・これがうちの部です。
・これがうちの部です。
「これって何の人形なんですか」
「それはですねえ、私が自作したものです。いわゆる二次創作って奴でして」
俺と南と先輩の三人は、午前中の残りを部室で過ごすことになった。
何故って当番が俺たちを除くと、栄とアガタだが、あいつらがこっちに来るのは午後からだ。
先輩は自分の作ったフィギュアと、同人誌の説明を求められ、まるでコミティアの作家の如く語り出す。
机の端に名刺まで用意してあるところなんかそっくりだ。
もっとも、今日は他の人の興味を引くために、二次創作物ばかり前に出しているのだが。知名度っていう点じゃ、こればかりはどうにもならないからね。なお先輩の過去作は、そっと覗けるように置かれている。
ちなみに先輩の頒布物は『仮面Uマン』と『ビーライダー兜』である。
前者は特撮大家の設定を用いた、クロスオーバーものだ。
三分しか戦えない光の巨人が、地球の対怪獣組織が長年のノウハウを注ぎ込んで作り上げた、巨人用変身ベルトにより、仮面の戦士へと更なる進化を遂げるというもの。ラストは仮面が割れる。
後者はメタルなヒーローとバッタがモチーフのクロスオーバーもの。
メタル側が昆虫をモチーフにしたシリーズ、バッタ側は外見とタイトルにカブトムシを取り込んだことで『カブト虫』という、共通項が生まれたことにより、作られた奇作である。
ライダー側のデザインが、大分メタル寄りだったこともあって、カブト虫と銘打っている割に、見た目がとてもメタメタしい。ピッカピカ。
こちらは同じくカブト虫型のアンドロイドと、人型に変形するサポートメカが合体し、機動戦士になる。最終的にさっきのUマンにも登場するという、変則的な御三家勢揃いを達成する。
こんな歪なコラボ見たこと無い。ていうかそこまでするくらいなら、素直に巨大化したライダー出せよ。
「ライダーに変身するウルトラとライダーが乗ったGとGのパイロットになったライダーとウルトラが変身するライダーですよ」
戻すな戻すな。→→←←という動きをしても誤魔化されんぞ。ネタが被るから厳しいのかも知れないが、それでも絵に起こすと二人分で一人足りない。
遠景に思い出みたいに映して三人並べる力技は流石に酷いと思う。
「はあ~、考えましたね!」
「でっしょー!」
客はそれでもいいらしい。
「これうちで作ったマニキュアなんですけど、指じゃなくって小物に塗るんです。落とし液要らないんで、すぐ書けてすぐ消せます」
南は南で防犯用品を装飾して見せている。スワット的なヘルメットには、ピンクのハートを描いた上に、稲妻のシールを被せたワンポイント。
そしてそれを被りポーズを取る。こいつも段々コスチュームの方向性が、定まり出したな。
なお現在は昨日と異なって、警察っぽい服装をしている。制服好きだなこいつ。
「作り方のメモもありますんで、良かったらどうぞ。自分でお気に入りのマークやロゴを入れるの、楽しいですよ。浮気対策にも使えますし、例えばブランドのロゴの所を、こうやって似せておいて、後で別の女友だちが持ってるところに水をかけて消すとか」
「いーじゃーん!」
えらい食いつきだ。セールス口調の南に他のクラスの友人らがぽんぽん手に取って買っていく。この中で一番手に取って貰ってるのは、間違いなくあいつ。
かわいいしな。
で、俺はというと。
『ご自由にお取り下さい』という字と、食べすぎ注意の立て札を沿えた仙丹キャンディ、食べられる野草を模して作り出した、カルス茶である。
そうカルス茶。
先日強化したてほやほやの、薬草生成魔法。
属性をコントロールすれば誰でも使える、特許取れそうな、俺が今年の頭に停学食らった際に、自暴自棄になって開発したやつ。
この薬草の新発見は、強化して食用になったものは放置しておいても、自然には消滅しないというところであり、普通の草と同じく、傷んだり腐ったりするところ。
そういう意味では自然消滅すると言ってもいいが、これの意味するのは、加工と保存ができるということである。
そして火から闇までの属性に、振り分けたカルスをだな、干したり炒ったり煎じたりして、お茶にしたものが机の上に並んだ薬缶、英語で言うとケトルに入っているのだ。
これを思いついたとき次に頭に浮かんだのは、これと味の近い野草を、探さなくてはならないということだった。
今月はね、自宅近辺の食べられる野草を調べてね、味比べしたんですよね。
怒られましたよ。ミトラスに、それはもうね、烈火の如く怒られました。『そんなもの飲み比べなくていいから! 誰も野草のお茶の味が違うなんて言い出さないから!』って。
市販のお茶にも、味が近いのもありましたけどね、やっぱりそうじゃないのもあって。おかげでね、見事に近い味の野草も、見つかりました。
命拾いしたのはね、海さんがくれた珈琲の葉のお茶というのがあってね、これが光属性のカルスのお茶と瓜二つだったんですよ。もしもそういう珍しいお茶を知ってる人から、指摘があったらと思うとね。
それにまだ問題あったんですよ。見た目。似せようがね、無かったの。最初は。それぞれ草の形が違うからね、茶葉の見た目で区別がつくような奴が、うちにいるのかって話なんですけどね。
かなりいたのね。
これでまた頭抱えてね、味以上に悩んだんだけど、とりあえず窒素飴を用意するときに閃いたの。仙術で見た目が野草とか、他の茶葉のカルスを出せないかってね。もう練習の日々ですよ。
ミトラス君がね、怒るんですよ。
『それ産地偽装だろ! やめなよ!』って。
もうね、こんな短期間に連続で怒られたの、初めてでしたよ。でも考えてみて欲しいんですよ。
幾ら俺が自分の身を削って出して、実際に消費以上に魔力が回復する薬草、そのお茶を作れたからといっても、それを言う訳にいかないし、他の人にも効果があるかは未知数な訳でして、いわばこれ人体実験なんですね。
でも考えてみて欲しいんですよ。魔法少女は皆して正体隠しますよね。現地の人間がなってるなんて言わないでしょう。つまり魔法少女だってみんな産地偽装なんだよ。サンタクロースだってそう。
だからこうしてバレない様に工夫し、何とか周りに勘付かれないよう、一ヶ月努力してきたんです私は。
俺の努力って、周りに気付かれない努力が八割で、お客を呼び込む努力が一つもないね。それじゃあ誰も来ないわけだね。
あるのは食べ過ぎると腎臓によくない窒素たっぷりキャンディと、人体実験用の薬草茶。これじゃあまるで俺が悪い魔女みたいじゃない?
「一段落ねえ、サチコお茶頂戴」
「ほいよ、どれがいい」
「コーヒーの葉っぱのお茶」
南が紙コップを手に薬缶の中身を注ぐ。お前が一番の食わせ物だったんだよなあ。
アガタは家が飲食店だし、料理部の連中も気付くかと思ったら、寄りにもよってこいつがいきなり、味の銘柄を言い出したから、俺は飲みたくもない野草茶の飲み比べなんてことをする羽目に。
「うーん、コーヒーって焙煎するものだけど、葉は水出しのほうがいいわね」
「いや、ドリップ用意してないけど」
「私は飲んだことあるから」
ああそう。そういえばお前ってハイソの村の出の者だったっけ。すっかりその設定忘れてたよ。
「柿の葉茶ちょうだい」
先輩が風属性、南が光属性と。タダだと思ってぐびぐび飲んでるけど大丈夫かな。回復している感じは、見て取れるんだけど。
「それ美味いか」
「自分で淹れたんでしょ。自信持ちなさいよ」
「いや、自信っていうか、単純にそこまでお茶が好きじゃ無いんだよ」
「じゃあなんで思いついたの」
「みなみんはまだ知らないのか。たまに『私これそんなに好きじゃないんだけど』っていう、閃きというかお告げみたいなものが、降って来ちゃうことがあるんだよ」
閃いたアイディアが自分の好みじゃないとき、自分の脳がどういうスパークの仕方をしたのかと、首を傾げることはたまにある。愛同研と連盟部員たちはそんな連中ばっかりだ。
「元々そんな宣伝なんかしてないし」
「割と手間隙かけたんだけどな」
「余ったら後で皆して飲めばいいのよ」
うーむ。『飲めるけどおいしくない』みたいな予防線を、張っておいたほうがいいのかな。不味いかも、ではなく不味いと分かっていれば、客も飲んでみようという気になるか。
「野草というのがいかんのかな」
「当然いかんと思うよ」
「衛生的じゃないものね」
一応最悪の場合に備えて、解毒効果も持たせてるんだけどなあ。肝心の食中毒とかOBの報告も無いし、平和だけど湿気てんなあ。
「毎日ちょっとずつMPを消費したというのになあ」
「いっそ性格診断でも置いて見る」
そうか、相手の属性や適正が分かれば、相手にとってどのお茶が美味しいか、言い換えればどのお茶を誰に薦めたらいいのかが、分かるということだな。
「分かるかそんなん」
「ですよねー」
しかし一考の余地はある。来年はそれでやってみようかな。やり方が分かればね。
誤字脱字を修正しました。
文章と行間を修正しました。




