が達人になるまで打ち込みたくなんかない。他にしたいことする。具体的には遊びたい。というかレベルがあってもあまり意味がない。
せいぜい校内でからんでくるチンピラや、嫌がらせをしてくる同級生を殴ったり、殴り返したりするのに役立つくらいだ。今の所魔法を使うところまで追い込まれたことはない。
「さて、一通り取得し終えた訳だが、ポイントがお安くなって全部レベル2まで行けたな」
「ここまでくるといっぱしの冒険者並です。呪文の習得はまた今度しようね」
夏休みだしその為の時間もあるし、レベルアップも嬉しいけど正直実感がない。使い道もそんなに無いしな。
それと闇だけほぼ成長点が要らなかったのが気になる。次へのレベルも他より格段に安いし。
「なんていうかな。比較対象がないからいまいちありがたみがなあ」
「味気ない? じゃあ僕と比べてみようか」
「それは別にいいです」
お前のことだから、どうせレベルも能力も何もかもカンストしてるというのがオチだ。画面に延々と9が並んだり或いは255だったり、いやこの画面はざっくりした表記をしてるから、とてもとても強いとか出るのかもしれない。
とにかくそんなもの出されても反応に困る。
「人間の比較対象はないのかってこと。じゃないと俺が今、どんな具合なのか分からないだろ」
「ああそうか。そういうことなら、次のレベルアップのときにでも、出るようにしとくよ!」
できれば最初からそうして欲しかったけど、我が侭は言うまい。これで次回から今の自分が、果たしてどんなものなのかが分かる、はず。
「さ、じゃあ用も済んだし寝るか」
「あれ、特技取らないの?」
「今必要そうなのもないしな」
最近分かってきたことだけど、特技のパネルは取得すると、体がその特技が出来るように調整される、端的に言えば、その特技に引き摺られるのだ。
特技のおかげで体が強くなるだけならまだいいが、どうも何か落とし穴があるような気がしてならない。
一応今回の知能の件のように、一つのタブが他のタブに影響を与えることもあるだろうし、様子を見ながらやったほうがいいだろうな。俺の体なんだし。
「それでどうする? 今日はするのか」
部屋に戻る前にミトラスに聞いてみると、彼は腕を組んでうんうんと唸り始めた。耳が畳んだり開いたりしている。
俺としては一ヶ月もお預けさせてしまったし、夏休みの間くらいは、毎日枕をイエスにしておこうと思っているのだが。
「うーん。したいけど、洗濯も大変だし。夏場は匂いがすごくなっちゃうから……」
「魔法使えばいいだろ」
「それを許すと見境とか際限が無くなりそうだからダメ!」
一度くらいは見境とか際限をなくして欲しい日もある。だけどミトラスが、自分の性欲にブレーキをかけているときは、何を言っても何をしても逆効果なことを俺は良く知っている。
「じゃあ今日はしないんだな。おやすみ」
「あ、待って! あ、いや、でもなあ、う~ん」
悩む彼を放っておいて、自分の部屋へと入る。掛布団はタオルケット一枚で、扇風機のタイマーを入れる。ぶうんという音、吹き付ける風が室内の熱気をかき乱していく。
「したいかしたくないかといえば……」
羊の代わりにミトラスの唸る声を数えていると、そのうち睡魔がやってきて、寝苦しい夏の夜にそっと幕を下ろしてくれる。
だいたいこんな感じで、俺たちの夜は更けていくのであった。
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文章と行間を修正しました。




