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出戻りサチコのやり過ごし  作者: 泉とも
七人の部員編
304/518

・別働隊っぽい人たち

・別働隊っぽい人たち



 ただでさえ一人でも手に余る二人が、揃っているとなると、これは手に負えないという状態に悪化する。


 しかし風祭はともかく、今まで連絡がつかなかった蓮乗寺まで、いるというのが引っかかる。


「お前ら、それはどういうことだ」

「それっていうのは具体的にはどのことかな」

「卒業待たずにお前の遊びを終わらせてもいんだぞ」


 この期に及んでふざける理由がないのに惚ける風祭に対し、俺は握り拳の人差し指と中指の間に、親指を突っ込んで、三回ほどゆっくり振って見せた。


 特に意味のない下品な挑発だったが効果は覿面で、向こうは即座に不敵な笑みを引っ込めた。寝取り失敗の黒歴史を持つ、蓮乗寺が煽りを受けて顔を背けた。


「何があとちょっとなんだ。東条が言ってた携帯電話の残りは、お前が持ってるのか。隠していた理由は。それとオカルト部はどうしてここにいるんだ」


「質問は順番にして頂戴」

「じゃあ今の順番に順番で答えろ」


 そうしたら順番に質問したことになるだろ。


 暗にそう言ったつもりだが、オカルト部部長こと蓮乗寺は、今にも舌打ちしそうな顔で沈黙した。意図が伝わって何よりである。


 この二人の性格には分かり易い特徴がある。


 風祭は荒事が好きなので、どうしても大人しくしていられない面がある。挑発的な態度は、敵がいれば荒事にもなり易いだろうと、踏んでのことだ。


 悪意が有る訳ではない分、余計に悪質である。彼氏の延清君という安全装置(下半身含む)が、近くにいないとこんなもの。


 蓮乗寺は掴み所がないように見えるが、実は中身が死ぬほどスカスカ。良心が無いではないが、利己的で無責任。


 ズレがあるが基本的には女の子の性根をしている。これに気付いてからは非常に接し易くなった。好きになったかというと、別の話だけど。


「で、携帯持ってんの」

「あ、うん、これなんだけど」


 一触即発になり兼ねない空気だったが、先輩が尋ねると風祭は素に戻って、ポケットから携帯電話を取り出した。


 周囲の空気は関係ないとばかりに、ぶった切れるのも先輩の人徳なんだろうか。


 俺としてはちょっと面白くないが、誰もこの空気を引き摺るつもりがないので、そのまま流した。


「この中にさ、これこれ。要は『記念撮影』だよね」

「うわあ~、いかにも~」


 受け取った携帯電話の画面を見つつ先輩は「うへ」という声を発した。そこには同性の青少年から中高年まで略取したり、器物を損壊したりした画像が幾つも納められていた。


「メモにはご丁寧に写真と、個人情報が紐付けされててさ、そいつの携帯から画像が削除されてる場合は、それも注記されてんの。細かいよねえ。証拠隠滅されたものを持ってるってことで、まあ何か価値が増すんだろうね」


「画像を保存しておいたにしろ、消したにしろ、自分の罪を水増しするという手法は初めて見たな。これが連中を繋げる線だとして、お前これを自治会館で拾ったのか」


「そうよ。充電器に付けっ放しで自動節電※も切ってあったからさ、暗号知らなくてもそのまま使えたよ。充電料金は掛かったけどね」


 ※スリープモードのこと。


 風祭は得意げに語って肩を竦めた。


 これで東条が言っていたことは、正しかったと確定した。


「どうしてこれを警察に出さなかったの。そしたら今頃あいつら、ここにいなかったよ」


「だってそんなのつまんないじゃん」


 しれっと真顔で言い放つパイナップル頭。笑う度に頭頂部の、房の部分が揺れるのが煩わしい。


「大人数で取っ組み合うとか青春じゃない? ちょっとワクワクしない」


「言われて見ると分からんでもないが」

「基本的にそんな機会は一生ありませんしね」


 往年の時代劇を思えば、エキストラ出演だって心ときめくものがある。切られ役だっていいだろう。むしろそこが大事だ。


 しかし現実でやりたいかと言われると。


「第一さ、警察だってあんまり信用できないじゃん。これ渡しても結構な数がお咎めありません、お互いでよく話し合って下さい、なんてことになったら、うちはいよいよ危ないよ。だからこれを匂わせて後一歩、決定的に踏み外して貰わないとって思ったんだよね」


 そこは踏み込むじゃないのか。だがそうか。こいつも一応そういうことを、考えてはいたんだな。現行犯との併せ技で、不良たちが警察のご厄介になった際、なるべく罰が与えられて追い払えるように。


「いつからだ」

「サチコと仲良く出頭する前レンに渡しておいたの」


「そして私がオカルト部の部員たちと共に、生徒たちを調べて、パイプを繋げておいたのです」


 あまりに電撃的。

 並の高校生にできる所業ではない。


「あ、そうか。不良たちにも親戚や母校での繋がりがあるなら、当然一般の生徒たちにも、同じ事が言えるもんね。部員の縁から他校を当たって、調べることができる。特にいじめは生徒目線では目立つから」


 東条は合点がいったとばかりに膝を打ち、先輩は腕を組んで頷く。


「でこも※の連絡先が分かったら、後はそこに携帯電話の情報を落とすだけ。結果はご覧の通りということですね」


 ※電脳交流網の略。電話会社『ドコデモ』が、市場最有力。


「ふふふ、うちの部員は何も米神の生徒だけじゃないのよ」

 

 蓮乗寺が勝ち誇ったように言う。何それ怖い。こいつを放って置くと、そのうちメディアを牛耳る宗教勢力みたいになりそうだ。


「それでいざ激突って思って待ってたら、サチコが七人も減らしちゃってさあ、笑えたからいいけど、たかだか十三人じゃ、鉄砲持ってたって物足りないよ」


 こいつ物足りないって言ったか。

 まだ二桁いるのに。


 いや、学校の敷地内で、自由に戦わせたら或いは。走り回る子犬同様の奴を捕まえるなど、ほとんどの人間には不可能だ。


「え、銃ですか」

「そう。全部で三つ、その証拠にココに一つ」


 東条の疑問に風祭が鞄の中から、黒光りする大型拳銃を取り出した、机の上にごとりと置かれたそれは生々しさと現実感の無さが同居する、文明の産物。


 オートマチックらしい角ばったフォルムだが、古臭い長い銃身が、先端から伸びている。


「これどうしたんだ」

「さっき置き引きしてきた」

「じゃあ残り二丁か」


 さらっとパイナップルが物騒なことを言う。こいつは無法者の戦い方をさせたら、通常の格闘戦以上に、強いのではなかろうか。


「どうやったんです」


「うちの部員たちと他の部の、外周ランニングに紛れ込んで。二周目で盗れた」


 Vサインをして胸を張る風祭。去年先輩と南が生徒指導と、やり合ったときも頼もしかったが、こいつらも相当キテルな。


「この後の予定は」


「幸いこんな状況じゃ、先生たちも見回りはしないで帰るだろう。不良たちも説教食らってる連中が解放されて、もう一度二十人になるのを待つはずだ」


 当然だが先生にしょっ引かれた学生たちは殺される訳ではない。なので今日中に解放されてしまう。


「そして先生たちが帰ったら連中も動き出す。それに合わせて私たちも校内に戻る。携帯電話のことを教えて相手から仕掛けさせて、協力してくれる部員たちには校門を始めとして、逃げられそうな箇所は全部塞いでもらう。奴らを校内に閉じ込めるんだ」


「襲われたという名目を作るんですね」


「そう、そして警察を呼んで駆け着けてくれるまでの間に、奴らを全員捕縛する」


「できればだけど」と先輩はこちらを見た。俺たち以外にも何人かの部員は残るとはいえ、出入口を封鎖するとなると、敷地内で実際に戦う人数は、少なく見るべきだろう。銃のこともある。


 不安は決して小さくない。


「それができたら警察に不良と携帯渡して、人生退学になってもらうのか」


「まあ、それがベターよね」


 風祭の言葉に蓮乗寺も頷く。穏便に事を運ぼうとすると、結末まで穏便になってしまうのか。それだと足りないってこともあるんだな。考えが浅かった。


「という訳で私たちは、先生たちが残っている間に準備をして一度下校、中で待つ者以外は、動きがあるまで学校の裏側で待機。いいね」


「分かりました」


 かくして先輩たちは、不良たちを校内に迎え入れる準備を整え始めた。


 俺はといえば例の七人への、注意や処罰を終えた学年主任が探しに来るはずなので、時間稼ぎも兼ねて、職員室前で待つこととなった。


 俺たちにとっては、明日の平和を取り戻すための大事な一戦であり、校門の連中も上の人間が不在の今、自由になる最大の機会でもある。


 どちらにせよ、ここで決着を付けたいのは、同じということだな。

誤字脱字を修正しました。

文章と行間を修正しました。

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