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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
誰そ彼女編
384/518

・夏へのレベルアップ

今回長いです。

 誰そ彼女編


・夏へのレベルアップ



転魔含滅(てんまふくめつ)!」


 変身の掛け声一つで悪魔に変身。分かり易さから体色を黒と暗緑色にチェンジ。今回は尻尾と羽も生やす。夜の自宅とはいえ、リビングで全裸というのは恥ずかしい。せめて局部を隠す便利な体毛が欲しいところだ。


鬼気(きき)浸染(しんぜん)!」


 二度目の掛け声で鬼に変身。分かり易さから体色を胸から太股までを赤にチェンジ。ついでに角も生やす。手足や腰、輪郭をは黒にすることで細く見せ、強調したい部分を赤で大きく見せるという技術も駆使。よし、出来てる出来てる。


「そして変身、ダイダ……」

「ストップ! 家が壊れるでしょ」

「おっとそうだ、いかんいかん」


 ついつい調子に乗ってしまった。試行錯誤と練習の末、なんとか鬼への変身が可能になったからな。嬉しくて全部やるところだった。


「しかし本当にやってのけるとはねえ」

「変身の掛け声さえ決まればこんなものよ」

「デビールはもうやらないの」

「悪魔化だけならアレが一番だけど、揃えたいしな」


 辞書を引いて字を当てるという、少年漫画ではお約束の芸当。昔は恥ずかしかったが、実を伴った今ではイタくも何ともないぜ。


「でも凄いよ。こんな人間他にいないよ」

「それはそうだろう」


 基本的に人間は変身出来ないし、況や第二形態をや。ただな、俺ってレベルを上げるために成長点を得てる訳だが、主にそれは人間や動物の死骸を、ミトラスが超常的な力で加工した謎サプリメントを、毎日摂取することで成り立っているんだよな。


 人から怪物になるお話の中に、人を食べたり血を浴び続けたりするというパターンがある。今の俺が正にそれなんじゃないかって最近思うんだよね。


 人間側からするとコレもう人間じゃないんだけど、ミトラス曰く『そんなことしてそんなことになるのは人間だけだから君は人間』だそうだ。世の中は厳しい。


「ただな、言わせて貰えばこの姿、滅茶苦茶不便だぞ」

「それはそうだろう」


 ミトラスが俺の口調を真似する。この猫耳を生やしたファンタジック緑髪を真似しようとしたが、獣人化で該当する種族を取得してないので、猫耳は生やせなかった。


「寝るときに羽と角と尻尾な、全部邪魔だぞ」


 後頭部や側頭部から横に生えた角は枕を遮る。むしろ角が枕。硬い。超硬い。顔が痛い。尖ってると穴を開けることさえある。そして上に伸びる角、これは試さなくても分かる。頭の上でスペースを要求する。ケチると壁に穴が開く。


 生活に支障を来たさなかったのは、前に伸びる鬼の角だけだったよ。


 羽は寝返り打つときに体を抱くようにしてないと、もう痛い。言葉にしたくない痛みがある。特に付け根の部分が痛い。ミトラスが言うには、鍛えることで極端に柔らかくするか、痛くなくなるくらい頑丈にするしかないらしい。


 地味に尻尾も寝心地を損なう。トカゲみたいな太いのじゃなく、悪魔の絵に見られるような細長い奴なんだけど、角と羽ほどではないが違和感がある。


 シャツの上からテープで背中に留めるか、前に回して抱くかで対処が可能なのが救いか。一応ひとりエッチに使えなくもないけど、相手もいるからそんなに出番はないだろう。


 腰の位置から生やすと邪魔で、肛門の後ろから生やすとクソするとき必ず汚れる。尻尾をピーンと上げてても汚れる。致命的に駄目です。


 どのみち羽があると仰向けには寝られないし。鳥は腕が翼だから、仰向けに寝られるんだな。野性じゃまずそんなことしないけど。


「頭を角でいっぱいにした時もそうだけどさ、やればいいってもんじゃないなかったな。それまでは浪漫があると思ってたのに」


「生活のために変身する訳じゃないから別にいいでしょ」

「うんまあそうなんだけど」


 もしも変身が解けない呪いとかかけられたら相当辛いぞ。それに全部乗せってやっぱりかっこ悪いし。ゴテゴテしててもそれなりに見栄えが良くなるのは、ロボットだけだな。


「来月に備えて修行するんだから、文句言わないの」


 来月に備えてというのは、最早恒例行事と化した夏の肝試しに対してである。大学に行った先輩から連絡があって、まだ場所を選んでいる最中だけど、もし良ければ付いてきてくれとのことだった。


 大学の友だちを連れてけよ。シリーズ三作目ってだいたい評価が落ちるんだぞ。ていうか二度目でかなり危ない目に遭っただろ。懲りろよ。


「君も三年生で夏休みの宿題はないんだ。みっちり修行するからね」

「俺を強化するよりその筋のコネを増やしたほうがいいと思うがな」


 この世界でも天狗だの幽霊だの半魚人だのの存在は確認できたんだ。オカルト部の蓮乗寺やウルカ爺さんとまではいかないが、そっち系の味方も増やしたほうが、数的不利に対する不安は減る。


「それも一理あるね、今度僕もウルカさんに他の妖怪を紹介してもらえるようにお願いしてみるよ。そのときはサチウスも同席してね、一度で済むから」


「よろしくどうぞ。じゃあレベル上げるぞ」


 テレビのリモコンで画面を操作し、成長点と引き替えに肉体、魔法、知能、特技のタブからパネルを選んで取得する。今回肉体で選ぶのはこれだ。


『強化外骨殻』:体表面に甲殻及び外骨格を分泌、形成します。


 前回の余らせておいた成長点3,000と今月の3,000合わせて6,000点を消費して取得。そして、ついにこのときがやってきた。


「変身!」

「え、もう!?」


 どういう見た目になるかまでは分からないが、とりあえずやってみる。外見は後でイメージして修正すればいい。


「あぐ」

「え」


 あ、いた、痛い。なんだこれは、あ、いたたたたたたた。全身がちくちくずきずきと痛い。しかしこう、耐えられない訳ではない。


「う、うおおおおおおー!」


 しばらくして痛みが引く。これは、全身に何かが張りついているな。しかも張り付いている何かが、肌のように空気を感じている。


「俺は、どうなったんだ」

「サチウス、こっち、鏡!」


 言われて振り向くと、ミトラスが自分のお小遣いで、フリーマーケットから購入した姿見を用意してくれていた。そこに映った姿は、紛うことなく。


「何これ」

「貝とか甲羅の塊みたいになってるね」

「肌の上に鱗も生えてるな」

「ヒーローというよりも怪人だね」


 もうちょっと全身にぴったりとフィットしてるのを想像してたけど、これじゃ着包みだな。悪役側だって最近はもう少しスタイリッシュというか、こんなに膨らんでない。


「出せる分だけ出しましたってことかな」

「変身にも練習が必要だね」


 強化外骨殻と書いてパワードスーツと読みたかったが、それも当面先のことだな。よし、今年の夏は変身制御の特訓に励もう。


 元々の体型に変化がないので、あまりがっかりせずにすんだのは、不幸中の幸いと言えよう。今度は貝類と甲虫と甲殻類の図鑑を調べなくてはなあ。


「次いこ次」

「そうだね」


 魔法のタブは先月から決めていたので取得。


『妖術』:要『鬼化』または『妖怪化』。『妖術』は体力と少量の精神力と引き替えに使用可能です。主に肉体の変化と幻覚効果が中心となります。


「体力と引き替えというのがまたお誂え向きだな」


 強化じゃなくて変化というのが気になるけど、もしも妖術経由で獣人になれるなら、体毛で胸と下半身のドレスコードが守れるな。魔人というより野人に近付いてるような気がするけど、きっと気のせいだろう。


 成長点を前回のと合わせて6,000支払って取得。知能と特技に至ってはもう3,000余ってるから9,000までの高いパネルを取れる。


「次は特技からいくか」

「知能を避けないの」

「違うよ今回は違うよ」


 以前のように単に苦手意識から後回しにするのではない。俺自身に希少とか異常とかアレな経験が増えると、パネルが増えることがある。これだけ変身に関して要素が増えたんだ。恐らくは。


『変身』:肉体の変化・強化・操作による消耗が低減されます。また各行動が容易になり、習熟が促進されます。


「ほら来たー!」

「おお、自分の成長を自分で掴めるようになってる!」


 けっこう長いことレベルを上げて来たからな。そろそろ『こんなもんじゃないかな?』というのが、漠然とではあるが、分かるようになりつつある。3,000を三回払いで限界まで取得。


「最後は知能だな」

「こういうこともあるんだな、僕は嬉しいよ」

「そんなしみじみ言うなよ」


 そんな手のかかる子が卒業するみたいに。まあ強ち間違いじゃないけどさ。それにしてもこんだけ力をつけてるのに、基本的に趣味とか備えの域を出ないのって、我ながら健全なのか不健全なのか。


「今回は綺麗にまとめるからよ」

「いいよいいよー! どんどんやっちゃってー!」


 どこでそういう言い方を覚えてくるのか。まあいいや。

 知能のタブを選択して、パネルの中から選ぶのはっと。


『小脳強化』:運動機能の調整と姿勢の制御が容易になります。


『脳幹強化』:呼吸と心拍が整い易くなり、神経的な問題で失調し難くなります。また短時間の睡眠でも神経を休めることが可能になります。


 それぞれ4,500を払って取得。これで今までレベルを上げてなかった月の分の成長点は、全部使い切ったことになる。


「脳みそのアップデートも久しぶりだな」

「だってあんまりやりたがらなかったじゃない」

「それをやりたがるのは心の病気だと思う」


 体が新しいステージへ突入する以上、おつむの更新もしておかないといけない。自分の体の動きに頭が付いて来れないのは駄目だし、またホルモン不足とか言われても困る。


「知能周りは新しく取るよりも、取得済みのパネルを強化したほうがいいかも知れないな。こういうときに本職のトレーナーとかいればな」


「怪人のトレーニングが本職ってなに」

「……悪の科学者とか」


 止そう。こればっかりはやはり手探りでするべきだ。


「ともあれこれで今回の作業は終了。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした。あ、そうだサチウス」


 変身を解いて服を着ているとミトラスに呼ばれた。彼だって今日はもう部屋に戻って、パジャマに着替えて寝るだけの状態である。


「なんだミトラス」

「変身のことなんだけどね、それ用のアイテムとか欲しいかなって」


 おお、それはつまり、変身用のベルトとかライトとか、あるいは化粧品みたいな奴か。女の子用のはあんまり欲しくないけど、でも貰えるのならありがたい。


「そりゃあ欲しいけど、作れるのか」


「内容は変身を補助するだけだからね。とはいえ流石に製作に時間はかかるよ。出来てもクリスマスくらいになっちゃうけど、それでも良ければ」


「全然構わないよ。それで、頼んでもいいのか」


 クリスマスか、思えばいつもろくなことが無かったからな。今年くらいは平凡に過ごしたい。それにしても変身用アイテムか。この前の魚を食ったことを、謝ったのが良かったのかな。


「いいよ。じゃあ頑張って作るから、期待しててね」

「あまり無理をするなよ。あと魔法の呪文を唱えるのとかは無しだぞ」


 ぎしり、という音が聞こえそうなほど、ミトラスは硬直した。……お前という奴は。


「うん、分かってる。安心して。大丈夫」

「フリフリのスカートとかやたらカワイイのも無しだぞ!」

「うん、分かってる。安心して。おやすみね」


 そう言って彼は顔に笑みを貼り付けたまま、そそくさと部屋へ帰っていった。一抹の不安が残されたが、ミトラスから俺専用アイテムが貰えるというのは素直に嬉しい。ここは信じてみようか。


 逆に俺もプレゼントを考えなくちゃいかん。

 夏にクリスマスのことを考えるのも妙な話だけど。


「ああ、おやすみ」


 部屋の明りとテレビの電源を消して、自室へと戻る。いいや、なるべくポジティブに考えよう。色々台無しになっても、思い出の一頁くらいにはなるはずだ。


 でも変身アイテムかあ。いったいどんな形になるんだろうなー。気が早いけど、変身できるようになって良かった!


 ただ、個人的には全く変化がない『不滅の魂』をどうにかしてくれるほうが良かったかな。フリーの成長点が13,000点余ってるけど、特に変化もない。


 あのパネル、一体何が取得条件になっているんだろうか。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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