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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
七人の部員編
310/518

・大詰めにするには

今回長めです。

・大詰めにするには



『そういう訳でね、たぶん校舎のほうに、もう一人銃を持ってる奴がいると思うの』


「うん、そっか、分かった」

『気を付けてね!』


 後ろで先輩が携帯電話を切った。


 通話相手は蓮乗寺で、内容は非常口に行った不良は銃を持っていなかったという報告と、それに対する警告であった。


「もっと早くに言って欲しかったなあ」

「本当にね」


 現在俺たちは職員室前にて、鼻に大きなガーゼをしたマスクの男子と対峙していた。相手は小型の拳銃を構えており、既に何発か発射した後だった。


 他の不良たちを片付けた生徒たちと共に、一度ここに集結したんだけど、この鼻ガーゼは殴られたときの痛みから、回復していたんだな。


 それだけならまだしも、手には持ってて欲しくない武器まであった。


「こういうときに先生たてが欲しかったなあ」


 それで一度引き金を引いたら、後はもう遠慮無しに撃ってくるようになりやがった。


 集まるほどに、負傷者を出す可能性が高まるため、皆は上の階に避難させて、殿は俺と先輩がすることになった。


 理由は簡単、防弾装備である、中華鍋の盾を持っているのが俺で、その背中に先輩を庇うほうが、下手に動くより安全だからだ。


 そして今に至る。


「突っ込んでは来ないね」

「そりゃ銃構えてますからね」


 滅茶苦茶に走り回って、乱射されると手が付けられないが、幸い向こうもそれはしなかった。固定観念というか、発想の柔軟性というものが無いのだ。有ったら困る。


 手薄になった外に逃げられ、南たちが撃たれる恐れもあるし、走りながら撃つことは無理でも、走った後に撃つことは可能なのだ。


 向かって来られて揉み合いにでもなった挙句、引き金を引かれでもしたら、俺も含めて誰かしら被害が出るだろう。


「今更だけど面倒だね」

「そっすね」


 出ない可能性だって有るかも知れないが、こんな状況で楽観論は避けたい。


「どいつもこいつもオレを馬鹿にしやがって!」」


 目を血走らせた不良が、何度目かの発砲を行う。


 構えた盾に衝撃が伝わりとても不愉快だ。こういうとき、相手に当たらないという安心感が、却って行動を促進させる。引き金を軽くするのだ。


 俺が大丈夫だからってやたらに撃つんじゃない。


「馬鹿だろ死ねよカス!」


 立て続けに発砲。盾に衝撃。以前のような取っ手が大型洗濯バサミを、接着剤でくっつけただけという、不安な出来ではない。


 しっかりと鉄の棒を曲げて溶接してあるので、そこが壊れる心配はない。


「サチコなんで煽るの!」

「これまでにかなり撃ってる。弾切れが近いはずだ」

「あ、そうか」


 いつぞやのストーカー戦では、相手が現地調達した銃を四つも五つも持ってた上に、マガジンまで完備とかなり絶望的だったが今回は違う。相手は一丁だけ。


「おいチビ! お母さんの銃帰しなさい!」


 発砲、たぶん十発目。


「弾切れしたかな」


「いや、最近は規格も統一されて、八発以上撃てるなら倍は撃てると思っていい」


「十六発かあ、たまらんな」

「口径は9mmっぽいから物によっては更に撃てる」


 マジかよ。これだから銃は嫌なんだ。作った奴は頭がおかしい。人の命を何だと思ってるんだ。死ぬ前に殺されたら良かったのに。


「アレは人数分を殺害できるような代物じゃないし、本人も訓練なんかしてないだろうけど」


「気休めにならんな。撃ったもん勝ちだろあんなの」

「こんなことなら鎧でも作っておくんだったなぁ」


 そうこう話している合間にまたも発砲、完全に十発以上撃ってる。ついでに盾の上に出ていた木刀の先が折れた。


 うーん、外国人の頭のおかしさはこういうストレスに日常的に晒されてることから来てたんだろうな。


 そして銃社会じゃない場合それは、日本式の頭のおかしさになる。どっちにしろ救いがない。


「しかし警察来ないね」

「来る訳ないな。後二十分は来ない。賭けてもいい」


 不良たちが喫煙室の窓を割り、侵入した頃から数えてそろそろ四十分だ。救急や消防に比べ、警察の出動はあまりにも遅い。


 しかも不祥事があった場合の処罰も、極めて軽微ではっきり言って、当てにも頼りにもならない。信用もできない。


 俺は学校を卒業したら異世界に帰るので、あいつらに税金払わなくて済むから、そこだけは本当にスッキリする。


「これからどうします」


「とりあえず、そういうことなら警察をせっつくのは止そう。これで相手が銃を乱射してるなんて言ったら余計遅れるかも知れない。迂闊なことをして皆が撃たれるくらいなら、私は警官を撃ち殺させるよ」


「それもそうだな」

「東条君! いるかい!」

「はい先輩! どうしましたか!」


「学校中から、椅子でも机でもロッカーでも、兎に角何でもいい! ありったけの遮蔽物を持って、全員で下に降りて! ドアも外して構わない! 隙間無く並べて物量で押し潰すんだ! たかが小口径弾の十発や二十発で、止められる私たちではないことを、思い知らせてやるんだ!」


「了解しました!」

「それと俺の鞄を持ってきてくれ!」

「はい!」


 東条が返事をすると階上がにわかに騒がしくなる。他の生徒たちを指揮して、校舎内を物色し始めたのだろう。


 すまんな。俺がのび太くんみたいな凄腕のガンマンだったら、さっき拾った銃で相手のを弾き落とせたんだろうが、実際にできることといえば、物を投げるくらいなんだ。


「それと先輩、南に連絡してくれ。狙撃の準備をして貰ったほうがいい。確か電機部の部室にそれ用の武器があったはずだ。二階のベランダから回り込めば渡せるはずだ」


「え、いやでも……分かった」

「頼みます」


 これで粗方準備は整った。大人数で用意した机なりロッカーなりを貫くことは難しいだろう。廊下を埋めて貰えれば退路を塞げる。


 言い換えれば向こうが突っ込んで来て、誰が撃たれるか予想もつかないという状況は、潰せるのだ。


 安全を確保し相手を追い込む。後はどうやって無力化するかだ。このまま時間を待って、警察にやらせるのがベターだが、警察が介入したことを、学校から責任として、追及されかねない。


 自分たちの不都合を、何だって握り潰すような連中だから、最善は俺たちの手で終わらせることだ。


 しかし、できるか。


 風祭先輩は拳を負傷してしまっているし、蓮乗寺は恐らく中に入って来ないだろう。あいつは生徒間では一番戦力になりそうなのに、ここ一番で役に立たねえからな。


「よし来い! てめえもう弾切れだろ。親の銃持ち出してんじゃねえぞ!」


「うるせええええーーーーーー!!」


 さっきから親の私物を持ち出したと決め付けていたがどうも本当だったみたいだ。立て続けに渇いた音が響いて、腕に衝撃が数度伝わり、それきりだった。


 やっと弾切れを起こしたのか、見れば引き金が引けなくなったようだ。


「今だ、行け!」

「サチコも気を付けてね!」


 後ろで先輩が階段を駆け上がり、同時に俺は階段を降り切る。鼻ガーゼは学ランの中から細長い鉄塊を取り出して、銃に装填するところだった。必死さの成せる技なのか、恐ろしくスムーズなリロード。


 そのままやや後退して、職員室の開け放たれたドアの前に移る。ここまで戻って来たな。いや、こいつはあまり動いてないのか。


「後たったの十六発。逃げなくていいのか。警察が来るまで後十分もないぞ」


「うるさい!」


 頭に昇った血が焦りで濁る。


 濁れば巡りが悪くなり、やがて腐る。腐った水は頭蓋に溜まり、温められた蛋白質が固くなる。


 逃げ場が無いという自覚がありながら、どうすることもできない。悪知恵を働かせる一方で、現実からは目を背けてきたツケが今、清算の時を迎えようとしている。


 鼻ガーゼが顔中に汗を浮かべながら、血走った目を忙しなく動かしていると、もう一方の階段から騒々しい音が、次々に落ちてくる。


「始まったか」


 雑に放り出された机や椅子が廊下の隅に積み上がっていく。封鎖が始まったのだ。先輩が去った後ろの階段からも同様にロッカーやドアが降り注ぐ。危ないので避ける。


 下駄箱、二つの階段、あと一応非常口、一階の出入り口は全て固めた。


 残すは侵入したときの職員室のみ、大人と制裁から逃げ隠れし続けてきたはずなのに、向かってくることも逃げることもない。


「廊下も塞がるぞ」


 盾越しに覗き込めば、鼻息も荒く銃を構え続けているものの、殆ど身動きが出来なくっている、小僧の姿があった。


 頭と精神で、現実と情報を、整理も許容も出来なくなっている。個人個人を包む靄のような空気が取れ、妙に距離が近くなったようなあの感じだ。


 普段人の後ろから嘘と屁理屈ばかり言ってる奴が、追い詰められて殴りかかってくる直前の状態と、酷似していた。順番が前後しているが、こういった限界は人類共通なんだろうか。


「くそっくそっくそっくそ、うぅ~~~~~~~!」


 ガキが嫌々をするときの、首を竦めるのと振るのを同時にやるような動きをして、鼻と口で空気を啜る。べそをかくなよ汚ねえな。


「っ!」


 思い出したように銃を撃ってきやがったので思わず盾を構えるが、衝撃は伝わって来ない。


 外れたみたいだ。別の所を撃ったんだろうか。

 って。


「ちょっと待ってくれよ……」


 鼻ガーゼは銃を持った手で、頭を抱えたり顔を拭いたりと、落ち着かない様子だったのだが、一つ異常があった。銃を持った手を頭に着けて離さないのだ。


 その状態で奴当たりするように時々引き金を引く。弾が出て、その時の反動や音で、更なるヒステリーを起こす。


「おいおいおいおい冗談じゃねえぞ」


 只管自分を庇うようにしながら、その癖に自分の発砲でどんどん追い詰められていく。いつ自滅して自分の頭に穴を開けても、おかしくない有様だった。


「おい! いいからとっとと銃を捨てろ!」

「やだ!」


 やだじゃねえよ。


 ああもうてめえみたいなのがグズったって可愛くもなんともねえよ!


 死んで欲しいけど死なれたらあいつが被害者になっちまう! 馬鹿が死んだくらいで、加害者扱いされてたまるか畜生!


 いかん、こっちまでイライラしてきた。落ち着かなくては。ここから先煽りはいかん。何かの拍子に奴が頭を撃ち抜かないとも限らん。


 さっきの癇癪で五発撃った。残り十一発。


 十一発撃たせるか、その前にあいつを無力化しないといけない。だがどうする。


 ここからどうやって取り押さえればいいんだ!

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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